5話
テトラに渡された用紙に記入して冒険者ギルドの受付に持っていく。用紙といっても諸々の規約が書いてあってそこにサインするだけの簡単なものだ。
「新規の冒険者登録ですね?職業とサブ職業を答えられる範囲でお答えください。近接職とか、魔法職ぐらいにザックリとした情報で結構ですよ」
ニコニコと受付の眼鏡をかけた女性が教えてくれる。制服っぽい服を着ていて髪も整えられている。綺麗な事務員の女性、という感じは前の世界とも共通の概念なんだろう。
「職業は…なんかネタ職らしいんだけどよ【ヤンキー】ってんだ。多分近接職だ。サブ職業?はわかんねぇ」
「なるほど…未解明職ですね、大丈夫ですよ。ここだけの話、戦闘職じゃない方の登録も多いんです。それが知られると実力はあっても正しく評価されない場合があるので、あえて冒険者ギルドでは詳しく聞かないんです」
この世界においてのプライバシーというのは思ったよりちゃんと守られているらしい。
「よく考えられてんだなぁ…んで、サブ職ってなんだ?」
テトラの方を見ながら質問する。
「ごめんね~今はまだ関係ないと思って説明してなかったわ~」
そこまで悪びれる様子もなくひらひらと手を振っている。
「それでしたら私の方から簡単に説明いたしますね。サブ職業というのはメインの職業と違い、後天的に覚えることが出来る職業です。基本的にはメインと差はありませんが、熟練度の進みがとても遅いのでメイン職業と同じくらい鍛えるには膨大な時間が必要となります。」
「何にでもなれるのか?例えば勇者とか」
「勇者のような一部の珍しい職業がサブに発現したという記録はありませんね。サブ職業が発現する条件というのもまだちゃんと解明されていなくて、例えば【剣士】のサブ職業に就きたい場合、【剣士】の職業を持つ人の元で数年修行してやっと発現する場合もあれば、庭で棒切れを振っていたらいつの間にか発現している場合もあるんです。“個人の才能次第”と解釈されています」
「じゃあ俺もいつの間にかサブ職業が発現する可能性があるってことか」
「ええ。サブ職業は1つしか設定できませんので、良い職業が発現したら常にそれを設定しておくことをおすすめします。コロコロ変える方もいなくはないですが、熟練度を上げるのが大変ですからね」
そう言うと受付の女性はかまぼこ板程の木の板を出してきた。
「ではこちらが冒険者証になります。最初は【ウッド級】木の板ですね。こちらは初心者マークの様な物ですので、簡単な依頼をこなせばすぐに【アイアン級】に格上げできますので」
「研修中です~ってことか…」
木の板を天井の明かりで照らしながらぼやいた。
「今日はもう遅いですから、明日またクエストを受けに来てください。初心者用のクエストは人気がありませんから、朝一で来られなくても大丈夫だと思いますよ。」
「じゃあ今日は私が使ってる宿に泊まりなよ。一旦お金は払っといてあげるから。」
「テトラの姉御たすかりやす~」
わざと出っ歯になって話すアバラを嫌そうに見る。
「やめてよ、ほんとにそういう関係に見えるでしょ」
「受付が終わったらさっさとどかねぇか~!」
話が終わるが早いか、酒に酔った男三人組がテトラとアバラを押しのけ受付の女性に絡む。
みたところ口説いている様だ。女性は明らかに迷惑そうにしているのだが、本人たちは気づいてない。
「ま、まだパーティの説明がですね…!」
「そんな【木っ端】のガキなんぞどうでもいいだろ~?ねぇちゃんもこっち来て一緒に飲もうぜ~」
どうやら【木っ端】というのは【ウッド級】の蔑称らしい。
「なんだ兄ちゃん!面白れぇ頭してんじゃねぇか!ソーセージみてぇだな!がはははは!!」
プチンと音がした。テトラが「あ~あ」という顔をしてそそくさと離れていく。
「てめぇのはらわたでソーセージ作ったろかあぁん!!?」
「なんだ兄ちゃん【木っ端】のくせに俺たち【ブロンズ】冒険者に喧嘩売ろうってか?」
「ちょっと、やめてください!彼はまだ登録したばかりで!」
受付の女性が止めに入るがそれによってむしろ男達が逆上してしまう。
「おいおい女に庇って貰ってうれしいなぁ兄ちゃん?」
「お家帰って慰めてもらえよ、さっきのガキんちょによ。がっはははは!!」
思わぬところでテトラに飛び火し、ハイライトの消えた目で杖を構え始めるテトラだったが、アバラの様子を見てそっと杖をしまった。短い付き合いではあるが売られた喧嘩は借金してでも買いそうなのはなんとなく察していたし、実力は十分に見た。テトラの分もしっかり痛めつけてくれることだろう。
それにギルド員同士の喧嘩で殺し合いになることはまずない。そんなことをすればギルドは速攻で追放。食い扶持を無くすのは自分なのだから。
「外でやるんだよ~?」
「おう…ついてこいやズッコケ3人組。そのクセェ口二度と開けねぇ様に教育してやらぁ…!」
「ちょっとだめですよ!彼らはここの中堅冒険者で…!」
「いいからいいから」
そのまま「吐いた唾飲むんじゃねぇぞ!」とか「死んだなクソガキ!」とか言いながら出て行ってしまう。
テトラは落ちついた様子で席に着き、エールを仰った。
「おかわり貰える?」
「いやいや、いいんですか?殺されはしないと思いますけど、彼ら本当に粗暴な人たちですよ!?」
「まぁ殺しはしないでしょ~あいつもそのくらいの分別はついてるだろうし」
「え?」
「え?」
待つこと数分。怒号がやんだと思ったら顔を腫らしたアバラが戻ってきた。
「俺にもおかわりくれ」
「もうそろそろ持ち合わせがキツイんだけど~」
「外にいる奴らにツケといてくれ」
何事もなかったように席に着き、エールを飲み始める。腫れた顔は痛々しく、沁みるエールの味を噛み締めているようだ。
「アバラさん大丈夫ですか?あーあーそんなに顔を腫らして」
「思ったより強かったわ…」
ちょんちょんとテトラが受付の女性の肩をつつく
「おねーさんおねーさん、心配するなら相手が逆よ」
そう言うと先ほどの3人組が明らかにアバラよりボロボロの風体で店に入ってきた。
「お前らのツケで飲ましてもらってるから」
「…おう、好きにしろや【ルーキー】」
「…え?……えぇ!?」
男の友情とは案外単純なものである。殴りあって認め合ったのか、アバラと3人の男達はあっと言う間に仲良くなってしまった。
「兄ちゃんほんと強かったぜぇ。強ぇ男は酒にも強いんだ、ほれもっと飲め!」
「いやいやあんたらも大したもんだぜ、俺の顔面殴ったやつはそんなに多くないぜぇ?いいパンチだった!」
受付の女性に軽く【ヒール】をかけてもらい男共は上機嫌である。先ほどまでの険悪なムードが嘘のように飲めや歌えやどんちゃん騒ぎである。
「アバラ、そろそろいくよ~。明日からクエスト受けるんだから、そろそろ帰って休まないと。」
「おう~そうだなぁ!じゃあな!ごっそさん!」
「おう!おめぇならまたいつでも奢ってやるぜ!気持ちのいい奴だ!」
若干ふらつきながらも出ていくアバラを見送ったあと、男3人はまたエールを飲み始める。
「いやぁ、久々に骨のあるやつが入ってきたもんだ」
「ありゃ異世界人だろ?レベルだって高くないはずなのに強すぎだぜ」
「ステータスを聞くのは野暮って奴だが、一体どんなステータスしてんのか気にならねぇのは嘘だな」
そういいながら自分のステータスプレートを眺める
「ん?あんだこれ?」
「あ?どうした。飲みすぎてステータスが倍に見えるか?がはは」
「いや、そうじゃねぇよ」
もう一人も自分のステータスを表示して異常に気づく
「お、おい、これって…」




