43話
「セシル、本当によかったの?あんなこと言って」
「えぇ、ちょっとすっきりしました。お父様には少し腹が立っていたので…。ですから…」
そういうとアバラとテトラを振り返りこう言った。
「またよろしくお願いしますね!お二人とも!」
「おう!」「ええ!」と二人はにこやかに返事をした。
「あ、でも…その…ちょっと、テンションが上がってやり過ぎてしまったかもしれないですよね…いくらイライラしてたからってあんな…」
「今になって冷静になってきたの?」
テトラがニヤニヤと茶化し、セシルは「うぅ…」と小さく縮こまり、両手で顔を覆った。
「だって、口で説明してもわかって貰えないと思ったんです…!は、早く行きましょう!お父様の気が変わらないうちに!」
そうして城門を出かかった時、後ろから声がかけられた。
「失礼、セシル様アバラ殿を借りてもよろしいでしょうか」
声の主はキサラギ達のお目付け役であるクライスだった。
「どうしたのですか?私は家出の最中なので、アバラ様を差し出せと言われても頷く気はありませんが!」
ツーンと取り付く島のないセシルに苦笑いのクライスが答える。
「ははは…先ほどは私も謁見の間におりましたので、状況は理解しています。ですがそれとは別件でして、アバラ殿に会いたいと言っている者がいるのです」
「誰だ?俺にお貴族様の知り合いはいねぇぞ?」
「いや、貴族ではないんだ…ガラムだ。【要塞のガラム】」
【要塞のガラム】とはアバラとキサラギが協力してようやく倒すことができた奴隷商の首魁であり、その強さは文字通り要塞の様に堅牢でアバラではほとんどダメージを与えられなかった相手だ。クライスの話では王宮にある地下牢に幽閉しているのだが、尋問しても未だ行方不明の獣人奴隷の居場所を吐かないらしく、話してほしければあの異世界人を連れてこいと言っているそうだ。
「こんなことを頼むのは筋違いだと思うんだが、この機会を逃すとアバラ殿が城へ近づくのが難しくなる可能性があるのではと思ってな…」
「まぁ、また王女誘拐犯とか言われるかもしれねぇしなぁ…それにしてもなんで俺なんだ?勇者キサラギを連れてこいならまだわかるかもしれんが」
「わからない…とにかくあの赤い頭の異世界人を連れてこいの一点張りでな…協力してもらえるだろうか」
「俺はいいぜ。セシルとテトラはどうする?」
「王女様達は責任もってうちの隊の者に護送させる。それでよいだろうか」
そう聞いてセシルが頷いた。
「私も王宮に留まり続けて余計なトラブルを生みたくありませんから、テトラさんと宿に戻っていますね」
「アタシもこれ以上ここにいたくないわ…小市民を簡単に王様の前に連れて行かないで欲しいわ全く…」
そうして二人と別れたアバラはいつか見た地下牢へと再び足を運んだ。
「なんだか懐かしい気がするな。アンタと初めて会ったのもここだったな」
「あの時は失礼した。まさか牢を破られるとは思ってなかったよ…この先だ」
アバラがブチ破った牢の更に奥、より厳重に閉められた扉の先にガラムはいた。その両手にはアバラの時とは違い、恐らく魔力を抑える仕掛けであろう文様が光る手錠をはめられていた。あの時よりも頬がこけ、少し痩せたように見えるがその身から溢れる威圧感は少しも衰えた気がしない。
「おう、連れてきたか。約束だ、二人で話させろ」
ガラムがそういうとクライスが目配せして看守と共に離れる。
「ドアのすぐ後ろにいる。何かあったら伝えてくれ」
そうして重厚な扉をしめ、ガラムとアバラの二人きりになる。
「おう、わざわざ呼びつけてくれて何の用だ、犯罪者」
「随分な呼び方じゃねぇか。あの時は楽しく遊んだってのによ」
「楽しくだぁ?ふざけんじゃねぇぞこっちは死にかけたってのに」
アバラに顔をしかめられクツクツと笑うガラム
「俺になんか聞きたいことがあって呼んだんじゃねぇのか?用がないなら帰るぞ」
「あぁ?用なんてねぇよ。小僧とちょっと話がしてみたかったのさ」
訝しげに睨みつけるアバラにガラムが続ける。
「お前はさっき俺の事を犯罪者と呼んだが、お前は罪とはなんだと思う?」
「なん話なんだよ」
「いいから答えろ」
そう言われて考え込む。
「悪いことだ。人を殺したり、物を盗んだり」
「ほう、ではその罪は誰が決める?」
「人だ…いや国か?」
「そうだ、罪は人が決めたルールだ。罪が問われればそれに応じた罰が与えられる。だが、考えてみろ。借りに俺が罰を受け放免されたとする。その後俺は真っ当に生きられると思うか?街のパン屋が俺を雇ってくれると思うか?」
「何が言いたい」
「世の中は不条理だと言う事だ。他人が決めたルールを破ればルールを超えた罰が与えられる世の中だ。一度理の外に出ちまったもんは二度と中には戻って来れねぇのさ。どう思うよ?」
【諦め】その言葉が染み込んでいるような声色だった。ガラムはもしかしたらいつの日かこんな日が来ることをずっと予期していたのかもしれない。
「…俺は馬鹿だからな。それが正しいのかどうかもわからねぇけど、罪の重さが決まってるなら罰の重さも決まってるべきだと思う。少なくともきちんとルール通り償ったのなら、まっさらになるべきだ」
そこで一呼吸置くアバラ。
「でもよ、もしお前がまた外に出て暴れるってんなら…次は絶対負けねぇ」
「ふふ、はっはっは!青い、青いな小僧!」
そう言って何がおかしいのか肩を揺らして笑うガラム。そうして笑い続けるガラムを背にアバラは牢を出て行こうとした。
「小僧、教会には気をつけろ」
「あ?…なんだか知らねぇが、わかったよ」
そう言い返して今度こそ扉を開けて出て行った。その扉は来た時よりさらに重く感じた。
「くっ…ふっふっ。………まっさらに…か」
遠い目をしたガラムの頭に、昔仕えていた主人に冤罪を擦り付けられ、逃走の果てに奴隷商人へ落ちぶれていった過去がよぎる。誰にも話すことのなかった己の半生。
青空の下を歩ける人生だったら、あの小僧に戦いを教える道もあったろうか。 そう思うと、また込み上げる笑いを抑えられなかった。




