28話
セシルの着替えも終えて次に向かった先は冒険者ギルドだった。
「あのクソデカヒルの報告とセシルの冒険者登録をしなきゃな」
「とても大きなオオヒルがいたんですよね…?オオヒルと言えば大きくても50センチ程と聞きますが…」
「いやいや、そんなもんじゃなかったわよ。3メートルはあったと思うわ」
気持ち悪いと身震いするテトラ
「それよかよ、セシルってそのまま名前登録したらまずいんじゃねぇか?いくら変装してても王女ってバレちまうだろ」
セシルは魔法使い風のローブをかぶり、伊達メガネをかけているため知り合いに顔を覗かれでもしない限りはわからないくらいの変装にはなっているが、名前を知られれば流石にバレてしまうだろう。
「では、セシーとでも呼んで頂ければ。もし呼び間違えそうになっても訂正が効きますし」
「ちょっと安直じゃない?大丈夫かしら」
「なるべく人前に出る機会は減らすつもりですから。大丈夫だと思います」
そうこうしている間に冒険者ギルドについた。ギルドはいつもの様にガヤガヤしており、アバラ達に気づいた様子もない。
受付でルイシュを見つけ、オオヒル討伐の報告をする。
「ずいぶんたくさん唾液を集めたんですね。何匹討伐されたんですか?」
オオヒルの唾液が入った瓶の中身を確認しながらアバラ達の冒険者証を確認するルイシュ。冒険者証には
討伐したモンスターの種類と数が記録されており、これで何匹討伐できたか確認できるのだ。
「いや、実はよオオヒル一匹分なんだよ。とんでもなくデカい個体に会ってよ、ちょっとトラブルも重なったもんでそいつだけ討伐してすぐ帰ってきたんだ」
「一匹分ですか!?そんな馬鹿なことが…でも確かに冒険者証にはオオヒル一匹分の記録しかありませんね…」
冒険者証には持ち主が討伐した魔物の記録が残るような魔法がかかっているので、討伐数の不正などはできない様になっているのだ。
「本当なのよ!アタシやアバラよりずっと大きかったんだから」
テトラが手を大きく広げ小さい体一杯に大きさを表現する。
「そうですか…異常個体は珍しいですが時々はあることですので、上に報告しておきます。それから、後ろにいる方は初めての方ですね?ご登録ですか?」
アバラとテトラの後ろで冒険者登録用紙を書き上げニコニコと待っていたセシルがスッと前に出てきて用紙を出す。
「とても字がお上手ですね。お貴族様の生まれですか?」
そうルイシュに言われアバラ達三人はギクッと身体を強張らせた。
「い、いえ。ちょっと事務仕事の経験があるんですよ~…ふふふ~…」
目を泳がせながら答えるセシルにさして気にも留めていないルイシュは続きを読む。
「職業は後衛、魔法職ですね。得意魔法は回復と水魔法…凄いですね、私も簡単な回復魔法は使えますが、それだけで良くパーティにスカウトされたんですよ。セシーさんであれば高レベルパーティでもお誘いが来るかもしれませんね」
「わ、私はアバラさんとテトラさんとパーティが組みたいので!」
そう言うセシルを見てニコニコと笑うルイシュは冒険者登録用紙に印をついて【ウッド級】の冒険者証を取り出した。
「私も彼らなら良いパーティになれると思いますよ。アバラさんテトラさん、よかったですね」
それからパーティの申請もつつがなく終わり、三人はギルドの端の席でささやかなパーティ結成のお祝いをすることにした。
「いやぁ、一瞬ヒヤッとしたが、無事登録できてよかったな…」
「面目ありません…」としょぼくれるセシルの横で豪快にエールを飲むテトラ。
「あんなの予想できないわよ。しょうがないわ。それよりセシル、アナタのステータス、アタシ達に開示することになっちゃったけどよかったの?ほら…恥ずかしいじゃない?」
「自分の秘密を明かさないとパーティになれないなんて、なんだか一蓮托生って感じがあって素敵じゃありませんか?もちろん恥ずかしさはありますが、秘密を共有しあってる関係ってちょっと憧れてたんです!」
「流石、ちょっと庶民離れした発想ね…そ・れ・と・も、見られて困るステータスしてませんって事かしら!」
テトラが「このこの~!」とセシルに絡む。
横ではアバラがエールをチビチビ飲みながらそのやり取りを見ていた。
「やっぱり異世界の価値観はわからんなぁー…」
「そういえば今回は沼地のエリアの下見のつもりだったのに、バタバタしてたからあまり探検できなかったわね」
「まぁ依頼は無事達成できたんだしいいだろ。そう思えばあの異常個体?って言われてたオオヒルに会えてラッキーだったのかもな。アイツのおかげで一匹分でたくさんの唾液が集められたんだからよ。二度と会いたくねぇけど」
「ほんと、あんなのに血なんか吸われたら即ミイラよ。絶対そんな死に方したくないわ」
「でも、そんなに大きなオオヒルでも動物や魔物から血を貰って生きてるんですよね?普段はどうやって生きてたんでしょうか…」
そう言ったセシルの呟きを聞いてアバラの脳内に嫌な予感がよぎった。
「ちょっと嫌な想像しちまったんだけどよ…ヒルってのは本来相手から血を吸いつくす様な生き物じゃないよな…?」
「そうねぇ、寄生虫?とは違うかもしれないけど」
よくわからず首を捻るテトラ。
「もしも、もしもだぞ?“あんな大きなオオヒルが血を吸っても平気な生き物”があの沼地にいた可能性ってのはないか…?」
そう聞いて徐々に顔を青く染めていくセシルとテトラ。
「ちょ、ちょっとルイシュさんに相談してくる!!!」
「まて!俺もいく…ってセシ…セシーが真っ青になって固まっちまった!」
「私が倒れていた沼地に…?そんなオオヒルの宿主になれるような強大な生き物が……?フフ…フフフ…本当にアバラ様達に出会えなければとんでもないことになっていたかも…フフフ…」
テトラが走り出し、アバラが慌て、セシルが自身の幸運を神に祈り始めたころ、ルイシュが何事かと走ってきた。
話を聞いたルイシュは顔を真っ青にしてぶつぶつと話し始めた。
「オオヒルが一度に血を吸う量は体積の5倍から10倍……3mの個体なら…?数千リットル!?それだけの血を吸われても平気な魔物がいるとすれば…小さくとも30m級…下手をすれば50mを超える可能性も……!?どうしてこんなことに気づけなかったの!!?」
ルイシュは血相を変えて「す、すぐに調査隊を編成します!!」とギルドの奥に走って行った。
「…沼地のクエストはお預けだな」
「触らぬ神に祟りなしね…セシーに出会って一番幸運だったのはあそこで帰るきっかけになったアタシ達だったかも…」
「私の今までの人生で最大の不運を経験したつもりでしたが…すぐ近くにそれを大幅に更新する可能性があったなんて考えたくもないです…」
「まぁまだそうと決まったわけでもねぇしな…切り替えてセシルのランク上げの予定でも決めるか…」
いまいち切り替えができないまま次の冒険の計画を立てる一行だったが、この時の心配は後に最悪の形で的中することになるのだった。




