37話
「っ!濃い…!」
「これ…魔素か?俺にもわかるぞ…」
辺りはまるで紫の霧が架かっているかのように視認できるほど濃い魔素が漂っていた。瘴気とも言える程に濃くなった魔素に三人は顔をしかめる。
「っ!ゴホッゴホッ!」
「あまり吸っちゃダメよ、散らすわね。【フレイムスピリット】!」
テトラが魔素を散らすために【フレイムスピリット】をあちこちに展開する。テトラの魔法に燃やされ魔素の霧が少しずつ晴れていくと、霧でよく見えなかった場所は思ったよりも広い場所であることが分かった。
「おい…あれ、なんだ?」
アバラが恐る恐る指をさした先には3m程のあるボヤッとした白いカーテンのような物が浮いていた。
アバラの声を聴きそのカーテンがすっと開くと中には幽鬼の様な顔をした魔物が赤黒く光る眼でこちらを見ていた。
「リッチです!物理攻撃は効きません!注意してください!」
リッチと呼ばれた魔物はどこからか大きな鎌を取り出すと音もなく振りかぶり迫って来た。
「速いな!俺はアバラだ!夜露死苦!」
【名乗り】を上げ、迎え撃とうとするが鎌を弾く事もできず、頬をざっくりと切られてしまう。
「げぇ!鎌も実体ナシかよ!卑怯だぞ!」
「下がって!【フレイムアロー】!」
テトラの魔法が放たれるもリッチは身を翻して躱す。
「速いです…!この速さでは私の魔法は当たりません!」
「なんとか動きを止めないと…これは、どう!」
先ほど展開した【フレイムスピリット】を動かしリッチを囲むテトラだったが、リッチが鎌を振るうと簡単に起爆されて消されてしまう。
「ダメ…これじゃあ足止めにもならない!」
手をこまねいているとリッチの眼がギラリと光るのが見えた。
「なんか来るぞ!!」
リッチが大きく口を開くと目の前の空間から紫色の火炎が現れ鞭の様にテトラとセシルを襲う。
「ッツ!【リフレクション】!!」
セシルの防御魔法がギリギリで防ぐが、そう何度も受けきれそうにないことがわかる。
「クソ!俺の攻撃は怖くねぇからってもうヘイトが切れやがった!舐めやがって!【炎拳】!」
アバラの燃え滾る拳がリッチの顔半分を焼く。耳を塞ぎたくなる様な絶叫を上げて鎌を振り回すリッチ。
「ヘッ!人を舐めてるからそうなるんだ!」
「ここで畳みかけるしかないわ!【ポイントフレイム】!」
顔をやられ前後不覚になっているリッチの胴体をテトラの魔法が焼き、さらに悶え苦しむリッチにアバラが追撃を掛けんと突貫する。
その瞬間アバラの背中に悪寒が走る。
アバラの眼には見えた。このリッチは
「(笑ってやがる…!)」
辺りがスローモーションの様にゆっくりに見える。リッチは誘っていたのだ。あたかもダメージを受けたように振舞えば、こうして懐に飛び込んでくるだろうと。
「(舐めてたのはこっちだった!魔物だと思って油断した!)」
アバラの首筋に大鎌が振り下ろされ、テトラとセシルが叫ぶのが聞こえる。
「ヂューーーー!!!」
アバラのリーゼントが鋭い光を発した。アバラのリーゼントに隠れていたハム助が起死回生の目くらましをしたのだ。
「う、おおおおおおおおおおお!!!!」
我に返ったアバラが【炎拳】を纏った拳で滅多打ちにする。
目を潰され全身を焼かれたリッチは流石にたまらなくなり、絶叫し後退する。
「今だ!!!」
「はい!【ターンアンデッド】!!!」
セシルが溜めていた魔力を開放し、全力の魔法を放つ。浄化の光はリッチを包み込み、今までの怨嗟の叫びが嘘の様に空間に解けて消えてしまった。
コツーンとその場に魔石が落ちる。
戦いが終わった余韻で、全員がその場に座り込んだ。
「あ、あぶねぇ…死ぬとこだった…」
実際の戦闘時間はそれほど長くなかったのに、まるで何時間も戦っていたかのようにアバラの身体は汗に濡れていた。
座り込んだアバラの胸元にハム助が下りてきて首をかしげる。
「ほんと、天才だぜ、ハム助。命を救われちまったな…」
「アバラぁ…首、つながってる…?平気?」
遅れてきたテトラが半泣きでアバラに迫ってくる。
「…私のサポートが遅れました。テトラさんが魔法を打ってすぐにターンアンデッドを打っていればこんな危ない目には…」
「いや、俺が油断したのが悪い…もっと慎重に戦うべきだった。ハム助がいなかったら全滅もありえたな…」
「…ぐすん…アタシ達がまだブロンズなのはこういう事なんでしょうね。経験不足を嫌って程感じたわ」
「あぁ、俺たちはまだ強くなれるぞ。ハム助に負けてらんねぇな」
そう言って胸元のハム助をグリグリと撫でた。
「それにしても一体何もんだったんだアイツは…」
「明らかに長く生きた魔物特有の知性を感じました…このダンジョンはそれほど高ランクの冒険者が訪れる場所ではないですし、依頼の内容にもそのような記載はありませんでしたから…この場所の瘴気に寄せられてきたのか、そもそもの原因を作った何かだったのか…」
ぶつぶつと考察をするセシルだったが、答えは出ず。3人はテトラが落ち着きを取り戻したのをきっかけに最奥に向かって歩き出したのだった。




