29話
それから数日が経った。セシルは元々のポテンシャルもあり、すぐに【アイアン級】になり、アバラ達との連携もスムーズに行えるようになった。冒険者としての生活はセシルの夢だったこともあり、危惧していたトラブルもなく平穏な日々を送っていた。
「あら、アバラさん。早いんですね。今日はクエストはお休みですが、お出かけですか?」
すでに馴染みの宿の一員になっているセシルは朝食を終え、優雅にお茶を飲んでいた。飲んでいるのは宿屋の安いお茶なのに不思議と高級な茶葉を嗜んでいる様に見えてしまう。
その気品を隠せないだろうか、と思いながらもセシルの向かいに座り朝食をガツガツと食べ始めるアバラ。
「今日はなんかイウラに呼ばれてんだよ。どうも頼みがあるとかで。ついでに新しい商会の店舗もだいぶ出来上がってきたみたいなんでそれも見てこようと思ってな」
「そうなんですね。テトラさんも朝からいらっしゃられなくて、皆さまお休みなのに忙しいんですね…」
テトラは朝から冒険者ギルドの訓練場で魔法のトレーニングをしてる。本人はこっそり行ってるつもりのようだが、休みの日は大抵朝から昼過ぎまでトレーニングをしていることは実はアバラも気づいている。それを言うのは野暮だからと何も言わないだけなのだ。
「暇なら一緒に来るか?イウラの頼みって事は多分なんかのクエストじゃねぇかと思うし、一緒にいてもいいと思うぞ」
「いいんですか?イウラ様という方はアバラさんのお友達なんですよね?私、ハナコ様という方にも会ってみたいです!」
アバラ達からイウラやハナコの話を聞いていたセシルは、いつかお話してみたいとワクワクしていたのだった。
「もしかしたら忙しいかもしれねぇけど行ってみっか」
「ハイ!」
「あら、二人でデートかい?アバラちゃんも、テトラちゃんというものがありながらずいぶん罪づくりじゃないかね」
アバラ達が食べ終えた朝食の食器を片付けに来た宿屋のおばちゃんが二人を茶化す。
「まぁ…デートだなんて……そうなんですか?」
「おばちゃん、俺たちは仲間だぜ?そんな浮ついた関係じゃねぇよ、じゃあ行ってくるぜ~」
そうあっさりと受け流して先に宿を出るアバラ。
「ふふっ。だそうですよ?行ってきます」
と全く動揺した様子もなくアバラに続いて出ていくセシルだった。
「なんとまぁ…テトラちゃん。強敵だねこりゃ」
下世話なおばちゃんのひとり言が誰もいなくなった宿屋に響いた。
鍛冶屋が金槌を打つ音が聞こえる。屋台では串焼きのタレの美味しそうな匂いが漂っている。昼間から酒を飲むオヤジがゲラゲラと笑っている。そんな大通りを歩いていくとイウラ商会の新しい店舗の工事が行われていた。
アバラとセシルは串焼きに齧り付きながらイウラに会いに工事現場を覗いた。
「あの、流石に下品ではないですかね…食べながらなんて」
「セシーは上品過ぎんだよ。冒険者なんて下品なくらいで丁度いいんだよ。それにその方がバレにくいかもだろ?」
「そういうものでしょうか…」とアバラに良いように言いくるめられセシルは串焼きに齧り付いた。
「あ、アバラ!来てくれてたんだ!あれ、お連れさん?ははっ、その串焼き美味しいですよね。なんの肉かわかんないけど…」
流石に恥ずかしかったのか串焼きを方張りながら俯くセシル。
「最近パーティに入ったセシーっていうんだ。暇だっていうから連れてきた、いいだろ?」
「うん、大丈夫だよ。初めまして、イウラ商会のイウラです。セシーさんですね?よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします…」
イウラの案内で工事途中の一階を抜けて二階に上がる。二階の工事はほとんど終了してる様で、応接室の様な部屋に入った。
「ア、アバラさん…!やっぱり串焼きを食べながらなんて変ですよ…!それに失礼です…!」
今更気づいたセシルだったが、それに気づいたイウラが「ははは」と笑う。
「アバラが適当にけしかけたんでしょう?気にしなくていいですよ。それに、僕らがいた世界なら気安い間柄なら別に不思議でもないですよ」
すると部屋にゴミ箱とお手拭きをもったハナコが入ってきた。
「アバラ君、ダメよ?からかう様な事しちゃ。初めまして、サイキハナコです。ハナコって呼ばれてます」
ポニーテールにメガネをかけたハナコが串焼きのゴミとお手拭きを交換しながらアバラに注意する。
「俺がやったなんて言ってねぇけどなぁ」
「もう!アバラさんがいいって言ったんじゃないですか!初めまして!セシーです!」
そのまま勢いで自己紹介まで済ましてしまったセシルとみんなで笑いあい、アイスブレイクは済んだようだ。
「だいぶ建物が出来てきたんだな。思ったより早く改装が進んでるんでびっくりしたぜ」
「こっちの人は僕らがいた世界みたいに重機や電気の工具がない代わりに魔法を使うからね。思ったより全然早く作業が進んでるよ。でも一つ問題があってね…その事をアバラに頼みたくて呼んだんだ」
ハナコが持ってきたお茶をすすりながら頷く二人。
「一階は飲食ができるオープンテラスの様な場所を作りたいんだ。酒と食べ物を提供する飲食店ね。で、そこで料理を作ってくれる人を探してるんだ」
「いいじゃねえかオープンテラス。俺にはオシャレとかサッパリわからんがなんか良さそうだ」
テトラがここにいたら「うんうん」と頷いてそうだとセシルは思う。
「それでね、すごく適任な人のうわさを聞いたんだ。その話を聞いてぜひその人に!って思ったんだけどね…
その人なんだか気難しい人みたいでどうやら街の外に住んでるらしいんだ」
「気難しいって…そんなよくわからん奴にやらせていいのか?」
「腕は確かだと思う。それに彼はドワーフだからここの獣人たちともうまくやれると思うんだ」
イウラは奴隷商に連れてこられたが、行く当てのない獣人たちを保護のも兼ねて自身の商会で雇っている。
「ドワーフ?」
「そう、ドワーフの料理人。珍しいだろ?僕はここを亜人や獣人、それから僕らみたいな異世界人が人目を気にせず過ごせる場所にしたいんだ。そのためにどうしてもその人の力を借りたい」
「わかった、いいぞ。手伝ってやる。でもどうすればいいかとかは全くわからんぞ」
相変わらず拍子抜けするほどあっさりと依頼を引き受けるアバラを「ふふっ」とセシルが笑って見ている。
「アバラ君は本当に竹を割った様な性格よね。でもありがとう、私達じゃ街の外に出るのは難しいから…」
ハナコがそう言ってお礼をするとイウラが懐から紙切れを取り出した。
「ここの地図の所にゴランさんっていう鍛冶屋のドワーフの人が住んでるから彼に話を聞いて貰えるかな。僕らが話を聞きに行ったときに、実際に交渉しに行く奴に会わせろって聞かなくてね。詳しい場所は聞けなかったんだ」
「ドワーフ族の方は頑固な方が多いですから…一度そうと決めたら中々曲げてくれません。それほど遠くない場所ですし、この後覗いてみますか?」
地図を確認したセシルがアバラに確認する。
「おう、そうするか。じゃあ早速行ってくるわ。お茶、ごちそうさん。俺も店が開くの楽しみにしてっから!じゃあな!」
言うが早いかさっさと出て行ってしまうアバラの後に続いて「失礼します」と丁寧に頭を下げて出ていくセシルを見送ったイウラとハナコ。
「まぁいつもの事だけど、すごい行動力だよね。まだ報酬の話もしてないのに」
「アバラ君の事だからいらないって言いそうじゃない?」
「ダメだよ、絶対に受け取って貰わないと。僕らは商人なんだから、お金のことはちゃんとしないとね」
「もちろんよ。アバラ君の期待に沿える様なお店も作らないとね」




