46話
それから数日が過ぎた。アバラ達は完全に日常を取り戻し、いつもの様に日々クエストをこなす日常を送っていた。
泥にまみれた街道の復旧、逃げてしまったオオヒルの駆除も完全に終わり、数日手つかずになったせいで増えてしまった魔物を狩ることに忙殺される冒険者達。
「いやぁ、仕事があるっているのはいい事なんだと思うが、みんな慌ただしくしてんなぁ…」
「本格的に冬に入れば冒険者としての活動がやりにくくなりますからね。今のうちに稼いでおきたいっていうのもあるんじゃないでしょうか」
そんな話をしながら、退治したオークの魔石をルイシュに提出する。もちろんオーク肉はイウラの所に持っていく予定だ。
そうしていると突然ギルドのドアが開け放たれ、見知った顔の男が入って来た。
「アバラ殿!大変だ!!…っ!セシル様、慌ただしくして申し訳ございません!」
慌てているのはクライスだった。セシルがいることに気づき慌てて姿勢を正すが、セシルがそれを手で制する。
「ここにいる時はただの冒険者のセシルです。かまわず続けてください」
「はっ、アバラ殿、聞いてくれ…ガラムが、殺された…」
「…は?」
突然の凶報に硬直するアバラにクライスが続けて話をする。
「やったのは看守だった男だ。拘束されて抵抗できないガラムを殺して、自身もすぐに命を絶っている。私の知る限りそのようなことをする者ではないし、昨晩も変わった様子はなかったようだ。動機は不明だが恐らくは…」
「…口封じか…」
「あぁ、ガラムは…何か言ってなかったか?情報が欲しい」
「それらしいことは何も…あ…教会だ、教会に気をつけろと言っていた…」
アバラは別れ際にガラムが言ったことを思い出していた。どこか諦めにも似た表情をしたあの男の最後の言葉を。
「教会…か」
「あぁ、そう言っていた」
教会と聞き、セシルの顔も曇る。
「わかった、協力感謝する。アバラ殿も気を付けてくれ、刺客の手がこちらに伸びないとも限らない。セシル様の事もくれぐれもよろしく頼む」
そう深く頭を下げるとクライスは去って行った。
「アバラ…大丈夫?」
「あ、あぁ…」
アバラは最後に会ったガラムの事を思い出していた。取り留めのない会話しかしていなかったと思っていたが、もしかしたらガラムはもう後がない事に気づいていたのではないだろうか。
既にいつ殺されてもおかしくない状況で、最後に選んだのがアバラと話をすることだったとしたら…。
彼は一体アバラに何を求め、何を託そうとしたのか。アバラには最後までわからなかった。
それほどまで、彼の事を知らず、知ろうともしなかった自分がただ、やるせなかった。
次の日、今だ鬱屈とした気持ちが晴れないアバラ達にルイシュが要件があると呼び出した。
ギルドのテーブルにコトッと紫の魔石が置かれる。
「これは…リッチの魔石?」
「はい。アバラさん達がアンデッドの異常発生を調査した時に退治したリッチの魔石になります。調査の結果が出たのでお知らせしようと思います」
そう言って重々しく話始めたルイシュ。
「リッチの推定年齢は230歳、出身地域は人族が調査できるエリア以外の場所ということがわかりました。つまり…」
ルイシュはゴクッと息を飲み、資料のある部分を指さした。
「魔王領と、思われます」
「と、言う事は例のアンデッド異常発生に魔王の手の者が絡んでいる可能性が高いと言う事ですか…?」
恐る恐るセシルが聞くとルイシュが慌てて答えた。
「い、いえ!ただ、リッチが魔王領出身である可能性が高いというだけですから!でも、人為的な何かがあの場所で行われていた可能性は高く、それが魔王領の出身の誰かという可能性が生まれた、というだけです…」
「キナ臭くなって来やがった…腐泥竜といい、リッチの件といい…何が動いてやがる…」
「ガラムの件も…ね。気分の悪い事件ばっかりだわ」
「気を落とさないでください!腐泥竜の件もリッチの件も先んじて何かが起こっている事を掴んだのは大きいハズです!ガラムさんの事は残念でしたが、アバラさん達のおかげでこれだけの事がわかったのですから、誇るべきだと思います!」
ルイシュが落ち込むアバラ達を鼓舞する。
「そうだな、俺たちにできることなんてそう多くないんだから、何があっても大丈夫なくらい強くなることが一番だよな」
三人が沈んだ気分を持ち直すため気合いを入れなおしているとギルドの扉が盛大に開いた。
「どうしたんだ3人共、元気がねぇじゃねぇか!」
「おお!」「えぇ…」「まぁ…!」と三者三様にリアクションする先にはアバラとお揃いのリーゼントに加え、新たに下ろしたての特攻服を纏ったグラトニアブラザーズだった。
「どうよこのトッコウフクは!最近イウラ商会で売り出したんだぜぇ!?このトッコウフクを作れるデザイナーと専任契約して売り出したんだとよ!すげぇだろ!?」
「めちゃくちゃいいじゃねぇか!ひょっとしてイールスが作ってんのかな!?こりゃイウラに聞きにいかねぇと!」
「ねぇぇぇぇぇ!!!やっぱり【ヤンキー】ってみんなアバラになっちゃうの?アタシもいつかああなっちゃうの?怖いよぉぉぉぉぉ!!!」
「トッコウフク…女性用はあるのでしょうか…?少し気になってきました」
「セ、セシルさんも【ヤンキー】をお持ちで…?私はまだ、持っていないハズ………えっ!そんな!噓でしょ!?」
頭を抱えて嘆くテトラと、何故か膝から崩れ落ちるルイシュ、特攻服のデザインを確かめるアバラとセシルという賑やかな者たちは、今この時は全てを忘れて笑いあっていた。
彼らが進む道は暗雲ばかりではなく、確かに晴れ間も見えているのだから。
そしてグラトニアの街にはヤンキーの一大グループが出来上がるのだか…それはもう少し先のお話。
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