30話
「ふふふっ…」
「何ニヤニヤしてんだよ」
アバラと共にゴランというドワーフが営む鍛冶屋に向かう途中、セシルはやたらと上機嫌にアバラの後ろをついてきていた。
「いえ、アバラさんは本当に素敵な方だなと…」
「何をよくわかんねぇ事を…そろそろ鍛冶屋が見えてくるんじゃねぇか?」
大通りから少し外れた道の角にその店はあった。外観は古いが丁寧に飾られた鎧や剣は素人目にも出来が良く、埃などたまらぬようキレイに掃除が行き届いていた。
奥に入ると、身長150㎝ほどのずんぐりとして髭を蓄えた男が座っていた。
「む、客か。欲しいものはなんだ、剣か、鎧か。というかなんだお前は、変な頭しよって」
「変な頭じゃねぇ、リーゼントだ、よく覚えとけ。アンタだろ?ゴランっていうドワーフは」
アバラは真っ赤なリーゼントを上向きにして額に親指を突き立てながらそう尋ねた。
「あぁ、お前さんがポルコの奴に会いたいっていう異世界人か」
「ポルコ?」
「お前さんが探してるドワーフの料理人だよ。ドワーフの癖にサブ職に【鍛冶屋】を取らねぇ変わりもんよ」
聞けばドワーフはどんな職業に生まれてもほどんどサブ職に【鍛冶屋】を取るらしい。【鍛冶屋】を取らなくとも【彫金師】など鍛冶にもかかわる職業を選ぶ者が多いとか。
「ワシはポルコの奴と幼馴染ってやつでな。アイツは確かに変わりもんじゃったが他のドワーフと同じようにこだわりを持って真剣に料理をつくっとった。じゃがやはり同族の中じゃ後ろ指をさされることも多かったんじゃ」
「そんなにドワーフの中じゃおかしな事だったのか?」
「変人扱いされるくらいにはの。じゃがあやつも店を持ってからはそこそこ繁盛して種族問わず色んな奴らに愛されとる店になったハズじゃった」
「ハズ、とはどうされたのでしょう…?」
ゴランは「フン!」と面白くなさそうに息を吐く。
「教会じゃよ、それと貴族じゃな。奴らは亜人の癖に料理店なんぞやっとるのが気に食わんかったらしい。ポルコの奴はひどい嫌がらせに会ったんじゃ。店の窓を割られたり、通りすがりにぶつかられたりの。」
「ひどい…」
教会で修行をしていたセシルだが、そんな事実があったことは知らなかったようだ。
「それからポルコの奴はひどく気に病んでしもうての、元々ドワーフにしては気の優しい奴じゃったからの。ついには耐えられなくなって、店を捨てて山に籠ってしもうた。これがその山の地図じゃ。」
そういうと紙切れ一枚と布にくるまれた長方形の何かをテーブルに置いた。
「これは?」
「ポルコの奴に渡せばわかる。持って行ってくれ」
アバラが手に取るとそれはずっしりと重く、布越しでも冷たさを感じる物だった。
「わかった。ありがとよ、教えてくれて」
「その山は昔鉱山じゃった。今は廃坑になっておってハゲ山になっちょる。あちこち穴ぼこだらけで魔物も出るから気を付けるんじゃぞ」
ゴランの店を出てから少し歩いたが俯いたままのセシルの様子を伺うアバラ。
「ショックか?教会が亜人差別をしてたって」
「はい…私がいた教会ではそんな話はしてなかったので…そういった派閥があるとは聞いたことがありました。教典には【何よりも人命を大切にせよ】という基本的な理念があるのですが、その人命の部分を【人族の命】と解釈して亜人や獣人と切り分ける考え方です。私は王室育ちですから、街中でそんな差別が横行してるなんて思いもしませんでした…」
「冒険者ギルドの奴らは獣人もいるからな。そういう差別みたいなのはご法度だ。俺も目の前で見たことはないが…やってる奴らはやってるんだろうな」
アバラは元居た世界での差別を考えていた。肌の色、性別が違うだけでも差別は起きる。ましてや獣人や亜人など姿形の違う人間が差別と無縁で生きられることはないだろうと。
「イウラ様達はそういった現状を憂いてあの店を作ろうと考えたのですね…」
「俺たち異世界人もこっちの世界の人からすれば異物だからな。他人事じゃないのかもしれん。まぁ兎にも角にもポルコってドワーフを探す準備をしねぇとな。買い物して帰るぞ」
「はいっ」
外の世界に憧れを抱いていたセシルからすれば、物事全てが新しく新鮮で、だからこそ鮮烈に焼き付いた住人達のリアル。現実と憧れの乖離を埋めるための時間だった。
「あぁ、そちらの依頼でしたらイウラさんから伺っていますよ。すでにギルドからの正式な依頼として処理されています」
夕食を食べにパーティで冒険者ギルドに来たついでにルイシュに事情を説明したところそんな返答が返ってきた。
「イウラも律儀な奴だな。別に報酬なんてなくても手伝ったのによ」
「だめよアバラ、こういうのはきっちりしとかないと。お友達同士だからこそ一方的な関係にならないようにってイウラ君だって思ってるのよきっと」
テトラに嗜められ「そういうもんか」と納得するアバラ。
「そういえば例の沼地のオオヒルの件は何かわかったのでしょうか…」
おずおずとセシルがルイシュに尋ねる。
「その件はグラトニアブラザーズ…ホイさん、コウさん、ローさんのパーティに複数回に掛けて調査を行って貰っているところです。今のところ巨大モンスターの痕跡は見つからないものの、やはりオオヒルの巨大化傾向があるようで慎重に調査を行って頂いています」
「あの三人組、そんな名前だったんか…」
アバラに倣ってズッコケ三人組、もといリーゼント三人組になったグラトニアブラザーズが沼地の調査に駆り出されたようだ。彼らはサブ職【ヤンキー】のおかげでステータスアップに成功しており今までグラトニアでは中堅クラスと見られていたが、今では平均よりも上位のパーティとして注目されていた。
「げぇ…あんな大きなオオヒルが何匹もいるのかしら…想像するだけで嫌になるわね」
「原因不明というのもなんだか気味が悪いですね…」
「そういえば、イウラの所で飲食店を出すって言ってんだけどよ、ギルドの飯屋からすればライバルみたいなもんだろ?大丈夫なのか?」
ギルドとイウラ商会の場所はそれほど離れておらず、イウラ商会は獣人、亜人も分け隔てなく扱う店にする予定なのでギルドの客層と食い合う様な形になるのだ。
「問題ありませんよ。元々飲食業は食べていくのもやっとな冒険者達への救済措置の様な物で始まったことですから。立ち行かなくなれば本業の冒険者ギルドの業務に集中すればいいだけですので」
「確かにここの飯ってリーズナブルだもんな。うめぇし」
「あーあご飯の話してたらお腹すいてきちゃった。難しい話はやめにして注文しましょ。明日も早いんだしさっさと食べて帰らなきゃ」
ポルコがいると言われている廃坑跡は頑張れば日帰りで行ってこれる距離だと分かっているため次の日は早朝から街を出ることが決まっている。
ルイシュにお礼を言って、いつもの様によくわからない肉と魚のフライをエールで流し込む三人だった。




