52話
「では、アルトリオ国との交易路を塞いでいる原因の解明及び解決がこの度の依頼なのですね?」
旅の準備を整えながらセシルがアバラに聞く。
「あぁ、なんか川沿いにある山道が放っておくと木が勝手に積まれて塞がっちまうみてぇで、片付けても片付けてもまた塞がっちまうから今は諦めて迂回路を使ってるらしいんだと」
「なんとも不思議な話だな。魔物の仕業か、はたまた何らかの自然現象なのか…」
フェリスが旅の荷物を馬車に詰めながら話す。今回は交易路の復旧に当たるため、現地まではしっかりと舗装された道が続いており、イウラ商会が馬車をレンタルしてくれたのだ。馬車であれば一日もあれば目的の場所まで着くそうなので、簡単な野営の道具などが積んである。
「今回は角馬じゃなくて普通の馬ね。まぁあれは高級品だから仕方ないけど」
「そのかわり魔道具の暖房を貸してくれたからいいとしようぜ」
そうテトラとアバラが話し、馬車に乗り込んだ。馬車の中は魔道ヒーターでほんのりと暖かく、寒空の下でも快適に過ごせそうだった。
馬車に乗って門を出ると、騎士団の一員と思われる者達が馬に乗ってアバラ達と入れ替わりで門をくぐろうとしているのが見え、アバラはそこに見知ったメンバーがいることに気づき声をかけた。
「キサラギじゃねぇか!今帰ったのか?」
先頭の一際大きく白い角馬に跨がっていたのは勇者キサラギその人だった。キサラギ以外は皆普通の馬に乗っているらしい。
「アバラ君!今からクエストかい?」
「おう!それ角馬か?でっかくて綺麗だな!」
アバラが馬車から降り立ち、キサラギが乗る角馬に近づくと、角馬が角のついた頭を振りアバラを威嚇する。余裕をもってアバラが躱すと、イライラしたように尻尾を振る白い角馬。
「そいつ、めちゃくちゃ気性難でキサラギ以外乗せないんだよ。女や子どもには比較的優しいんだけど、男が近づくとその通りだよ」
後ろから馬を下りてやってきた勇者パーティのミサキが説明する。
「なんだ、勇者様用ってか?気取った馬だねぇ」
アバラがからかうとキサラギが苦笑する。
「あまり特別扱いは得意じゃないんだけどね…優秀な子だから使わないのももったいないし、遠征の時には練習もかねてこうして乗せてもらってるんだ」
そう言い角馬を撫でると、アバラの時とは打って変わってうっとりと目を細める角馬。
「なんかムカつく馬だなこいつは…。そういえば今日は教会騎士の連中は一緒じゃないんだな?」
ふと思ったことを聞くアバラに神妙そうに頷くキサラギ。
「どうも王様の周りの教会関係者が何人かクビになったらしいんだ。王に対する虚偽の報告とか背信行為があったとか色々言われてるけど、詳しくはわからない。そのせいなのか最近は神聖騎士との合同演習もなくなったんだよね」
「アタシは今の方が自然だと思うけどね。神聖騎士団も王国騎士団も別の組織なのにちょっと仲良くしすぎだよ。今までがおかしかったんだよ」
「もちろん有事の時に協力する為の訓練はしておくべきだと思うけどね。確かにちょっと変だったかな、まるで何かと戦う準備をしているような、そんな気がしちゃった」
そう、キサラギとミサキが話してくれたことにアバラが感謝していると、自分たちが先急ぐ行商人の道を遮ってしまっていることに気づき、慌ててその場を離れた。
すれ違いざまにそれまで黙っていたタカスギが声をかけた。
「教会には気をつけろ。キサラギは黙っていたが、何やら妙な胸騒ぎがするらしい」
「胸騒ぎ?」
「“臭い”そうだ。キサラギは何か悪意を持った人間と話した時、そう言う事がある。あいつは何かそういう能力を持っているようだ」
勇者のスキルなのかアバラには想像することしか出来なかったが、貴重な情報を教えてくれたタカスギにラヴァグラムとグラトニアが戦争をするつもりなんじゃないかという噂が流れていることをかいつまんで話した。
「うむ…俺たちも行く先々の村でそのように噂されていることを聞いている。勇者パーティの中だけでも火種になるような行為をしない様に極力気を使っているつもりだ」
「なんだ、流石に知ってたか…セシルも知らなかったそうだし、王家でも全員がそう企んでる訳じゃないと思うんだが…用心しとけよ」
そうして短いながらも有意義な情報交換を済ませたアバラは走って馬車に追いつき、テトラ達と合流した。
教会には気をつけろ、そう言い残して殺されてしまったガラムを思い出し、この国の抱える闇の深さを再確認したアバラだった。
道中これといった問題もなく街道を進んだアバラ達は、野営を挟んで次の日、目的の川沿いまで後一時間程の場所まで来ていた。そこで不思議な光景を目にする。
「貝…?」
「貝ね…」
「貝ですね…」
「貝だな」
街道のど真ん中で3mはあろうかという巨大なハマグリの様な貝がオークの群れにバコバコと殴られている現場に遭遇したのだ。オークたちはアバラ達に気づく様子もなく一心不乱に貝を殴り続けている。
「な、なんなんだこれは…」
「とりあえず、オークは倒す?こんなとこにいられたら邪魔だし…」
開いた口がふさがらないアバラにテトラが提案する。
「そ、そうだな…俺はアバラだ、夜露死苦…」
気が乗らない【名乗り】であったが、オークのヘイトを集める事には成功し、手慣れた相手なので簡単に処理してしまう。
「それで…これ、どうする?」
見上げるような大きさの貝を囲み、仲間達と見分する。
「…アタシが炙ろうか?もしかしたら食べれるかも…」
テトラがそう呟くとビクゥッ!と貝が震える。
「今コイツリアクションしなかったか?おーい、なんなんだお前は!邪魔だからどいてくれ!」
アバラが貝をガンガンと叩くと貝の口がそーっと開き、中から声がした。
「す、すみません!どきます!どきますから!叩かないで!」
そう言うと、すぅっと貝が消え、中から気弱そうな青年が出てきた。
「た、助けて頂いてありがとうございます…」
「人だったか…それはスキルなのか?見たことも聞いたこともないな」
フェリスが興味ありげに男に話しかけると、なんとも気まずそうに男は呟いた。
「はい…へへ…ネタ職なもんで…」
事情を聴くと、アルトリオでうだつが上がらない冒険者をしていた男は自分と同じネタ職で活躍する男の話を聞き、その男に会えば自分も変われるかもしれないと思い、こうしてグラトニアを目指して歩いてきていたところ、オークの群れに見つかってしまい立往生していたようだ。
「アルトリオからの交易路は塞がっていると聞きましたが、通れたのですか?」
「ええ、塞がっているとは言っても馬車では通れないってだけですから。人一人通るくらいならなんとかなりますよ」
アバラがそのネタ職の冒険者だと聞くと、その男は大喜びで「邪魔にならないようにしますから是非旅の共にしてください!」と言うと強引についてきてしまった。
馬車に乗るのは悪いと言い、目的地までは小一時間だからと小走りでついてくる始末だった。金がないからと歩いてグラトニアに向かうくらいなので根性はあるのかもしれないと思うアバラであった。
流石に可哀想になったアバラ達は男を馬車に乗せてやり話を聞くことにした。
「ネタ職って言ってたけどなんて職業なんだ?」
「あ、【貝】です…」
「アバラの【ヤンキー】もわけわかんないけど、【貝】もそれはそれで意味わかんないわね…」
「へへ…ガキの頃からよくからかわれたもんで…しかも僕、カインって名前なんですよ…貝のカインです。こんなの馬鹿にされない方がおかしいでしょ?」
そう自嘲気味に笑うカインを悲しい目で見つめるセシル。
「それは、さぞ辛い幼少期を過ごされたでしょうね…」
「そういえば、ネタ職ってよく言われるけどよ、俺はコイツに出会うまで他のネタ職ってのは聞いた事なかったんだが、どんな奴がいるんだ?」
ふと湧いて出た疑問にフェリスが答える。
「有名なところで言うと【にんじん騎士】か?とは言っても有名になったらネタ職ではなくなってしまうから微妙なところだが」
「【にんじん騎士】!?」
意味が分からないフレーズに驚くアバラにセシルが続ける。
「ネタ職と呼ばれる職業は正しくは未解明職と呼ばれていて、前例が極端に少なく、どんな職業かわからない物の俗称ですからね。【にんじん騎士】様は元ネタ職と言われるべきでしょうか?地面から鋼鉄のように固くて大きいにんじんを生み出してそれをランスにして戦うそうですよ?かの騎士様はどんな角馬も自在に乗りこなし、あの有名な煉獄うさぎから無傷で逃げおおせた唯一の人と言われています」
「煉獄うさぎ…あの恐ろしい化け物から生還するだけでも奇跡よ…」
「だからなんなんだよ煉獄うさぎって」
アバラの頭の中では煉獄という恐ろしい言葉と、うさぎという可愛らしい生き物がどうしても結びつかない。
「と、とにかく僕はアバラさんに憧れてグラトニアに向かってたんです!貴方を見てたらネタ職でもやっていけるって自信になる気がするんです!」
「そうは言われてもなぁ…」
「まぁついて来るぐらいはいいんじゃない?せっかくだし今回の依頼を手伝って貰いましょ!」
勝手に決めてしまうテトラだったが、カインもそれでいいそうで、少しでもアバラから何かを得ようと息巻いている。
「まぁ、何も見つからなくても責任はとらんからな。それでいいなら好きにしてくれ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
そうして臨時のパーティーメンバーに【貝】のカインが加わったのだった。




