3話
「下町へ逃げたハズだ!追え!」
「ハァ!ハァ!しつこいなぁ!!」
城を飛び出しなるべく人気のない方へ逃げるも、アバラの風貌はあまりに目立ちすぎる。自身のアイデンティティではあるものの、こういう目立ち方は本位ではない。
路地に入った先の物陰に潜み息を整えていると何やら兵士たちが会話をして引き上げていくのが見える。
「撒いたか…?急な引き上げだな…」
兵士達が異世界人を追いかけまわしているという状況は国王からすればあまり知られたくない事であり、国の信用にかかわる事なので、早々に打ち切って引き上げたのだがアバラには知る由もない。
ネタ職の異世界人が一人いなくなったところでどうということもない…という理由もあるが。
「はぁー……疲れたぜ」
その場にドカッと腰を下して安堵する。
「キサラギのやつ、うまくやってくれっかな…まぁもう俺には関係ないか。俺もこれからどうするか考えねぇと」
立ち上がって尻についた砂を払っていると路地の奥から女性のキーキーと喚く声が聞こえる。
「はーなーしーてー!やーめーろー!」
「クソこいつ、うるせぇな」
「口塞いじまえ。誰かに見られる前に行くぞ」
「むーむー!」
路地の奥に見に行って見ると、まだ幼げな印象の残る金髪ショートヘアの女の口を塞ぎ肩に担ぐ大男二人の姿があった。
「人さらいって奴か。異世界って感じがするなぁ」
気の抜けたような独り言を言いながら巨漢の二人組に近づく。無視もできたがアバラの性格上それはあり得ない選択だった。
「おい兄ちゃん。回れ右だ。何も見なかったフリすりゃ見逃してやる」
アバラに気づいた大男の一人が指関節を鳴らし威嚇する。
「つうか何だ?お前?変な頭しやがって。異世界人か?」
「異世界人って言ったって見た目は俺らとあんまり変わらねぇって話だぞ?こいつはただの変態ってやつだ。ダハハァ!」
大男の肩から金髪の女が泣きそうな目でアバラを見つめた。
「誰が変態じゃボケェ!!!」
「ほげぇ!!!」
瞬間、真っ赤なリーゼントが跳ねた。一直線に女を抱えた男の脳天に頭突きをカマし昏倒させる。
「キャッ!」
落ちてくる女を片手で掴みその場に下す。
「このヘアースタイルはリーゼントって言うんだ。よく覚えときやがれ小悪党!」
真っ赤なリーゼントを上向きにして額に親指を突き立てる。
「なんだてめぇ!一体何しやがった!」
相棒が一撃でノされてしまい、狼狽するも
すぐにナイフを抜き身構える。
「クソ…無事で済むと思うなよ…!」
「お前…実はあんま喧嘩したことねぇだろ?そりゃ武器もって脅せば普通は何もできなくなるもんな」
大男が雄たけびと共に振り抜くナイフをスウェイで躱すと、その勢いのまま金的を蹴り上げた。
「ハウワッ!!?」
「得物で攻撃しますーってバレバレなんだよ。あと異世界でもちゃんと金的は痛ぇんだな。勉強になったよ」
内股になって倒れる大男を「うわー…」という目で見る金髪女に手を貸し立たせる。
「災難だったな。ケガねぇか?」
「えっと…その…ありがとね。アタシの名前はテトラよ。あなたは?異世界人よね?」
恐る恐るといった様子で訪ねてくる女は身長は150㎝台だろうか、小柄で金髪を肩ほどの長さで整え活発そうな印象を受ける。
「おう。俺はアバラだ。アバラリュウト。さっきの奴らも言ってたがそんなに異世界人って分かりやすいか?」
「うん…髪型も服装も見たことないわ。異世界人じゃなかったら魔族って言われたほうがまだ納得できるかも」
そういうとテトラはアバラとの距離をそっと伸ばした。
「なんだよ」
「いや、助けてもらっといてほんとアレなんだけど…私、襲われたりしないわよね?」
「んだとてめぇ!本当に失礼な奴だな!」
「ごめん!ごめんって!助けてもらって本当に助かったわ!あいつ等最近流行りの人さらいだと思うの!アタシってやっぱり美人だから?さらわれちゃいそうになってさー!」
確かに顔は整っている方だと思われるが、それよりも小さい。色々と。そしてベラベラと喋る姿から「見た目はいいのに…」と言われるタイプなのは容易に想像がつく。
ゲンナリとした表情のアバラは「もしかして助けないほうがよかったのか…?」とも考えながら相変わらず高速回転する女を眺めていた。
「そうだ!あいつら!衛兵に突き出してやるんだから!」
「あぁ、あの大男共ならお前がくっちゃべってる間にそそくさ逃げてったぞ」
「なんですってぇ!」
見ればとっくに人さらいの姿はなく、それをみたテトラはキーキー騒いでいる。
「次に会ったら燃やしてやるんだから!」
「お、おう…がんばれよ。それじゃあな」
触らぬ神になんとやら…アバラが立ち去ろうとすると肩をガッと掴まれた。
「ねぇ、アバラって言ったよね?異世界人なんでしょ?君の話も聞かせてほしいなぁ~」
「くそ…」
「めんどくさい奴に絡まれたって思ってるでしょ〜?ちゃんとお礼にギルドの酒場で奢らせて貰うからさ~いいでしょ?」
「わーったよ…ていうか酒場?この世界ってもしかして20歳じゃなくても酒飲んでいいのか?」
アバラの表情が期待に満ちた顔に変わる。
「え?酒?そんなもん10歳も過ぎればみんな飲んでるわよ。流石に子どもにまで勧めないけどね」
「マジかよ!最高じゃねぇか異世界!おごりで良いんだよな!」
「も、もちろんお礼だからね。でもそんなに持ち合わせ無いし、加減してよ?それに、あんたの話もちゃんと聞かせてよね」
「おう!任せろ!」
そう言って意気揚々と歩き出したアバラだったが、ふと立ち止まった。
「あのよう…」
「何?」
「お前、10歳は超えてるよな?」
「焼くわ、アタシの魔法で。ウェルダンかレア、お好みは?」
「もーほんとありえない!」
テトラがエールの入った樽ジョッキをドンッと置く。
テトラが怒っているのは幼児体型をアバラにいじられたからではない。
王都グラトニアの王が率先して異世界人召喚を行ったこと、その後の対応、アバラに対する仕打ち。その全てを聞いたからである。
アバラは自分の想像以上にエールを飲み慣れているテトラを何とも言えない気持ちで見ながら酒を仰ぐ。
「俺は理不尽だと思ったけどよ、やっぱこの世界の人間から見てもやばいのか?」
「やばいなんてもんじゃないわよ。異世界召喚なんて外法も外法よ。運よく召喚できたからよかったけど、異世界の狭間に置いて来ちゃう事だってあるんだから。」
「……マジ?」
「大マジよ。引っ張ってくる異世界もほぼランダム。決められるのはおおよその年齢の幅くらいじゃない?無数にある異世界から偶然選ばれた若い人たちってだけだから、まともな人間が無事転移して来れただけラッキーね。どの異世界から連れてきたかもわからないから完全に一方通行。相手の生活も命も尊重されない。まともな人間のやることじゃないわ。」
「じゃあ帰る方法がないっていうのは…」
「本当でしょうね。聞いたことないもん。あーあ、ほんと人様の世界に迷惑かけて最悪だよ。もっと最悪なのは“ここが魔王国との最前線だから国際的にはギリ黙認されるだろう”って事かな」
テトラは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「それ、こっちの世界に転移してきた時にも聞いたぞ。魔王国ドラ…何とかってのとお隣さんだって」
「【魔王国】ドラゴニアね。それも詐欺みたいな話なんだけどね…。確かにこの国【王都】グラトニアは魔王国と最も隣接する国…ではあるんだけど、グラトニアとドラゴニアの間には【瘴気の谷】って呼ばれる誰も近づけない渓谷があってね。その渓谷のおかげで魔王国からも、王都からも進軍することができないのよ」
「は?何だよそれ」
「だから詐欺みたいなもんなんだって。でも一応事実上は一番近い国だし?勇者が生まれれば国としても威厳が出るし、戦力も増強できるしって事なんじゃないかなぁ」
「ふざけてやがる…」
たまらずその場に突っ伏してしまう。顔が熱くなってきているのは酒のせいだけじゃないはずだ。
今になって知らない世界に来てしまったという事実を改めて実感する。そしてここに来る前に置いてきてしまった仲間たちがよぎる
「あいつら…大丈夫かな」
「何?家族?」
「いや、まぁ家族っていうには照れくせぇな。仲間だよ。ここに来る直前まで仲間のために戦ってたんだ」
それほど時間は経っていないはずだが、思えば遠い世界に来てしまった。
「ギルドみたいなもの?」
「まぁそういう感じなのかねぇ。この世界風に言うと、行き場のねぇ荒くれ者達を束ねてチームを作ってたって感じかな」
「何それ、すごいじゃん。アバラはリーダーだったの?」
「そうだな…いつの間にかそういう感じになってた」
そうつぶやくと柄にもなく目頭が熱くなるのを感じたアバラは頭を振った。
「あ゛っクソっなんだよ!そういうつもりじゃねぇっての!」
そうだ、仲間たちとはもう会えない。それだけではない自分がいた世界に戻る方法はない、少なくとも今のところは。もし見つかるとしても奇跡のようなものだろう。そう思うと大して仲が良いとは言えなかった親や親戚のことも二度と会えないとなると話が変わってくる。
「へへっ、いいんじゃない?泣いても。アンタ傍から見てもよっぽど辛い目にあってるよ」
そういうとテトラがアバラの下から覗き込んでくる。
「年相応のとこもあんじゃん」
「う、うるせぇ!ぶん殴るぞ!それにな、俺はあきらめねぇぞ!ぜってーいつか元の世界に帰る!」
潤んだ眼を乱暴に拭うと真っ赤なリーゼントを上向きにして額に親指を突き立てた。
「あきらめんのはガラじゃねぇんだ。泣くよりもな。」
「かっこいいじゃん。その頭はナシだと思うけどー」
「んだと!」
そういうと顔を見合わせてゲラゲラと笑いあった。
「で、これからどうすんの?まさか王国軍に入るとか言わないでしょ?」
「なんも決めてねぇな。まぁ少なくともあのクソ王の元で働くのはナシだ。他の異世界人共には悪いが俺が真っ先に国賊になりかねん」
テトラがケラケラと笑う
「言えてる。すぐ王様殴りに行きそうだもん」
「だろ?俺でもできそうな仕事あるか?」
そういうとテトラはふふんっ!と鼻を鳴らした。
「その話を待ってました!実はあんたの話を聞きたかったのも最初からこっちが目的だったのよねぇ」
というとガサゴソとカバンをあさり一枚の用紙を出した。
「アンタ、アタシと冒険者やらない?」




