41話
「聞きたいことは色々あるけど、まずは戦後処理が先ね。オオヒルの駆除と怪我人の救助だよ、OK?」
「わ、わかった!」
「良い子だ、傾奇ボーイ。行きな!」
アバラを追い立てた和装の女は自身も煙管を片手にオオヒルを次々に倒し、泥に埋もれた兵士を片手でポイポイと救い出していく。
「すげぇ…なんだあの人」
「あれはグラトニアの冒険者ギルドの最高戦力、ミスリル級冒険者のスイレンだよ。あの人が最初からいりゃあもっと簡単に倒してくれたんだろうけどな。まぁ結果オーライだ」
そう話しながらも慣れた手つきでオオヒルを倒していくホイの向こうからテトラとセシルが走ってくる。
「アバラ!アンタまた死にそうになったでしょ!この短期間に何回やる気よ!」
「本当ですよ!心臓が止まるかと思いました…」
「ハハッ、すまん。気を付ける。それよかセシ…セシル、いいんだな?もう」
セシルは決意に満ちた精悍な顔付きをしていた。逃げ続けていた自身の生い立ちに向き合うことにしたのだ。
「はい。先ほど代理で騎士団長を務めている者と話をしてきました。追って使いの者が来ると思います。私、ヒールが必要な人がいると思うので行ってきますね!」
そういうとパタパタと走って行った。
「アタシ達とセシルの冒険もおしまいかしら」
「…かもな。俺たちは最後まで味方でいてやらねぇと」
「当たり前過ぎてムカつくんだけど」
「なんでだよ」
スイレンがまとめ上げたおかげで早いペースで収束していく戦場。しかし別の場所でも、一つの戦いが起こっていたことを、アバラ達は知らない。
王宮の地下へと続く階段をコツコツコツと革靴を鳴らしながら降りていくスーツの男がいた。肌は病気の様に青白く、その目はどこか遠くを見ているようなうまく焦点の合わない顔でゆっくりと歩いていた。
「止まれ」
その男の後ろから凛とした声が響いた。
「おや、もう見つかってしまいましたか。貴女は泥竜退治に行かれたと思っていたのですが?剣聖、シーラ殿?」
「私が王宮を離れるわけがないだろう。お前みたいなやつがいるからな」
剣聖と呼ばれた女性は警戒を崩さず男を見ている。
「いやはや、やられました。まさか泥竜が見つかってしまうとは。見つかってしまったものは仕方ないと使ってはみたのですが…やはり単騎では大したことないですね」
「何が言いたい」
「いえいえ、独り言ですよ。ではそろそろお暇させて頂きま」
シーラの斬撃が話し終える隙も与えず男を切り捨てた。
「逃がすと思うのか」
「いえ、私はここにはいませんから」
切り落とされた首がひとりでに話し、糸が切れたように沈黙した。
「チッ、人形か」
男の人形はその場で煙になって消えてしまう。
「【雀】はいるか?」
「ここに」
まるで最初からいたかの様にメイドの恰好をした女があらわれた。
「国王の護衛を3倍に増やせ、それから王宮内に不自然な痕跡がないか徹底的に調べろ」
「はっ!」
「それから、不審な者がいないか王宮内の人間の身辺を洗え」
剣聖シーラは剣を収め身を翻した。長い金髪がサラリと揺れる。
「鼠がいるぞ」
既に誰もいなくなった廊下に剣聖の足音だけが残った。
王宮内に不審人物が出たことは一部の関係者にしか共有されなかった為、セシルの元に使いが来るまで3日経過した。その間アバラ達は逃げ出したオオヒルの駆除や、泥によってめちゃくちゃになった街道の復旧などに追われていた。
街はいままで通りの活気を取り戻し、ようやく一息つけそうだと思った矢先の事だった。
「セシル様、お迎えに上がりました」
「クライス。貴方が来たのですね」
「はい。アバラ殿とも面識がある私がお迎えした方がお話がしやすいだろうとの取り計らいです」
「クライスさん。アンタも大変だな、遠征から帰って来たばっかりだろ」
キサラギ達勇者一行を含む王国騎士団の残りの半数と教会所属の神聖騎士団は王都がスワンプドラゴンゾンビに襲われていると聞いて大急ぎで帰って来たらしい。その直後にこうして駆り出されているのだからその苦労人っぷりが伺える。
「セシル様、国王様より王宮へ即刻登城せよとのご命令です」
「私一人ですか?」
「はい。そう伺っております」
「そうですか。では私の大事なお仲間も連れていきますと、お伝えください」
「は?し、しかし国王様からはセシル様だけをお連れするようにと…」
クライスは動揺するが、セシルは揺るがない。
「おや、馬車が3人乗るには少し小さいようですね。では、歩いて行きましょうか、アバラ様、テトラ様」
フフフと悪い笑みを浮かべるセシル。
「わ、わかりました!すぐに新しい馬車を用意します!こちらでお待ちください!」
真っ青になって御者と話をしに行くクライス。同じく迎えに来たメイドや執事らしき者も慌ててバタバタしている。
「では、私元のドレスに着替えてきますね」
「ドレスに着替える時間があるなら焦って馬車を変えさせなくてもよかったんじゃない…?」
フフフ~と宿の部屋に戻って行くセシル。
「セシーちゃんって王女様だったのねぇ、あたしゃびっくりしたよ」
「おばちゃん…バタバタしてごめんね」
「いやいや、あの子の肝の据わりっぷりは中々だと思ってたんだけど、納得だぁね。戻って来れるのかわかんないけど、こんな安宿で良いならうちはいつでも歓迎だからね!そうセシーちゃんにも伝えといて!」
賑やかなおばちゃんはいつも通りの様子で宿の奥に消えていった。
「おばちゃんの肝の据わりっぷりも相当だと思うけどな」
「言えてる」
冷や汗を流しながら4人乗りの馬車を調達してきたクライスは「これ以上は勘弁してくれ」とアバラに目線で訴えていた。
クライスの胃に穴が開かない事を祈りながら王宮行きの馬車にのるアバラ達だった。




