50話
翌日冒険者ギルドに向かうと受付嬢のルイシュに声を掛けられた。
「アバラさん、今日も早いですね。イウラ商会からクエストが来ていますよ。あれ、その方は…フェリスさんですか?」
「うむ、彼らとパーティを組むことになったからよろしく頼む」
「それはよかったですね!フェリスさんもシルバーですから実力も申し分ないですし、パーティのバランスも悪くないと思います。今日はご一緒にクエストにと言う事でよろしいですか?」
「あぁ、イウラからのクエストってなんだ?」
イウラ商会からのクエストはポルコからの採取依頼で、ピリカリの実というのを集めてきて欲しいとのことだった。
「これ、ポルコさんが住んでた山の近くよね?だからそこに実があることを知ってたのかしら」
「これなら今日のうちになんとか帰って来れそうですね。フェリスさんと初めてのクエストには丁度良いのではないでしょうか」
テトラとセシルが続けて話す。前回ゴーレムと出会った場所の近くではあるが、あれはかなりレアな状況だったと思われるので、それほど強い魔物も出ないだろうと言う事だそうだ。
「じゃあさっさと準備して行ってくるか!」
「チュー!」
アバラのリーゼントの上でハム助が元気よく鳴いた。
「ピリカリの実ってどんな木の実なんだ?」
目的地の森へ向かう途中の道でアバラがそんなことを尋ねるとフェリスが答えた。
「真っ赤な2~3cmくらいの実だ。そのままでも食えるが、乾燥させて香辛料として使うこともあるらしいぞ。私はあまり得意じゃない」
フェリスはピリカリの実の匂いを思い出したのか、顔をしかめてフルフルと首を振った。
「この森の中に群生地があるらしいわよ。すぐ見つかるといいけど…」
「あぁ、それなら任せてくれ。あの実の匂いなら近くにあればすぐわかる」
「おお、流石獣人だな。やっぱり鼻がいいのか」
「当然だ。私は猫系だから犬系程じゃないがな。その代わり犬系よりも単独の戦闘力は高いから期待してくれ」
そう自信ありげに答えると先頭に立って森に入って行き、アバラ達もそれに続いた。
30分程歩き回った頃、フェリスが立ち止まった。
「止まれ、この臭いは…コボルトだな。コボルトは私より鼻が良い、私たちはバレてると思っていいだろう」
大型犬がそのまま立ち上がった様な姿をした魔物、コボルトはこちらが気づいた事を察したのか森の中からゾロゾロと出てくる。
「まだ隠れてるぞ。一部だけ姿を現して誤魔化してるんだ」
「OKだ、ヘイト取るぜ。俺はアバラだ!夜露死苦!」
【名乗り】を上げヘイトを取ると森に潜んでいたコボルトも飛び出してくる。
「フッ!」
アバラが正面のコボルトを相手している内に背後に回り込んだコボルトの首を小剣で切り落とし、さらにテトラに近い個体に切りかかるフェリス。フェリスの職業【獣剣士】は獣人にしか発現しない特殊な職業で、素早い動きと剣撃を得意とする。
「ナイス!【ファイアボール】!」
コボルトを倒すのに火力はあまり必要ない為、出の速い魔法で倒していくテトラ。
「私も行きます!【ライトアロー】!」
同じく最近習得した光の矢でコボルトを倒していくセシル。セシルは使い勝手の良い攻撃魔法を持っていなかったので、練習していたそうだ。
コボルトの大半が片付いた頃、残りのコボルトを集めて殴っているアバラをみてフェリスが呟いた。
「話に聞いてはいたが…本当に武器も防具も持たないのにタンクをやっているんだな…。場合によっては私がタンクをやるべきかと思っていたのだが、杞憂だったようだな」
「そりゃ最初は理解できないわよね。何も装備してないのに下手なタンクより固いんだもの。それにフェリスがもしタンクをやったとしてアバラよりヘイトを取れると思う?」
テトラが半笑いでフェリスに尋ねる。視界の先では暴れまわる真っ赤なリーゼント男に群がるコボルト達がいた。
「いや、アバラより目立とうと思ったら全身に太鼓でも着けないと無理だな」
「ふっ!…ごっほごほ!」
「どうした、大丈夫か?」
全身に太鼓を括りつけたフェリスを想像して思わずむせてしまったセシルの背中をフェリスが撫でていると、戦いが終わったアバラが戻って来た。
「いやぁ、フェリスがいると戦いやすかったぜ。ヘイトが取れなくてテトラやセシルのとこに行っちまった奴を処理してくれるから安心して背中を任せられたぜ」
「うむ。初陣でいい所を見せられたようだ。魔石を集めて木の実探しの続きといこう」
コボルト達の魔石を抜き取ったあと、死骸を邪魔にならない場所へ置いておくと、ふとアバラが思い出したことを口にする。
「そういえば、あのワイバーンの死骸の時みたいにこのコボルトの死骸のせいで魔物が湧いたりしないのか?」
アバラのいうワイバーンとはアンデッドが多く湧くダンジョンの奥に誰かが故意に放置したワイバーンの死骸のことで、その死骸のせいでそのダンジョンではアンデッド系の魔物が大量生産してしまったという事があった。
「ワイバーンとコボルトじゃ持ってる魔力量が違い過ぎるわよ。コボルトくらいなら魔素帰りを止める魔道具や魔法を使わないとすぐ消えちゃうわ」
「あの時は洞窟という溜まった魔素が逃げにくい場所だったという条件もありましたから、屋外でよくいる魔物が魔素帰りしても殆ど問題になることはありませんよ」
「なるほどなぁ」とわかったのかわかってないのかわからない返事をするアバラにため息をつくテトラと、いつも通りニコニコしているセシルだった。
その後「匂いがする」というフェリスの言う通りに森を歩くと真っ赤なピリカリの実がゴロゴロと実った木が見つかった。
アバラがテトラを、フェリスがセシルを肩車し、木の実を集めていく。
「これ、このままでも食えるんだよな?どんな味がするんだろうな」
集め終わった木の実の山にハム助が降り立って匂いを嗅ぐも「フイッ」としてアバラのリーゼントに帰って行ってしまう。
「一応依頼された物なんだから食べちゃダメよ」
「あいあいっと」
そう、気のない返事をすると木の実のたくさん入った袋を背負って歩き始めるアバラだった。
日が沈んだ頃、街に帰って来たアバラ達はギルドへ報告を済ませ、直接ポルコの所にピリカリの実を持って行った。
「おう、アバラ。さっそく取ってきてくれたか。丁度切らしてた所でな、助かったよ」
「なぁ、それどんな味がするんだ?運んでる途中から気になってしょうがなくてよ」
「おう、食べてみるか?一個くらいええぞ」
そういうとポルコはサッと水洗いしてヘタ部分を切り取るとアバラに投げてよこした。
「お、いいのか。じゃあ早速……おぉ!甘いじゃねぇか!フェリスはこれが苦手なのか?」
パクリと一口で食べてしまったアバラの口の中では芳醇な果物の甘味が広がっているようで、とても美味しそうだ。
「えーいいなぁ。ポルコさん、アタシも頂戴よ」
「テトラ、やめておけ。ピリカリの実はな最初こそとても甘くて美味しいんだが、少し経つと…」
テトラをフェリスが制止するとアバラの様子がおかしくなってくる。
「ガッ!い、痛ぇ!なんだこれ!辛い!!痛い!!うわぁぁぁぁ!!!」
アバラは顔をみるみる赤くすると水を求めて暴れだした。持っていたエールを一気飲みするが収まらずに右往左往している。
「激痛を伴うとんでもない辛みを生み出すんだ。別名【天国と地獄の実】だ」
「早く教えてくれよー!!!」
セシルの水魔法で口の中をザバザバと流すアバラがフェリスを非難し、店の中が笑いに包まれた。
その後唇を真っ赤に腫らしたアバラはフェリスの歓迎会と相成ったのだった。




