31話
「よぉし!いざ廃坑跡へ!ってな」
「はいっ!いざ!」
「アンタら朝から元気ねぇ…」
髪をセットすれば朝のスイッチが入るアバラと朝に強いセシルを尻目に、順当に朝は眠いテトラがあくびをしている。
朝、おばちゃんに作って貰ったサンドイッチを頬張りながら歩くこと数時間、一行は廃坑跡へ続く森へと入って行った。
「もう誰も使ってない廃坑だって話だけど、当時の道はまだ全然歩きやすいままなんだな」
森の中に残った道の後は時折倒木などで塞がれているものの、十分な幅と平らな形状を保っていた。
「でも魔物も出るらしいですから、気を付けていきましょう」
そうしているうちに開けた場所に出ることができた。木は伐り倒されてハゲ山になっており、所々に廃坑と思われる穴が開いている。
「この穴とかに魔物が住み着いてたりしてるのかしら…」
「ポルコさんもこの辺りにいるんですよね…?どれかの穴に住んでいるのでしょうか…」
注意深く辺りを伺っていると近くの岩が崩れてガラガラガラと音を立てた。
「うわ!びっくりしたぁ…」
「まて、なんか様子が変だぞ!」
ガラリと岩が落ちた場所の地面が盛り上がり、ゴゴゴゴゴと地面が盛り上がっていく。その物体は近くの切り株や土を巻き込んで大きな人型の塊になっていく。
「こ、これは!ゴーレム!」
「「ゴーレムゥ!!?」」
それは岩を骨組みに、土や木の根を繋ぎにして出来ていた。とにかくこの辺りに落ちている物を使って生まれたという感じだった。
パラパラと土や小石を落としながらアバラ達に迫ってくる。
「こいつは厄介そうだな!俺はアバラって言うんだ!夜露死苦!」
アバラが【名乗り】を上げて突撃する。後ろでは既にテトラとセシルが杖を構えている。
「【プロテクション】!」
セシルが防御力を底上げする魔法を使った。続けてテトラが魔法を放つ。
「【フレイムアロー】!」
突貫するアバラを追い越すように炎の矢がゴーレムを直撃し、続けてアバラの拳がゴーレムの胴体を捉える。
「って、うわぁ!!?」
魔法と攻撃の直撃を食らったはずのゴーレムだったが意にも返さず腕を振りぬきアバラを攻撃した。すんでのところで回避したアバラだったが振りぬいたゴーレムの腕が廃坑の壁に当たり岩が音を立てて崩れる。
「動きは遅えが固いし、あの攻撃は食らったらまずいな…」
「アタシの魔法も効きが悪いわね…どうしようかしら…」
そうしている間にもゴーレムはずんずんと迫ってくる。歩いてきている間にもパラパラと体の一部が崩れて落ちているが本人は気にも留めていないようだ。それを見てアバラが閃いた。
「一旦下がりますか!?」
「いや!思いついたことがある!新技の試し時だぜ!【炎拳】!!」
アバラが拳と拳を打ち合わせると、両の拳に火が付き燃え上がる。サブ職業【魔拳士】のスキル【属性拳】だ。【属性拳】は拳に属性付与と属性に応じたステータス上昇を与える。
【炎拳】は火属性付与と攻撃力上昇だ。
「コイツに火属性は効きが悪いわよ!」
「それはどこを燃やすかによるだろ!!」
アバラはゴーレムの腕をかい潜りゴーレムの足、木の根が絡まり足を支えている場所を殴りつけた。アバラの狙い通り木の根に火が付きあっという間に燃え上がる。足の岩を補強していた木の根がボロボロと崩れだし、ゴーレムがグラリと揺れる。
「ゴーレムが膝をついたわ!そういうことならアタシだって!【ポイントフレイム】!」
アバラに倣ってテトラも腕の付け根の木の部分を狙った。ゴーレムの腕が音を立てて崩れ、チャンスと見たアバラが飛び上がる。
「っ!危ない!アバラさん!」
アバラが飛び上がった先、ゴーレムが最後のあがきとばかりに残った腕を振るった。あわや直撃かと思ったその瞬間、アバラが空中でさらにもう一歩飛び上がった。
「残念!【空歩】だ!」
アバラの【魔拳士】のもう一つの新技【空歩】は魔力を消費して空中でさらにジャンプすることができる技だ。そして大きく空振りし体勢を崩したゴーレムの頭に渾身の【ド根性頭突き】をお見舞いした。
「痛ってぇぇぇ!!ゴーレム固ぇ!」
「でも効いてるんじゃない!?頭崩れたわよ!」
「とどめは私が!【スプラッシュ】!」
頭を壊されても未だ動き続けるゴーレムにセシルの水魔法が炸裂した。崩れかけた身体を濁流の如き水流が押し流し、ついに原型を留めなくなったゴーレムは完全に沈黙した。
ゴーレムが動かなくなったのを確認してから三人でハイタッチする。
「新技、やるじゃない!やられるんじゃないかってヒヤッとしたわ!」
「セシルの水魔法も良い威力だったな。回復とサポートも出来て攻撃もできるなんて最高だな!」
「いえ…!私には細かく狙うコントロールなんてできませんから…!テトラさん、やっぱりすごいですね!」
称えあいながらゴーレムの残骸を眺める。
「よっと…これが魔石か、結構デカいな。ていうか、このゴーレムって今生まれたんだよな?こんなことってあるのか?」
「ゴーレムが周りの鉱物を巻き込んで生まれる、というのは聞いたことがあります。そもそも魔物が生まれるメカニズムが完全に解明されている訳ではないので、推測も混じるのですが…」
セシル曰く、魔物が生まれるには空気中に含まれる魔力の元【魔素】が関わっていると言われており、魔素の量が一定以上の場所に魔物が自然発生する可能性が高いのだとか。
「魔素は魔法を使ったりすると勝手に燃焼されちゃうから、人が多く住む場所とか戦いが終わった直後なんかには魔物が湧きにくいって話よね?」
「そう言われています。今回は人があまり来ない廃坑というゴーレムが湧く条件が偶然整ってしまっていたのだと思います」
「わかったような、わからねぇような…とりあえず、人がたくさんいるところには湧きにくいってことだな?」
あきれるテトラと、うんうんと頷くセシルという対極の反応をする二人であった。
「ん?なんかいい匂いがしねぇか?」
突然くんくんと鼻を鳴らすアバラ。
「えー、何にもしないわよ?お腹すいて鼻がおかしくなったんじゃないの?」
「バカ、そんなんじゃねぇよ。こっちだ。」
アバラの鼻を頼りに進んでいく一同はハゲ山の向こうに細く煙が立ち上っているのを発見した。
「アバラさん、お鼻がいいんですね。私にはまだわかりません…」
「アンタって野生っぽい所あるし、獣人みたいに五感が鋭いって言われても変じゃないと思うわ」
「そうか?やべぇ、すげぇいい匂いだ。腹減ってきた…」
アバラのお腹がグゥと鳴る。時刻は丁度お昼頃だ。煙の元に向かうと、そこでは一人のドワーフが火を焚いていた。
「む…なんじゃお前ら」
「あんたがポルコか?俺はアバラってんだ。冒険者やってる。」
「確かにワシはポルコじゃが…その冒険者のアバラが何の用じゃ」
ポルコは話しながらも火からあまり目を離さず、常に様子を見ている。火には鍋と焼き魚がかけてあった。
「あぁ、折り入って頼みがあって来たんだか…それ、めちゃくちゃいい匂いだな」
アバラ達、誰からともなくグゥと腹が鳴る音がする。
「ふん、腹減りか。こんな辺鄙な場所まで来たんじゃ、飯ぐらい食うて行け」
そういうと火にかけていた鍋を降ろし、アバラ達によそって渡す。
「いいの?アタシ達みたいな得体の知れない奴にご飯なんかあげて」
「わざわざワシの名前を知ってる人間が来たんじゃ、ワシには害される覚えもなけりゃ盗られて困るもんもありゃせん。となりゃただの客人よ、こんな場所じゃ大したもんは作れんがこんなもんで良けりゃいくらでもやるわい」
「では…頂くとしましょうか…」
一同はスープに恐る恐る口をつけた、スープにはごろっとした野菜と肉が入っており、あっさりとした味付けなのに肉からでた油と野菜の旨味がしっかりと溶け込んでおり、旅と戦いで疲れたアバラ達の身体に、じわりと染み込んでいった。
「うめぇ…なんだこれ…」
「美味しいわぁ…特別な物が入ってるような感じはしないのに、なんでこんなに美味しいのかしら…」
セシルも無言だが噛みしめる様にスープを飲んでいる。それをみたポルコは目を細めて少し寂しそうにしたあと、スープが入った鍋を持って穴倉の一つに入って行った。
あっという間にスープを平らげたアバラ達が少し待っているとポルコが戻ってきた。
「話があるんじゃろう?家の中は狭いからのう、ここで良ければ聞こう」
「あぁ、どこから話そうかな…」
アバラは自分は異世界人であること、その異世界人が店を開こうとしていることなどを、話して伝えた。終始黙って話を聞いていたポルコだったが、料理人として来てくれないか、と聞いた時、厳しい顔をして答えた。
「…断る。ワシはもう店はやらん…」
「…なぜだ?イウラ達は本気だぞ。獣人達も雇っているし、もしタチの悪い嫌がらせがあっても全力で守ってくれるはずだ。アンタが復帰するならこれ以上の条件は中々無いハズだと思うが」
ポルコは「ふぅ」とため息をつくとポツポツと話し始めた。
「…ゴランの奴から聞いとるんじゃろ。ワシはドワーフの中でもはみ出し者じゃった。じゃがの、ワシは人に飯を食ってもらうのが好きだったんじゃ。ワシの飯を美味いと食ってくれる客の顔が好きじゃった。人族も亜人も獣人も関係なくの。じゃがの…嫌がらせを受ける様になってからというもの、ワシは人の顔が見たくなくなったんじゃ…人を蔑む顔、見下す顔、恨む顔。ワシはこのままじゃと人が嫌いになりそうじゃった…じゃから山に籠ったんじゃ。ワシは…人が嫌いになりとうない。じゃから、店はやらん…」
「ポルコさん…」
ポルコの吐露した言葉を苦しそうにセシルが聞いている。
「ポルコさん、アンタ、優しすぎるんだな。俺はアンタを諦めるつもりはねぇ、話を聞いてむしろアンタしかイウラの店を任せられる男はいねぇと思った。でも、今日は帰らせてもらうよ。まずはイウラにアンタが安心して働ける店を作って貰わなくちゃだな。スープごっそさん、めちゃくちゃ美味かったよ」
「…うむ」
そう言ってアバラ達は立ち上がり帰ろうとしたが、ふと思い出して立ち止まった。
「そういえば、ゴランさんからアンタに渡してくれって物を預かったんだった。渡せばわかるって言われたから中身は知らねぇんだけどよ」
アバラは荷物から長方形の重たい包みを取り出してポルコに渡した。
「これは…」
そう言ってポルコが包みを開くと、その中身は長方形のつるつるとした石だった。
「なんだそれ?」
「ははっ、ゴランの奴め…砥石を寄こしよった。ワシが調理道具の手入れをしとらんと思ったんか…馬鹿な奴め…お前に作って貰った道具達を…ワシが無下にするわけがなかろうが…」
ポルコは砥石を大事そうに抱えると、こらえる様にうっうっと泣き出した。アバラ達はポルコが落ち着くまでの間、少し一人にしておこうとそっと離れた場所の岩陰に座って待っていることにした。
「…もういいぞ…恥ずかしいもんを見られたわい」
「いや、そんなことねぇよ。ゴランさんの砥石を届けられただけでも来た価値があったってもんだ。じゃあ俺たちは帰るんでな、また来る」
「…もうこんでええぞ。ここには帰ってこんでな」
「え…それって…」
テトラが振り返って聞くと、ポルコが満面の笑みで立っていた。
「ワシは山を下りる。お前さんたちの言う店とやらに、もう一回賭けてみようじゃねぇか」
「ポルコさん!」
「気が変わったわい。ゴランに貰った道具達も、この砥石もこのまま山に置いとくだけじゃ腐っていくだけじゃ。これでもドワーフの端くれ、道具を大切にできん奴はドワーフとしても料理人としても失格じゃからのう!」
そう言って立ち上がるとアバラと固い握手をした。
「アンタならいつかきっとそう言ってくれると思ってたぜ。ゴランさんのおかげでちと早まったがよ」
「ふん!その代わり店作りは口を出させてもらうからの!そのイウラとか言うのによく言っとくんじゃぞ!」
ポルコは荷物をまとめるのに数日かかるからと、さっさとアバラ達を追い出してしまったのだった。




