6話
「あーあ飲みすぎちゃった~。まぁあいつらが酒代まるまる出してくれたからよかったけど」
「なんだよお前も奢ってもらってたんか」
ちゃっかりしている。時間はすっかり夜だったが、ギルドから宿に続く道は飲み屋や宿屋の明かり、武器屋の金槌を叩く音で街が息づいている事を確かに感じることが出来た。
「いい街だな」
「そうね。まぁ嫌なこともたくさんあるけど、そこも含めていい街だと思うわ。さぁ、そろそろ着くわよ」
案内されたのは繁華街からは少し外れた場所にある、古そうだが綺麗な宿屋だった。
「おばちゃーん、ただいま!」
「あらテトラちゃん遅かったわね。おかえりなさい。あら、その人は誰だい?ずいぶん派手なボーイフレンドだねぇ。おばちゃんそういう趣味はあんまり関心しないわぁ」
「そんなんじゃないってば!この人はアバラ、アタシとパーティ組むのよ。今は文無しだから宿代はアタシにツケといて!」
「うっす!お世話んなります!」
勢いよく頭を下げるアバラをみておばちゃんは楽しそうに笑う。
「なんだか目がチカチカするわぁ。じゃあ部屋はテトラちゃんの隣ね!案内したげて」
「はーい。アバラ行くよ!」
「あー待ってくれ、頭洗いたいんだけどよ、どうすりゃいい?」
立派にそそり立つアバラのリーゼントを見てテトラは苦笑する。
「そりゃそのまま寝たら気持ち悪いか。ちょっと待ってて、アタシの石鹸貸したげる。明日にでもアンタの生活用品揃えないとね。」
「あんた、アバラって言ったね?これ使いな。タオルだよ。外に井戸があるからそこの水で流しな。終わったら井戸の横にある桶の中に突っ込んどいてくれたらいい。」
「おぉ!おばちゃんありがとう!じゃあ流してくるわ!いやぁ流石に砂やら何やらで気持ち悪かったんだよなぁ…」
そういって出て行ったアバラを見送った後、おばちゃんがテトラを捕まえる。
「それで!あんた本当にそういうんじゃないのかい?」
「違うわよ!そういうのに見えるの?だってあれだよあれ!」
そういうと身振り手振りでアバラのリーゼントを表現する。
「あんた、ちゃんと見てないんだねぇ!あの子、相当かわいい顔してるわよ!」
「ええ…うそだぁ…それに顔がよくってもあの頭はちょっと……」
「まぁそれもそうねぇ…」
そんな話をしているとずいぶんと眠そうな目をしたアバラが戻ってきた。
「う~す、井戸水、ありやとうごぜぃやしたぁ~」
「う、うそ…アバ…いや、リュウくん……」
「あ?なんで急に下の名前…まぁいいや。俺、寝る時以外髪下さねぇから髪下すと条件反射で眠くなんだよなぁ…ふぁぁあ。んじゃおやすみぃ~」
これ程見た目で損をしていた人も少ないだろう。髪を下したアバラはまさに水も滴るいい男であり、その眠たげな瞳と日中の姿とのギャップも相まってそれはそれはイケメンになるのだ。
バタン、と部屋に戻っていったあと、テトラは自分のほっぺたをギュっとつねった。
「…ほら、いい男じゃないか」
「なんだろう、この感じ…なんかすごい、負けた気がする」
その夜テトラはよくわからないがあまり寝れなかった。
なんだか昨日は凄く疲れていて、ベッドに入ってからはすぐに寝てしまったからこんな大変な目にあったのに一日を振り返る時間もなかった。
ええっと、ヤクザと喧嘩してたんだっけ、流石に死ぬかと思ったぜ。気づいたらいきなり知らない世界に来ててよ。拒否権もなく連れてこられてイライラしてたんだっけ。
そんでキレて暴れて地下牢行き。あんときゃ俺もずっとガキのままだなって思ったなぁ。
んでイライラして暴れてたらなんかスキルが生えてきて、牢屋ぶっ壊して逃げたんだよなぁ。
キサラギのやつはうまくやってくれただろうか。あの場で交渉できる可能性があったのは勇者であるキサラギだけだ。俺は細かいこと考えらんねぇけど、たぶんあいつならうまいことやってくれたんじゃねぇかなぁ。勘だけどな。
そんで街に降りてあの小うるさい娘、テトラに出会って…パーティ組むことになって…。
ドンドンドンと強めにドアが叩かれる。
「アバラ、起きてる?開けるわよー?」
無遠慮にドアが開かれテトラが入ってくる。
「朝よ、もうおばちゃんがごはん作ってくれてるから…ってまだ寝てんの?」
「う、ううん…俺、低血圧なんだよ…朝は苦手なんだ…」
「なーにアンタみたいな男が繊細な事言ってんのよ早く起きて…って、リュウくん…」
「あ?だからなんで下の名前…まぁいいや。すぐ降りるから、先行っててくれ」
「う、うん…」
走って部屋を出ていくテトラ、どたどたと階段を降りる音と「だぁぁぁ!!!調子狂うぅぅぅぅ!!!」という声が聞こえてくる。
「なんなんだよ…ったく」
そう呟くと身支度を整えて部屋を出て行った。
しっかりと髪をセットし一張羅の特攻服を羽織り階段を降りるとテトラがゲンナリとした目でアバラを見つめた。
「お・は・よ・う」
「なんだよ、朝から変だぞお前」
テトラは、「はぁ…」と大きめのため息をついて朝食のハムをフォークでつつく
「やっぱアバラはアバラよねぇ…」
「それより今日はよ!クエスト行くんだろ!いやぁ楽しみだぜ!」
そういうとガツガツと朝食を食べ始めた。洗濯物の束をかかえたおばちゃんが階段を降りてきて挨拶をする。
「おや、また頭セットしたんだねぇ。悪いこと言わないからそれやめといたほうがいいわよ?」
「いーや、やめないね。これは俺のアイデンティティなんだ」
それを聞くとおばちゃんは豪快に笑いながら外に洗濯物を洗いに行った。
「あいで…?まぁよくわかんないけど、アンタそれセットするのにどうやってやってるのよ」
テトラが尋ねる。
「いや、たまたまこっちの世界に飛ばされてくるときにポケットにワックスと櫛入れててよ。しばらくはそれで何とかなるんだが、こっちでも髪をセットできるもん探さないといけねぇんだよな」
アバラは「本当はヘアアイロンとかも必要なんだけどよー」などと言いながらどこから出したのか手鏡を使って髪のチェックをしている。
テトラとしてはやめてほしいような、そうでもないような複雑な心境なのだが、アバラとしては知ったことではない。
「うーん、それなら化粧品とか石鹸とか売ってる店に行けば調達できるかも。ただ、アンタの頭ほど立派に立ち上がる整髪料が売ってるかは知らないわよ?」
「じゃあクエスト終わったら連れてってくれねぇか?」
「はいはい…じゃあその前にパーティ申請送っとくから受理してもらっていい?」
そう言うとステータスプレートを操作してパーティの申請を送った。
「もう恥ずかしくねぇのか?」
わざとらしくアバラがいじる
「やめてよ、考えないようにしてるんだから…って、なにこれ」
パーティの申請を受理しつつ、パンを片手にアバラが覗き込む。パーティであれば自身のステータスプレートからパーティのステータスを見ることが可能になり、横から覗き込む事もできるようだ。
「魔法使いLv7…」
「ちょっと、読み上げるのはやめて…そこじゃなくて、これよ」
テトラがワナワナと震えながら指をさした先にはサブ職業一覧があり、その中にはなんと【ヤンキー】があったのだ。
「おぉ、突然目覚めることがあるとは聞いてたが、まさかテトラに【ヤンキー】が発現するとは…」
「ちょっとこれアンタのせいじゃないでしょうね!嫌よアタシ!アンタみたいな頭になるの!」
なんとか消せないかとステータスプレートをタップしたりこすったりするが消えるわけはない。それどころか間違ってサブ職業に【ヤンキー】をセットしてしまった。
「ひぇ…!!」
バッと頭を抱えるテトラ。それを見てアバラは腹を抱えて笑う。
「だっはっはっは!!いくら何でもサブ職業変えただけでリーゼントにはならねぇだろ!俺はちゃんとセットしたからこのヘアーになれてんだぜ?」
「そんなの知らないわよ!アタシ、アンタ以外のヤンキーなんて知らないんだから!」
そそくさとサブ職業を元の【料理人見習い】に戻す
「なんで料理人見習いなんだ?」
「……火属性攻撃に補正が入るから…強いサブ職業他に持ってないし…」
「【ヤンキー】にしといたらいいんじゃないか?」
「…嫌よ」
「なんで」
「察して」




