7話
朝食を終え、ギルドに向かうと昨日の受付の女性がバタバタと走ってきた。
「アバラさん、おはようございます!昨日は自己紹介もできなくて申し訳ありません。この冒険者ギルドで受付をしています。ルイシュと申します。どうぞよろしくお願いします」
「あぁ、わざわざ丁寧に悪いな。知ってると思うがアバラだ。アバラリュウト。よろしく」
不必要にペコペコ頭を下げてしまうのはいくら筋金入りのヤンキーでも元の世界の名残だろうか。
「クエストの前にちょっとご報告がありまして、少しお時間よろしいですか?」
「あぁ、大丈夫だ。報告?昨日喧嘩したのマズかったか?」
あはは…と愛想笑いするルイシュ
「ご報告はその件ではなくて、昨日喧嘩された3名の【ブロンズ級】冒険者の方々のことは覚えていると思うんですが、その3名全員のサブ職業に【ヤンキー】が発現されたんです」
「えっ…」
場所を変えてギルドの奥の応接室に通された。アバラ達はテトラにも同じようにヤンキーが発現したことを伝えた。
「それでは、計4名が昨日のうちにサブ職業【ヤンキー】を発現したことになりますね…」
「ねぇ、アバラ。ヤンキーって人に感染したりするものなのかしら…」
「んなわけねぇだろ。別にその3人も特に大きな変化とかないんだろ?」
テトラはリーゼント3人衆を想像し、そして自身がリーゼントになった姿まで想像してしまう。
「うっ…うっ…アタシもう、お嫁に行けない…」
「急にどうしたんだよ!?」
「まぁ、3人に異常があるかと言われればそんなことはないのですが…」
「だろ?考えすぎだって、テトラ」
「しいて言うなら3人とも喜んでサブ職業を【ヤンキー】に変更したくらいですかね…」
テトラの目から涙が溢れる。
「やっばりぃぃやっぱりおかしくなっちゃうんだぁぁぁぁ!!そのうち嬉々としてあの変な頭にするようになっちゃうんだぁぁぁぁ!!!」
「ごめんなさい!語弊がありました!【ヤンキー】なんですが、凄くパラメータの補正が優秀なんです!」
「ぐすっ…どういうことぉ…?」
「パラメータの補正?」
「はい。職業には種類によってパラメータに補正が入るものがあります。例えば【剣士】は攻撃力や防御力に補正が入り、【魔法使い】には魔力や知力に補正が入ります。簡単に言うと職業に見合ったパラメータが強くなるということですね。同様にサブ職業でもメイン程ではありませんが、補正が入ります。」
まだ泣き止まないテトラをなだめながらアバラが質問する。
「ってことは【ヤンキー】にしてると強くなったってことか」
「えぇ、主に攻撃力、防御力にかなりの補正が入り、敏捷にも僅かにですが補正が入っています。同じような補正が入る職業はなくはないのですが、昨日も申しました通り、サブ職業を手に入れるには努力も運も必要です。これほど近接職向きなサブ職業が気づかぬ間に手に入っていたとなると、本人からすれば宝くじに当たったようなものです」
「一つ聞きてぇんだが…たまたま運よくこの4人が【ヤンキー】の適性があって簡単に発現したって可能性は…」
テトラが「そんなっ」とまた涙目になっている。
ルイシュは首を振りながら答える。
「まず、ないと思います。ギルドの見解としましては【ヤンキー】もしくはアバラ様に原因があるのではと考えています」
テトラが首が取れんほどの勢いで首を縦に振る。
「そうよ!こいつか【ヤンキー】かその両方がおかしいんだから!アタシに【ヤンキー】の適性なんてないもん!」
「サブ職業を持つ人に師事してサブ職業を発現する場合もありますので、アバラ様以外の方と接することで【ヤンキー】を発現する人が現れましたら職業そのものの特性という可能性が上がりますね。」
「俺は別に【ヤンキー】の師匠になった覚えはないんだが…」
「それだとやっぱり発現っていうより感染に近いんじゃないの…?」
テトラの中のヤンキーの概念がどんどん歪んでいく。
「一応特殊な職業として【料理人見習い】のようなサブ職業にしか発現しない見習い系というものがありますが、こういった職業は発現しやすく、【賢者】のような上位の職になると人生を賭してようやく発現するかどうかと言われています。つまりは職業ごとの発現のしやすさには差異があるということです」
「ってことは【ヤンキー】が見習い系みたいに発現しやすい職業って可能性はあるのか」
「いや、アタシが【料理人見習い】発現した時結構大変だったわよ?酒場で一か月バイトしてようやく発現したんだから」
「見習い系が発現する場合も早くとも一週間程度はかかることがほとんどで…師事することもなく単独でともなるとより時間がかかります…」
コホンッとルイシュが咳をして話を続ける。
「ともかく、ギルドとしましては実力のある方が増えるのは良いことだと思いますので、特段問題があるとは考えていません。生活苦でメイン職業が戦闘職ではないのに冒険者を始めた方は優秀なサブ職業を喉から手が出るほど欲しがっていますし。あ、もちろんギルドから【ヤンキー】について情報を出すことはありません。…広がってしまうのも時間の問題かもしれませんが…」
「まぁ、別に減るもんじゃなし。俺も隠してるわけでもないからどうなっても構わねぇよ。もし【ヤンキー】を教えてくれって言われても困るけどよ」
「そう言って頂けると助かります。ギルドで隠ぺいするにも無理がありますから…」
3人そろってため息をつく。
「じゃあ、帰るか…」
「そうね…って違うわよ!クエスト受けるんでしょ!?」
「でしたら、ギルドに入ってすぐの掲示板に本日のクエストは貼ってありますのでそちらからお選びください。私は報告書を出さなければならないので一旦席を外させて頂きますね」
そういってルイシュは席を立つ。続いてテトラが席を立つとアバラは出されていたお茶を一気飲みしてそれに続いた。
「これがクエストかぁ…」
アバラが立つ目の前にはクエストの概要が書かれた紙がピンで止めてある掲示板があり、まだ早めの時間ということもあり、掲示板の前は冒険者たちで賑わっていた。
クエストが書かれた紙にも数日経過して誰も触っていないのが分かるような、受けるべきでないと思えるクエストや、何度もちぎっては戻された跡のあるクエストもある。恐らくは受けようと持って行った後、受付で説明を聞いたら受ける気をなくすようなクエストだろう。
バツ印がいくつもついているのは失敗者が出たクエストだろうか、もうバツを書くスペースも無いようなおどろおどろしいクエストもあった。
「煉獄うさぎ討伐クエスト…【ミスリル級】以上求ム…」
「煉獄うさぎ…名前を聞くだけで恐ろしいわ…」
テトラは腕を抱えて震えている。
「うさぎ…なんだよな…?煉獄…?」
「そんな恐ろしいモンスターのことは忘れましょう。アタシたちが見るのはこっち。」
テトラに引っ張られて連れていかれた先は初心者用おつかいクラスのクエストのコーナーだった。誰でもできるような簡単なおつかいから、スライム、ゴブリン程度の弱いモンスターの討伐まで。どうやら冒険者ランクに関係なく結構みんな受けているらしく、小遣い稼ぎや暇つぶし、ボランティア感覚でみんなやってるらしい。
「一応宿代とか、生活用品も買わなきゃいけないし、初心者クエストでもそこそこおいしい奴を探しましょ」
「俺、物価とかよくわかんねぇんだけどよ、この銅貨1枚で何買えるんだ?」
「銅貨1枚でパン一つって感じかしら。銀貨は銅貨10枚分。金貨は銀貨10枚分ね」
おおよそ銅貨一枚100円だろうか。銀貨は千円札、金貨は1万円札。覚えやすい。
宿代は一日銀貨2枚。朝食もついてかなり良心的だが、連泊が前提の設定価格らしい。
「お、このクエストとかどうだ?【先日の雨の為、西の平原にスライム大量発生討伐求ム】スライムの体液を収集すれば別途報酬上乗せだってよ」
「あースライムかぁ。ちょっと面倒くさいけどいいんじゃない?」
「面倒なのか?」
「確実に服汚れるからねぇ~。まぁ水で簡単に落ちるから水筒を多めに持っていきましょ」




