35話
「テトラ…絶対許さんからな…」
恨みがましくテトラを睨むアバラだったが、セシルに【クリーン】と【ヒール】をかけられ、自慢のリーゼントは下ろされてしまい怒る気もなくなってしまった。
テトラは「てへっ!めんごめんごっ!」と謝った振りしてアバラを煽りつつ、アバラの特攻服を乾かしていた。ダスクバットも片付けられてイケメンのリュウ君も見ることができて本人は非常に満足そうである。
「いやぁ、ダスクバットは角馬がいたらあんまり襲ってこねぇんだけどなぁ…赤いあんちゃんがヘイト取ってくれたからこっちの被害はゼロだぜ。助かったよ」
と、御者はダスクバットを拾い集めに行った。唐揚げにすると美味いらしく、この辺ではよく食べられているそうだ。
「そういやよ、あの蝙蝠達、何か追いかけてなかったか?俺が見た時にはそう見えたんだが…」
確かにアバラは森から出てくるダスクバットの群れが何かを追って森を出てくる所を見ていたが、戦いが始まってしまったので確認できていなかったのだ。
「あぁ…それならたぶんこの子かと…」
そう言ってセシルが拾い上げた手の上には小さなハムスターの様な生き物が乗っていた。
「【スターハム】ですね。恐らくダスクバットに追われて森を逃げ回っているうちに群れをトレインしてしまったのではないかと…。戦闘が始まってからは馬車に逃げ込んでいましたので、こうして保護していたのです」
スターハムと呼ばれた生き物はアバラのいた世界ではゴールデンハムスターと呼ばれていた種類に似ており、おでこには星形の模様がついていた。
「あら!スターハムなんて珍しいじゃない!こちらから攻撃しない限り襲ってくることもないし、可愛いからペットに人気なのよ。それに個体によっては簡単な魔法を使うこともあるんですって!」
テトラが人差し指でツンツンとスターハムの頬を押すと「ヂッ!」と言ってアバラの肩に飛び乗ってしまった。
「なんだぁ?くすぐってぇ!」
「あら、ひょっとしてアバラさんが助けてくれたってわかってるんでしょうか?懐かれてしまったようですね」
「ちょっと!アバラずるいわよ!アタシにも触らせなさいよ!」
アバラからスターハムを強奪しようとするテトラと、乱暴はしたくないがそれでもウズウズしてしまうセシル。
「やめろやめろ!こういう小動物はな、ベタベタ触られんのは得意じゃねぇんだ。落ち着くまで放っておいてやれ!」
とは言いつつもまんざらでもないアバラは、びしょびしょにされてしまったことなど忘れてしまい、スターハムを肩に乗せたまま乾かしていた一張羅を着なおす。
「ありゃ、スターハムじゃねぇか。あんちゃん達面白い魔物を拾ったんだな。ダスクバットのカス魔石をどうするか聞きに来たんだが、丁度いいや。この小せぇ魔石だと換金しても大した値にならんからスターハムが食べるナッツ類と交換するかい?」
「するわ!!むしろお金出すからたくさん頂戴!!」
「まいどあり!」っと商売上手な御者から革袋一つ分のナッツを購入した。一躍アバラ一行アイドルとなったスターハムは村に着くまでの間、頬袋に詰め切らないくらいのナッツを貰い、満足げにアバラの膝の上で過ごすのであった。
経由地の村に着いた時辺りはかなり暗くなってきていた。ドルマン商会の商隊とはここでお別れとなり、明日は徒歩で目的のダンジョンへ挑むことになる。ダンジョンの異変を知らせて依頼を出したのはこの村の人だったのでアバラ達は情報収集も兼ねて村長の元へ尋ねることにした。
「この一か月くらい妙にアンデッド系の魔物が多くて困っている…と?」
「はい…この村は元々アンデッド系の魔物が出る洞窟が近所にあるもんで、それ自体は珍しくもないんですがねぇ…アンデッドは動きも遅いんで1匹2匹くらいなら袋叩きにできるんでさぁ。しかし最近はやけに頻度も多いし、この間なんて5匹も同時に出やがったんでさぁ!村人にも怪我人が出ちまって、これ以上は手に負えねぇって事でお願いさせてもらったとこでして…」
「疑問なんだがよ、特に何も資源もお宝も残ってないダンジョンなんだろ?塞いじまったらいいんじゃねぇのか?」
アバラの素朴な疑問には村長ではなくテトラが答える。
「ダメよ。魔物っていうのはね、危険もあるけどこういう町に住んでる人からすれば大事な収入源なのよ。魔石を使って動かす魔道具の交換にも魔石は使うし、ダンジョンは生かさず殺さず管理するのが一番大事なの」
村長が汗を拭きつつ肯定する。
「わしらみたいに大して戦えん者からすりゃぁ動きの遅いアンデッドは狩りやすくてありがたい存在なんでさぁ…ですからどうか!潰すんだけは勘弁してくだされ」
「なるほどなぁ…単純な話でもねぇんだな…」
村長から出されたお茶を両手に持ったまま考え事をしていたセシルが村長に尋ねた。
「このような事は過去にもあったのですか?もしくは原因を考えるならダンジョンの奥に隠されたエリアがあって、そこが何かの拍子に開いてしまいアンデッドが雪崩出て来た、なんてことは?」
「わしはひいひい爺さんの代からこの町に住んどるがそんな話は聞いた事ないのう…それにもし新しいエリアなんてのができたってんなら、もっとドサッー!と魔物が出てくるんじゃねぇですか?」
「そうですか…確かに魔物の増え方としては妙ですね…これは調査してみないとわからないかもしれません」
その後、ダンジョンへの行き方や内部の地図などを見せてもらい、今日の所は村の空き家を貸してもらえることになった。
「今日は商隊の方々から安く食料を譲って貰えましたからな、村からごちそうを振舞いますぞ!」
案の定というか、そのごちそうとはダスクバットの唐揚げであり、内臓などの下処理はしてあるものの、絶命した時の表情のままに唐揚げにしてあるビジュアルはなんとも禍々しく食欲をそそるとは言い難い物だった。
「見た目はアレだが、意外と美味いな。羽が美味い。」
「アンタよく躊躇なく食べれるわね…あ、でもほんと…美味しいわ、羽の触感がパリパリで…」
「あの、せめてフォークとか頂けませんか…?これを手づかみは勇気が…」
さすがのアバラ達も頭を食べるのは躊躇した様で、その場に残されたダスクバットの頭部とスターハムが格闘していた。
さすがネズミは悪食だとアバラは感心したとかしないとか。一応衣は剥がしてやったそうだ。




