49話
「おーセシル!どこ行ってたんだよ。先に注文しちまったぞ」
「いえ、少々立ち話をしてまして…あ、私もエールをお願いします」
セシルが注文したエールをポルコが直接持ってきた。その手には更にアバラとテトラの分も握られている。
「すまんな、坊主。お前、ワシの目を見てキレたんじゃろ。迷惑かけたわい」
「やっぱポルコさんは人の顔をよく見てんだな。なぁに、俺が勝手にやったんだ、それにポルコさんを連れてくる時にきっとこんなことがあっても守ってくれるって言っちまったからな。俺が嘘つくわけにいかねぇよ。な!イウラ!」
そう言って事情を聞いて慌ててやってきたイウラに声をかける。
「そうだね、ごめんなさいポルコさん。いつかはこんなことがあるとは思ってたんだけど、準備が間に合わなかったみたいだ。急ピッチで警備員の準備を進めるからもう少しだけ待ってね」
曰く、穴倉の警備の人員が間に合っていなかったため、常連の冒険者には割引の代わりに何かもめ事があったら対応してくれるようにお願いしていたそうだ。一応アバラ達がいなかったら出るつもりだったと近くで飲んでいた冒険者が言っていた。
「あれ?さっき騎士団と揉めてた獣人の姉ちゃんは違うのか?」
「私のことか?」
アバラが先ほど神聖騎士団に威勢よく突っかかっていた獣人の事を話すとカウンターで飲んでいた女性が振り返った。
「私はフェリス。この街ヘは昨日来たんだ。獣人でも気兼ねなく来れる店があると聞いてきたら同胞の子どもが蹴っ飛ばされているのを見てな。たまらず割り込んだのだ、余計なことをしたかな」
「そんなことはねぇよ。俺はアバラ、アバラリュウトだ。よろしく」
二人は歩み寄って握手すると、フェリスはそのままアバラ達のテーブルへ近づいてくる。
「同席しても?生憎こっちに知り合いはいないんだ。君たちは同胞を大事にしてくれている様だからな。私からも一杯奢らせてくれ」
「よろしく、フェリスさん。アタシはテトラよ。グラトニアには何をしに来たの?」
「フェリスでいい、歳もそう変わらんだろう。旅の目的か…まぁ見聞を広げにといったところだろうか。私はラヴァグラムの出身なんだが、あちらは殆どが獣人の国でね。外の世界を見てみたかったんだよ。そうしてあちこちで冒険者をしながらこの街にたどり着いたというわけだ」
「獣王国、ラヴァグラムですか。それは遠い所からお越しになられたんですね。私はセシルと申します。よろしくお願いしますね」
テトラとセシル双方に挨拶をすると席に座り一口エールを呷ると話を続ける。
「アンタ達の話も聞かせてくれないか?私は今話した通りのよくいる黒豹だが、アンタ達、特にアバラは随分と奇抜な成りをしてる。この街に来て何人かアンタと同じ様な恰好をした奴らを見かけたがあれはなんなんだ?」
というフェリスの問いにアバラ達は自分たちが何者なのかを説明することにした。
「す、すまない。セシル殿は王族であったか…。無礼な発言をしたかもしれない…」
「いえ、今の私はただの冒険者ですから。アバラさん達にも畏まらずに普段通り接してくださいとお願いしていますし、フェリスさんも同年代の方と接するように話してください」
「い、いやしかし…」
「この子、結構頑固だから普通通り話さないと聞いてくれないわよ?アタシも最初はどれだけ緊張したことか…」
そう言うテトラの横でツーンといたずらっぽくそっぽを向くセシルを見て、諦めた様にため息をつくフェリス。
「…わかった、善処しよう。それで、アバラは異世界人なのだな?噂には聞いていたが本当にグラトニアの王は異世界召喚を実行したのだな」
「あぁ、この店を作ったのも異世界人だし、王国騎士団には勇者もいるぞ」
「…ふむ、では噂は本当なのか。グラトニアはラヴァグラムと戦争の準備をしているというのは」
急にそんな爆弾発言をされて驚いたセシルが立ち上がる。
「そ、そんな噂が立っているのですか!?勇者召喚はあくまで魔王軍に対抗するためのハズです!」
「いや、グラトニアに来るまでの間に何度も聞いた噂だぞ。グラトニアはラヴァグラムに戦争を仕掛けるため異世界から勇者を呼んだと。魔王国とはもう何百年も膠着状態が続いてるんだ。そう思われても仕方ないと思うが…」
「そんな…」と座りこむセシル。
「少なくとも勇者のキサラギはそんなことに加担する奴じゃねぇよ。アイツは賢い奴だ、いい様に利用されるとも思えん」
アバラにそう言われ、顎に手を当て考えるフェリス。
「ふむ、アバラのような男がそう言うならそうなのだろうな。しかし対外的にはそうは思われていないと思うぞ。客観的に見てもラヴァグラムに攻め込むためと言われた方が筋が通ってるし、最近の神聖騎士や貴族はさっきの奴の様に過激な奴も増えている。その勇者だって、もしもラヴァグラムの方から攻撃されれば反撃せざるを得ないだろう?」
「でも一体何のために戦争なんてしようと思うのかしら…」
テトラがそう呟くとセシルがそれに答えた。
「戦争はたくさん金貨を使います。国庫からそれだけお金が流れ出るということは、そこに付け入ってひと稼ぎしようという貴族や商人がいるのは自明の理です。少なくともそういう思想の者が手伝っているというのはあり得る話だと思います…」
「難しい話はよくわからんが、とりあえずキサラギやタカスギに会ったら忠告しとけばいいんだよな?」
「うむ、冒険者は戦争不介入だが、起ころうとしている物を止める事は悪くないだろう。私も同胞のコミュニティで何か変わったことがないか聞いてみよう」
「私もできる範囲で情報を集めてみようと思います。教会の本来の理念とはかけ離れた思想ですから、できることはやらなくては…!」
皆がこれからの方針を話し合うのを、テーブルの上でハム助が骨についた食べ残しの肉を齧りながら聞いていた。
「時に、アバラ。私をパーティに加えてくれないか?見た所後衛が多い様だし、さっきも言ったが私はグラトニアには知り合いもいなくてね。アバラの知り合いには同胞を支援してくれている者もいる様だし、私も助けになりたい」
そう言うと腰に下げた小剣とバックラーをちらっと見せた。どうやら前衛職のようだ。
「俺はいいと思うぞ、悪い奴には思えねぇし」
「アタシも賛成!さっきの騎士相手にも全然気圧される事もなかったし、穴倉の子達の事を考えて動いてくれてたんでしょ?いい人じゃない!」
「お二人がよろしいのであれば私も言う事はありませんよ。よろしくお願いしますね!フェリスさん」
そうしてステータスプレートからパーティ申請を行った。
「フェリス、アナタはその…ステータスプレートを見られるのは恥ずかしくないのかしら…?」
「む?私は恥ずかしくなるようなステータスはしていないからな。好きなように見てくれて構わんぞ」
「だ、大胆ね…!流石は獣人なのかしら…!」
「俺はその価値観だけはどうしてもわからん…」




