36話
朝起きだすと、三者三様に各々が朝の支度を始める。
アバラは低血圧を紛らわすために顔をバンバンと叩き、リーゼントのセットを始め、テトラは最近王都で流行りの化粧水を顔に塗り、乾かしながら荷物を整理する。いち早く準備を終えたセシルはスターハムに朝のナッツを手渡ししていた。
「結局一晩一緒にいたわね。ずっとついてくる気かしら?」
「それなら名前つけねぇとな。ハム助なんてどうだ?」
「ハム助は無いでしょ!ダサいわ!プリンちゃんよ!」
「あ、あの!私はこむぎちゃんなんてどうかと思うんですが…!」
「じゃあこいつに決めてもらおうぜ!どの名前がいいよ!?」
そう言ってアバラがスターハムを地面に降ろし、三人が膝をついて並ぶ。
「ハム助!」
「プリンよ!」
「こむぎちゃん…!」
スターハムは三人の顔をキョロキョロと見た後、アバラの肩を駆け上ってアバラのリーゼントにダイブした。
「決まりだぜ!今日からお前はハム助だ!」
ハム助はアバラのリーゼントのてっぺんのに立つと「チュー!」と威勢よく鳴いた。
「なぁんでよ!ずるいわよぉ!!アバラばっかりぃ!!」
「そうですよ!流石に嫉妬してしまいます!」
「ハッハッハ!やっぱりどんな生き物も本物の漢ってやつに憧れちまうんだろうなぁ!」
そうして賑やかな一行に新たに一匹が加わり、ダンジョンへ向かっていくのだった。
ダンジョンへの道は村からおよそ3時間程、道中何度かアンデッド系の魔物にも出会い、退治しながら進んでいた。報告通り、アンデッド系の魔物は増えているようで、他の魔物と縄張り争いをしていたであろう形跡も見つけられた。
「やっぱり数が多いですね…依頼を出されて正解だったと思います。これは何か異常があるはずです」
「確かにこんだけアンデッドばっかりに会うって無いもんな。森の中はもうかなり荒らされてんのかもしれねぇな」
そうぼやきながらもうすぐダンジョンへつく間際、あちこちにアンデッドの魔物が切り伏せられている現場を目撃する。
「何これ…いっぱい殺されてるわ…しかもまだ新しいわよ」
「誰か他に来てんのか?進むぞ」
そうしてダンジョンの入口まで進むとそこにはいつか見た銀髪の女性が立っていた。
「…アバラ…テトラ?」
「リンファじゃねぇか!久しぶりだな!」
そこにいたのは過去にアバラとテトラと共に遺跡のダンジョンを攻略したリンファという謎多き冒険者だった。
「リンファさんだったのね!またダンジョンを攻略しに来たの?」
「久しぶり…ううん、ここは思ってた所じゃなかったから…帰る所。その子は?」
そう言ってリンファがセシルを見る。
「セ、セシーです!アバラさんとテトラさんとパーティを組ませて頂いています!」
「そう…」
リンファはそう一言だけ呟くとセシルの頭を撫で始めた。
「あ、あの?リンファさん…?」
「可愛かったから…つい」
「リンファは変わんねぇな。俺らはこのダンジョンに異常があるみたいで依頼されて来たんだがよ、なんか異常があったか?」
そう言われて顎に手を当てて考えるリンファ。
「…中に入った訳じゃないから、わからないけど…かなり魔素が濃い。多分アンデッドが多いのはそのせい」
「リンファさんは、その…ここで何を…?」
テトラが聞きにくそうにリンファに聞く。リンファは過去に遺跡のダンジョンで出会った時も素性を隠しており、ギルドで問い合わせをしたが、何者かわからず終いだったのだ。
「アンタの事、ギルドで聞いたぜ。シルバーやゴールドにリンファって人はいないってな。悪いやつじゃねぇとは思ってるし、言いたくない事なら無理して聞かねぇよ」
「…探し物をしてるの」
「探し物ですか…?」
「…うん。見つかったら不味いから、先に見つけないといけない」
「…誰に見つかったら不味いんだ…?」
アバラがそう聞くと、重さを感じさせない動きでフワッとアバラに近づくリンファ。
「…知らないほうが…いいよ?」
「…そうか…なら聞かないでおく」
「…えらいぞ、あれ?」
そういってアバラの頭を撫でようとするリンファがアバラのリーゼントに潜むハム助に気が付いた。
「可愛いね…先客がいるみたいだから…撫でるのはやめておこうね…」
そうしてアバラ達が来た道を引き返していくリンファが最後に立ち止まって振り向いた。
「名前は、教えない方が良いよ…?」
「あ?どういう意味だ…?」
そう、アバラが聞き返した時にはすでにリンファの姿はなくなっていた。
「その…すごく雰囲気のある人でしたね…!なんというか、ただ者ではないといいますか…」
「そうね…アタシ達も一度会ったことがあるだけでよく知らないのよね。なんだったのかしら、名前を教えない方がいいって」
「わからん…まぁ気を取り直してダンジョンの調査といこうじゃねぇか」
アバラ達はダンジョンの前で軽めの昼食を取り、ダンジョン探索を始めることにした。
「このダンジョンは一直線の洞窟型です。脇道もほとんどなく、迷う心配も少ないです。道は所々狭くなっていますが、それなりに広さがあり、開けた場所で戦えばバックアタックの心配もほぼないです」
セシルからの解説を聞きダンジョンに入って行くアバラ達。アバラを先頭にテトラ、セシルと続き再後衛にはテトラの【フレイムスピリット】を追従させ、いざという時には守れるようにしておく。
ダンジョンにアバラが踏み出した時、アバラのリーゼントに隠れていたハム助がリーゼントの先頭に立ち、頭の星形の模様を辺りを照らすようにピカーッ!と光らせ始めた。
「うぉ!なんだそれ!ハム助!?お前そんなことできたのか!?」
「ヂュー!」
「すごいですね!ハム助さん!ライトの魔法でしょうか!?」
アバラのリーゼントの先でヘッドライトの様に光り輝くスターハムというあまりに珍妙な様子に耐え切れずテトラは大笑いしてしまう。
「ぶっ、はっはっはっはっは!アンタっ!どんだけ変態になるつもりなのよっ!便利だけど!面白すぎるでしょ!便利だけど!」
つられてセシルも笑ってしまっているが、アバラはハム助に関心してキョロキョロと頭の向きを変えて感触を確かめていた。
「ハム助ライト、便利じゃねぇか。ちゃんと光の方向が決まってて俺は全然眩しくねぇや。こりゃ帰ったらたくさん美味いもん食わせてやらねぇとな!」
「チュー!」
頭のハム助をぐりぐり撫でつつ先頭を歩くアバラにまだ笑いのツボから抜け出せていないテトラとセシルがクツクツ笑いながらついていく。
ダンジョンを進んでいるとすぐに開けた場所と複数のゾンビ、スケルトンに出会った。するとハム助は戦闘が始まるとすぐにアバラの頭から飛び降り、ダンジョンの壁に張り付いて定点ライトの様な役割をこなし始めた。
定点ライトに変わると指向性の強いハイビームの様なライトから一転、フワッと全域を照らすライトに切り替え、直視しても眩しくない様になるという素晴らしいサポートっぷりにアバラ達の評価はうなぎ登りになった。
「すげぇぞハム助!天才だ!天才スターハムだ!」
「なんて賢いんでしょうハム助ちゃんは!世界一!世界一よ!」
「ヂュー!」
ハム助としては『いいから飯よこさんかい』と言っている様だったが、親バカと化したアバラとテトラにはわからない。
「ハム助さんのおかげで探索と戦闘のしやすさが段違いですね…とても賢い子なのも間違いありません。立派にパーティの一員ですね!」
「チュー!」
セシルに干しブドウを貰ってご満悦でアバラのリーゼントに帰っていくハム助。
「にしても、本当にアンデッドばっかりだな…魔素が濃い?とかリンファが言ってたがどうなんだろうな」
カラカラと骨を鳴らしながら近づいてくるスケルトンを殴ってバラバラにしながらぼやく。
「魔素の濃さはそれ用の魔道具がないと感覚でしかわかりませんから、私やテトラさんでも『濃いかも』くらいしかわかりません…しかし、ダンジョンというのは屋内で魔素が散りにくい事から魔物が発生しやすいという原理になっています。なんらかの理由で魔素が溜まってしまったのであれば、このまま私とテトラさんで魔法を使って魔素を散らしてやれば異常は収まるはずです」
「アンデッドがたくさんいるってことはここにはたくさん死体があったってことなのか?ていうか、こいつらみんな生きてた人間だったのか?」
我に返り「うげぇ」と声をだすアバラにテトラが解説する。
「たぶんここにいるのは自然発生したアンデッドよ。服着てたり武器持ってたりしないでしょ?アンデッド系も普通の魔物と同じように魔素となんらかの条件で生まれてくるのよ。それとは別に放置された人や魔物の死体がアンデッド化してしまう場合もあるの。魔物の場合は魔石を抜けばアンデッド化は防げるから、大抵は魔物同士の争いで死んだ場合が多いわね」
「恐らく、元々このダンジョンはアンデッド系の魔物が発生する条件が整っているのでしょうね…そこになんらかの理由で魔素が溜まってしまっていると…」
「その理由が、まだわからねぇってわけね…ってもそろそろゴールじゃねぇか?かなり奥まで来たと思うんだが…」
アバラの言うように地図通り行けばそろそろ最奥である。慎重に歩みを進める一同は、進んでいくうちに異様な気配を掴んだ。




