38話
さらに奥へと進んでいるうちに再び周囲の魔素が濃くなっていくのを感じた一行はテトラの【フレイムスピリット】を展開しつつ奥に進んだ。
「なんだ…この臭いは…」
「くっさいわねぇ…アンデッドが山になってるんじゃないでしょうねぇ…?」
「ここが最奥です…これは…!?」
そこには腐臭をまき散らし魔素を放出する全長20mはあろうかという肉の塊があった。
「な、なんだこりゃあ!死体なのか!?」
「恐らくですが…ワイバーンでしょうか…かなり大きい…一体どうして」
「と、とりあえず、これ何とかしましょうよ!魔素の原因ってこれでしょ!?早くなんとかしないとアタシ達病気になっちゃうわ!」
テトラの提案でワイバーンの死体を燃やし、さらにダメ押しでターンアンデッドもしておくことにしたのだった。
轟々と燃え上がるワイバーンの死体を眺めながらアバラが呟いた。
「洞窟で火を焚くってよく考えたら危ないんじゃねぇか?」
「あぁ、魔法以外の火は絶対ダメよ。魔法の火は魔力を燃やして燃焼してるから酸素が減ったりしないわ」
「おお、よかった。こっちでもそういう常識って通じるんだな」
「アンタがいた世界では魔法や魔力はないのよね。でもそれ以外の常識に大きな偏りはなさそうだし、なんか不思議」
そんなことを話しているとワイバーンの死体は完全に焦げて灰になってしまった。
「やはり…魔石はありませんね」
「やはりってことはなんか見当がついてるのか?」
「見当…というわけではありませんが、おそらく魔石を抜き取りここに死体を持ち込んだ者がいます。それもなんらかの魔法を使って」
「それって…何のために?」
「わかりません。あくまで状況証拠ですから…この洞窟にこのような大きさのワイバーンを運び込むのは通常不可能です。通路の大きさが足りませんし、ワイバーンは高い山の山頂付近に生息する魔物ですから、ここに住んでいたというのも考えられません」
セシルはワイバーンだった物の灰を掬い落とす。
「ワイバーンは元々火に強い耐性を持ちます。それがあっさりと燃え尽きてしまいました。ということは、かなり魔素還りが進んでいたのではないかと…もしそうだとすれば…」
「そうだとすれば…?」
アバラとテトラが首をかしげる。
「アンデッドの量が少なすぎます。報告の量と全くつり合いが取れません」
セシルが真っ青な顔で告げた。
「なんだよそれ…どういうことなんだよ」
「わかりません!何から何までわからないんです!この件は私たちの手には余ります!あの妙なリッチといいこのワイバーンといい、ブロンズ級が相手にしていい相手じゃありません!」
わー!と話すとセシルはその場に蹲ってしまう。
「…もう帰りましょう…アバラさんも死んじゃいそうになるし、こんな訳の分からない物も見せられて…いっぱいいっぱいです…」
「そうだな…これ以上何か変な物に出会う前にさっさと退散して、帰って美味いもんでも食いに行こう…」
「…蝙蝠以外がいいです…」
「…そうね。アタシも蝙蝠以外がいいわ…」
「…チュー?」
そう言って三人は肩を落としながらダンジョンを後にしたのだった。
村でとりあえずの原因は潰したと報告、まだ近隣をうろついているアンデッドがいる可能性はあると注意を促してから、王都行きの乗り合い馬車を見つけて乗せてもらうことになった。
帰りの馬車は安い普通の馬の馬車だったが、疲れていた事もあり、テトラとセシルは馬車旅のほとんどを寝て過ごした。
アバラだけはくやしさを噛みしめる様に馬車から景色を見ていた。
「ご報告、ありがとうございます。詳しくはギルドで精査してからになるとは思いますが、人為的な災害であることはほぼ間違いないと思います」
ルイシュは疲れたような表情でそう告げた。
「ルイシュさん、顔色悪くない?大丈夫?」
「あ、大丈夫ですよ?身体は元気なんです。ただ最近不穏な事件が多くて、ちょっと不安になってただけといいますか…今は王国軍の半分と神聖騎士団が王都から離れていますから、そんな中変な事件ばかりだと気が滅入りますよね…」
「不穏な事件?」
「オオヒルや今回のアンデッドの大量発生が最たるものですが、どうやら魔物の動きがおかしいらしいんです。具体的には“大物がいない”と報告が上がっています」
ルイシュ曰く、本来その土地にいるはずの強力な魔物が見当たらない、もしくは数を減らしているという。
「では、今回のワイバーンのように何かに利用されている可能性があると…?」
「そこまで断定はできません。ワイバーン程の大型はそもそも滅多に現れませんから…ですが関係がないとも思えません」
「にしても気持ちが悪い話だぜ。あえてアンデッドが生まれる様に置いたとしか思えないワイバーンの死体があるのにアンデッドの数は全然計算と合わないんだろ?さらにあのただ者じゃないリッチがいてよぉ。意味がわからねぇよ」
「あぁ、そのリッチの件ですが、魔石を鑑定に出してみませんか?そうすればおおよその魔物の年齢と出身の場所がわかるかもしれません。何かのヒントになるかも」
「お願いしましょう。そもそもあんな得体のしれないリッチの魔石なんて持ってたくもないわ」
アバラがポーチからコトッと魔石をテーブルに出してルイシュに預けた。
「アバラさん達もしばらく休んでくださいね。ここのところイレギュラーばかりで心身ともに疲れてるでしょうし…」
「そうだな、ちょっと休ませてもらうか!」
そういってグググッと伸びをするアバラ。
「私、ポルコさんの穴倉行きたいです!」
「アタシもー!まさかオーク肉が恋しくなる日が来るなんて思わなかったわ!」
そういって疲れた体を誤魔化すように明るくギルドを出ていく3人を見送ったルイシュは、そっとリッチの魔石に目を落とすのであった。




