27話
まだ暗くなるには早い時間、道中これといった危険もなく、アバラ一行は王都グラトニアが見える場所まで帰ってきた。
「もうすぐ着くけどよ、セシルって王女様だよな?門の兵士とかに見つかったらまずいんじゃねぇの?」
「はい、なのでこの正面の門ではなく西門に回りたいと思います。そちらなら当てがあるので…」
敢えて大回りする所を見られると不信に思われる可能性もあるので門から見えない辺りから大きく回って西門に近づく。
西門はそれほど大きな門ではなく、行商人などは正門側へ回るので比較的スムーズに見張りの兵士の前まで進む事ができた。
「アバラ様たちはこのままお入りください。私もすぐに追いかけますから…」
「おい…大丈夫なのかよ…」
「あの子、近くの藪から兵士に近づいてるわよ…まさか闇討ちする気なんじゃ…」
物騒な事を言うテトラを尻目にセシルはあくびをしている一人の兵士の元へ後ろから忍び寄った。
「眠そうですね、トミー」
「はっ!何奴!…って姫様!どうしてこんなところに!?」
トミーと呼ばれた兵士はセシルだとわかるとすぐに小声になり身をかがめた。
「懐かしいですねトミー。昔は良くこうしてこっそり城から出入りしましたね」
「いやいや、何年前の話なんですか。それに姫様はガマル辺境伯のところにいかれたのでは?」
「お願いです、トミー。何も言わず、何も聞かなかった事にして私を中に入れてください。決してあなたに迷惑をかけるようなことはいたしません」
真剣に頼むセシルを見てトミーは緊張を緩める。
「何を言っていますか、私が何より一番大切にしているのは亡き王妃さまとセシル様でございます。なに、いささか久々ではございますが、いつものお忍びのご旅行と変わらないではありませんか、ささ、見守っておりますから兵士用の通用口から中に入ってください」
「ありがとう、トミー。全て片付いたら必ずお礼をしますからね」
通用口を通って城下へ入っていくセシルを見送ったトミーは、誰にも見つからない様にこっそりと敬礼をした。
「何もいりませんよ。セシル様の幸せが私の幸せでございます」
幼い頃、王妃に拾われ、まだ幼かったセシルの成長を見届けた一人の兵士は今では家庭を持つ真面目が取り柄の男になっていた。
彼がルールを破る時は王妃とセシルの為だけだった。
「お、セシル通れたみたいだな」
門をくぐった先で待っていると門のすぐ横の路地からセシルが手招きしているのが見えた。
「よかった、セシル。暴力沙汰にならなくて…」
「流石に兵士も私に手を上げたりはしないと思いますが…」
微妙にすれ違った会話をする二人だったが、すぐに切り替えて話始める。
「この服装では目立ってしまうので、代わりの服を貸してくれそうなお店に行きたいと思います。ついてきてください」
そういうと路地をジグザグと進み始めた。迷いのない歩みから下町なのにずいぶんと歩き慣れているなと感心するアバラ。
「さっきの門を通った時もそうだけどよ、なんだか慣れてそうだな?」
「ふふっ、幼い頃はよく城を抜け出しては遊びに行ってたんですよ。これから行く店もよくお世話になっていた所なんです」
「流石のおてんばっぷりね。行動力はその頃のままってわけね」
「照れます…」
「あんまり褒めてないけど…アナタが嬉しいならいいわ…」
そうしていくつかの路地を曲がった後、大きな通りの道に出た。目指した店は路地の奥ではなく、人目につかぬ様に路地を進んだだけで意外と大きな店だったようだ。
「イールスさん…いらっしゃいますか?」
セシルがそっとドアを開けて中に入る。幸い客は他にいないようだ。店内は洋服屋だと思ったが店内には布生地のロールやリボンなど、服飾に使われると思われる材料が所狭しと置いてあった。
「あら、珍しいお客様だこと」
店の奥から出てきたのは緑の短髪で唇に薄っすら紅を入れた痩身の男だった。
「お久しぶりです、イールスさん。急に来て申し訳ないのですが、服を用意して頂けないでしょうか…」
「ふふっ。ずいぶんと久しぶりね。お忍びで城下で遊んでた時以来じゃない。お友達まで連れて…初めまして、イールスよ。うちはお洋服屋さんではないんだけど、オーダーメイドで服を作ったりもしてるの。作って欲しい服があったらセシルちゃんのお友達ってことで割り引いてあげるからよろしくね」
そう言うと、セシル用の服を取りに行ったのだろうか、店の奥に入って行ってしまう。
イールスがいなくなったあと、アバラは妙にそわそわしてあちこち見渡していた。
「どうしたのよアバラ。きょろきょろして」
「いや、もしかして俺の特攻服と同じような服作ってくれるんじゃねぇかなって思ってよ…これ一張羅だからよ、替えが無くて困ってたんだよ」
それを聞いてテトラはゲンナリとしてしまう。
「アンタって髪型に目が行きがちだけど、その格好もかなり変よね…なんなのよ、トッコウフクって」
「こいつもヤンキーの命みてぇなもんだ」
「あっそ」というとテトラも服の生地やリボンを物色し始める。やはり冒険者といえど年若き乙女である。かわいい服やオーダーメイドなんて言葉には憧れるものである。
「イールスさんは【被服師】という職業をお持ちで目で見ただけでサイズも図らずに服を作ってしまうんですよ!それに作るのもとっても早いんです!」
「流石に今すぐ作って渡したりはできないわよ?」
そう言って店の奥から出ていたイールスは洋服やローブ、小物をテーブルに並べ始めた。
「これが服ね。冒険者風のカジュアルな物を選んだわ。後は頭をすっぽり隠せるローブ、必要でしょ?それからこっちは髪留めと伊達メガネで…」
「随分と準備がいいじゃねぇか。でもこれだけ用意してもらって金足りっかな」
金と聞いてギョッとしたテトラは急いで小銭袋の中を確認する。
「あら、いいのよ。セシルちゃんは常連だからね。いつもツケ払いなの、って言ってもこうやってお忍びで来るのは本当に何年ぶりかしらね…」
そういってイールスはにっこりと目を細める。
「今回は少し事情が違うので…いつ頃お支払いできるかわかりませんが…必ずお支払いしますから!」
「大丈夫よ、セシルちゃん。そんな心配してないわ、それに新しいお客さんも連れてきてくれたじゃない?」
そう言ってアバラを見る。
「俺か?」
「そうよ。イウラちゃんから聞いてるわ。なんでもそのトッコウフクとやらが欲しいんでしょ?アタシなら作ってあげられると思うわよ。もちろんオーダーメイドだから、そこそこの金額はするけどね」
「マジかよ!それにイウラと知り合いなんだな!金は頑張って払うから新しい特攻服作ってくれ!今着てるやつもお気に入りなんだが、これ一枚しかねぇのは困るし、何より新しい特攻服ってだけでもワクワクするぜ!」
イウラとはアバラと同じくこの世界に転移させられた異世界人で、今ではこの王都グラトニアで商会を開いている【商人】だ。
ちなみにアバラは特攻服を洗濯しているときはズボンとサラシ一枚を腹に巻いている状態のまま過ごしており、そのたびテトラに「服着ろ!」と蹴り上げられている。
「イウラちゃんともいい関係を築けそうだから、なるべく安くしてあげるわ。セシルちゃんの着替えの服は用意しておいてあげるからまた取りにおいで。それから、そのドレスここで着替えて行きなさい。何があったか知らないけどボロボロじゃない。直しといてあげる」
「何から何まで本当にありがとうございます。イールスさん」
セシルが丁寧にお礼をする。イールスはニコッとしてまた店の奥に入って行った。




