34話
イウラ商会とポルコの穴倉のオープンでアバラ達も目まぐるしく忙しい日々が続いた。
イウラ商会の目玉商品の一角、化粧品や調味料など、【調合師】であるハナコ先生が再現する異世界の製品は同じ異世界人だけでなく、こちらの世界の人たちにも非常に好評だった。
また、ハナコ先生が作る調味料はいち早くポルコの穴倉で料理として振舞われ、故郷の味を楽しむ異世界人や、未知の料理を楽しむ街の人々にも新しい刺激を与えた。
おかげで、冒険者達も素材の採取に引っ張りだこになってしまった。アバラ達に冒険者ギルドのルイシュから特殊なクエストがあると呼び出されたのはそんな時だった。
「ダンジョン調査?」
リーゼントを整えながら話を聞いていたアバラがルイシュに聞き返した。
「はい。とある洞窟型のダンジョンなのですが、そのダンジョンは昔からアンデッド系の魔物が出る場所だったのですが、最近ダンジョンから出てくるアンデッドの量が増えている様なんです」
「それで私達に指名依頼ですか?まだブロンズ級のパーティに頼むには少し難易度が高いのではないでしょうか…?」
疑問に思ったセシルがそう聞いた。アバラ達はブロンズ2名、アイアン1名のパーティだが、この場合はブロンズのパーティということになる。
「アバラさん達の実力はシルバー級相当以上だとギルドは見込んでいますよ。アバラさんが捕まえた【要塞のガラム】はおおよそゴールド級からプラチナ級相当の実力があったと思われますし、手助けがあったとはいえ奴隷商捕縛の一番の貢献者ですからね」
「じゃあなんで俺達はまだブロンズなんだ?」
「私の一存で決めている訳ではありませんので、あくまで推測ですが、やはり経験の少なさではないでしょうか。アバラさん達はまだまだ新人ですからね、ギルドではシルバー級以上はベテランや腕利きと言われるラインですから」
アバラ達がこの世界に来てからまだ半年も経過していない。最近シルバー級に上がったグラトニアブラザーズは既に10年以上のキャリアを持つベテランだった。
そんな彼らですら長く凡人の壁と呼ばれるブロンズ級でくすぶり続けていたのだ。異世界人であるアバラが特異な存在であることに間違いはないが、魔法使いという稀有な才を持ち、幼少の頃から魔法の訓練を受けてきたテトラもまた上澄みなのだった。
「それから今回の指名はセシーさんの存在も大きく関わっていますよ。セシーさんはアイアン級ですが実力は十分ありますし、何よりも聖属性魔法の使い手ですからね。アンデッドにはうってつけの人材です!」
「アンデッドの不自然な大量発生ねぇ…そのダンジョン自体はとっくに探索されつくしてて特に見る物もないって話だけど…ギルドからの依頼って事ならいいんじゃない?報酬も悪くないし、アタシの火属性もアンデッドには相性いいわよ」
最近は素材採取系のクエストばかり受けていたので久しぶりの骨のありそうなクエストにテトラはノリ気なようだ。
「ですが、オオヒルの件といいなんだか不穏ですね…あちらも早く解決すればよいのですが…」
セシルが不安げにクエストの詳細が書かれた用紙を見ながら呟いた。
グラトニアブラザーズが引き続き沼地の調査を続けているものの、未だ原因不明。もうすぐほぼ全域の調査が終わるらしいので、それで何も見つからなければ未解決のままということになる。
定期的にギルドに戻ってきては「もう沼地には行きたくねぇ」と言いつつもまた沼地に戻って行く3人をアバラ達は見ていた。
それから一日かけて目的のダンジョンの情報と遠征に必要な道具を用意し、次の日の朝、乗り合い馬車に乗って出かけることになったのだった。
「へぇー!角馬じゃない!流石ギルドが予約してくれただけあるわね!」
乗り合い馬車の停留所には角馬と呼ばれた普通の馬よりも一回り大きく、一本の長い角を生やした馬が馬車につながれていた。
「角馬?ユニコーンって言うんじゃねぇのか?」
「ユニコーンはこんなところにいないわよ。これは角馬っていう魔物よ。魔物の中では比較的飼いならしやすいって言われてるけど、普通の馬より狂暴だしエサもたくさん食べるからコストもかかるんですって。そのかわり馬力もスタミナもあるし、弱い魔物なら近づいても来ないからすごく便利なんですって!」
角馬の話をしていると御者の男が嬉しそうに下りてきた。
「嬢ちゃん詳しいねぇ。うちはドルマン商会の商隊さ、角馬をこんなに用意できる商会はグラトニアじゃうちぐらいなもんさ!あんたら、途中の村まで乗ってく冒険者だろ?ギルドから『護衛も兼ねて安く乗せてやってくれ』って言われてるからそのつもりでな」
ドルマン商会はイウラ達が商人の見習いとして働かせてもらっていた商会だ。グラトニアでは横に並ぶ者のいない大商会で、イウラ商会への出資も行っている。
アバラ達は商団の馬車5台の一番先頭に乗せられ街道を進む事になったのだった。
街道は思ったよりも整備されていて、異世界の馬車の旅というにはずいぶん快適に感じた。街道は土づくりだが、思ったよりも固く作られており、途中で大きなへこみ等があると、馬車を一度止め土魔法使いの御者が修繕してから進むようにしていた。曰く御者が土魔法を使えると重宝されるらしく、後続がスタックしたりしないように先頭に立って悪路を舗装するのはよくあることらしい。
「馬車の旅っていうともっとケツが痛くなったり気持ち悪くなったりするんじゃねぇかって想像しさ
てたけど、案外平気なんだな。座席にクッションもあるし結構快適だぜ」
「まぁドルマン商会の馬車だからっていうのもあるけどね。これに慣れたら安い馬車なんて乗れなくなるわよ?」
「私はこうして同年代の人と馬車に乗るっていう経験が無いのでちょっと楽しいです!」
軽口を叩きながらも常に外を警戒するアバラに、どうせ索敵能力では敵わないからと開き直って杖を磨いているテトラと、全てが新鮮そうなセシルはそれぞれが初めての仲間との馬車の旅を楽しんでいた。
時刻は夕方、空が茜色にうすく染まってきた頃、暗くなる前には目的の村に着きそうだと御者に言われて馬車の淵へ身を乗り出すアバラ。
少し開けた場所に出たようだ。街道から少し離れたところに森が見え、なんとなくその森を見ていると森の木々が不自然に揺れるのが見えた。
「ん…?おい、あそこ!なんかいるぞ!」
アバラが指をさした森から小さな影とそれを追いかける様に30㎝程の大きさの蝙蝠の様な魔物が何匹も飛び出してきた。
「ダスクバットだ!こっちに来るぞ!!」
御者はそう叫ぶと馬車を止め後続に大声で止まるように指示を出した。
「出番ね!アバラ!馬車に寄られると面倒だから離れてヘイト取って!!」
「OKだ!こっちに来い!蝙蝠共!俺はアバラだ!夜露死苦!」
アバラが【名乗り】を上げ馬車から飛び降り、前に駆けていく。ダスクバットの群れはグッと進行方向を変えアバラに迫って行く。
「【プロテクション】!」
セシルが防御力を上げる魔法をかけ、アバラも【炎拳】を纏わせダスクバットを迎撃するも、数が多く中々手こずってしまう。
「あぁ!もう!面倒臭いわね!こうも多くちゃキリがないわ!」
テトラも火属性魔法を連発しているが一向に数が減る気配がない。
ダスクバットの攻撃も【プロテクション】で強化されたアバラに傷1つ付けることはできていないが、戦いが長引けばアバラに集めたヘイトが散ってしまい角馬や荷馬車に被害が出る可能性があった。
「あぁ、もうしょうがないわね!アバラ!ヘイト取り直して!」
「お、おう!蝙蝠共!アバラを見ろ!」
再度【名乗り】を発動させる事によって散りかけたヘイトを再びアバラに集める。2度3度と使うと効果が薄れてしまうので、何か策があるのだろうと蝙蝠を散らさぬように立ち回るアバラにテトラが無情な一言を告げる。
「セシー!やりなさい!」
「はぁ!!?」
「水魔法ならアバラに大したダメージはないわ!一網打尽にするなら今しかないわ!さぁ!やりなさい!」
「テトラ!てめぇ!先にヘイト取らせて他の選択肢潰しやがったなぁ!覚えてろよぉ!!」
「アバラさん!ごめんなさい!【スプラッシュ】!!!」
セシルの渾身の水魔法はあっという間に蝙蝠とアバラを巻き込む濁流になり街道の隅には夥しい数の蝙蝠と真っ赤なリーゼントの男が打ち上げられたのだった。




