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異世界ヤンキー道 ~召喚されたヤンキー、理不尽だらけの異世界を「気合」と「漢気」で突き破る~  作者: いしころの問題
一章

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2話

「ええい暴れるなっ!」


「痛ってぇ!なにすんだ!」


 アバラが連れてこられたのは真っ当な部屋などではなく牢屋だった。


「死にたくなければ大人しくするんだな」


「ハッ!やっぱりそれが本音かよ!お前らが欲しいのは都合のいい戦力で俺や他の異世界人はいらねぇってわけだ!」


 衛兵の一人がしまったと言う表情で口を塞ぐが、もう一人の上官らしき兵士に「余計なことを言うな」と怒られてしまう。


「おい、牢屋に入れるなら手枷は必要ねぇだろ。外せよ」


 木製の錠を腕につけられたまま牢に入れられたアバラが悪態をつく。先ほどの上官らしき兵士が話しかけてくる。


「異世界人を簡単に殺しはしないから安心しろ。狂暴すぎるから錠はそのままだが」


 殺しはしない。その言葉を鵜呑みにできる様な状況とはアバラは思えない。


「どうだかな。勝手に連れてきておいてこんな扱いする世界の奴らをどう信じろと?」


「勘違いするな。礼節を欠いた行為だと感じている者がほとんどだ。一部の者を除けばだがな」

 

 先ほどの兵士がバツの悪そうな顔をしている。

 アバラが思っていたよりも冷淡な返答に面食らってしまい、落ち着きを取り戻す。中世を思わせるような世界観や理不尽さを受け、自分の様に逆らった人間はすぐに殺されるのではと思っていたが。どうやら違うらしい。


「お前たち異世界人には悪いと思っている…。若い者ばかり、家族がいる者もいるだろう。帰る手段などない異世界から強制的に連れてこられ戦いに出されるのだからな。」


 兵士の顔は暗い。周りの兵士達は上官の言葉を聞きうつむきがちに目をそらしている。


「…へぇ?お前さんはまともに話せるじゃねぇか。でもいいのかよ、みんな聞いてるぜ?」


「少し話し過ぎたようだ。我々兵士に国に逆らう権利などない。牢に入れろと言われたら善人でも入れるのだ。覚えておけ」


 そう言うと兵士は皆どこかへ行ってしまった。異世界召喚の後ろにある暗い事情を察したアバラは「ふんっ」と鼻をならし横になった。




「くそっ、全然開けに来ねぇな…」


 どれほど時間が経ったのか。思えば「頭が冷えるまで」などただの方便である。国が手を下せば人一人いなかったことにするのは簡単だろう。


「むかつくぜ、クソ」


 立ち上がり石壁を蹴るが足が痛いだけだ。

 アバラは思い出していた。自身がどうして不良やヤンキーなどというレッテルを張られるようになったのか。

 この男は嫌いなのだ、嘘、欺瞞、不公平。とにかく曲がったものが許せないのだ。潔癖症と言えるまでに自身が嫌う物に逆らい続けた結果が今のアバラという男なのだ。

 この異世界転移という物は曲がっている、どうしようもなく曲がっていて逆らえない、逆らえなかった。その行き場のない苛立ちがアバラの中で鬱屈とした感情を生み出していた。


「あああああああ!!!!」


 叫びとともに思いっきり頭を壁に叩きつけた。ガァン!というすさまじい音と同時に激しい痛みが襲う。壁は全く変わった様子はない。


「痛ぇなあクソが!!!」


 叫びながら再び頭を叩きつける。ガァン!ガァン!と牢屋に音が鳴り響く。

 血が飛び散るがお構いなしに頭を叩きつけ続ける。錠のついた両手も叩きつける。


「固いんだよクソッ!」


 足で蹴る、殴る、頭突く

 音に驚いた兵士が階段を駆け下りてくるのが聞こえる。


「何をしている!」

 

 何をしているのかと聞かれてもアバラ自身もよくわかっていない。苛立ちと混乱と自身の情けなさで頭に血が上り、暴れまわっているに過ぎないのだから。


 しかし、この一見意味のない行動が思いもよらぬ結果を招くことになった。


 渾身の頭突きを叩きこむ瞬間アバラの脳裏に言葉が鳴り響いたのだ。


【スキル:ド根性頭突き を獲得しました】


 ドガァァァァァァ!!!

 今までビクともしなかった石壁が粉々に砕け散った。

 土煙の中、兵士が武器を持って集まってくる。


「何事だ!」

「異世界人が牢を破った様です!」

「そんなバカな…」


 土煙の中から真っ赤なリーゼントを上向きに赤い男が歩いてくる。


「なんだ、これ…」


 自分がやったことが信じられないという表情のアバラだが状況は理解できた。


 アバラは頭を振りかぶると手枷に頭突きを決めた。すると先ほどまで頑丈だった手枷はいとも簡単にバラバラになった。


 目の前には武装した兵士が数人。先ほどアバラを捉えた兵士の力を考えれば相手になるはずもない。しかしアバラは喧嘩というものをよく知っていた。喧嘩はビビった方が負けなのだ。ヤバい時ほど余裕だと不敵に笑う。

 そうやって何度も強敵を倒してきたアバラの事は、訓練された兵士達には歴戦の猛者のように、もしくは得体のしれない化け物の様に見えたかもしれない。


「最高の気分だぜ…俺を止めたきゃかかってこいや!!!」


 虚勢だが、勝算がない訳ではなかった。武器はある、先ほど頭に響いた言葉【スキル:ド根性頭突きを獲得しました】と聞こえた時から頭突きの威力が上がった。上がったというよりも、打った相手が柔らかくなったように感じた。武器さえあればやりようはある。


 兵士達はまだ転移してきたばかりの異世界人が強いわけなどないと高を括っていたようだが、その予想はあっけなく崩される。


「異世界人だ!殺すんじゃないぞ!!拘束するんだ!」


 レベルで勝てない複数人相手、しかも武装した兵士である。万に一つもアバラの勝ち目などないと思われた。

 だが兵士達はアバラを見誤っていた。この男、多対一の戦闘に非常に慣れていたのだ。それにアバラにはこの異世界で手に入れた新しい武器もあった。

 手近にいた兵士を捕まえて頭突きを叩き込む。とんでもない威力の頭突きに一撃で兵士が昏倒する。その兵士を盾に道をつくり、また一人と敵を倒していく。


「オラァ!!まだまだ足りねぇぞ!!」


「こいつ、本当に転移してきたばかりなのか!?異世界人とはこんなに狂暴なのか!」


 一人がアバラを後ろから羽交い絞めにする。力で大きく劣るアバラには抵抗できるはずもなかった。

 しかしこの場において天はアバラに味方した


【スキル:ステゴロ自慢 を獲得しました】


「これは…」


 アバラの身体に力が漲った。相手を上回る程ではなかったが。


「問題ねぇ、張り合えるなら戦える!」


 後ろの兵士に肘うちを入れると緩んだ腕から脱出。後ろ蹴りを入れて距離を取る。

 複数の兵士がドミノ倒しに倒れ、それを足蹴に集団から抜け出す。


「待ってろクソ王!!!」



 一方国王はキサラギ達戦闘職の者達にこれからの事や、この国での役割を説明するため別室にて話をしていたのだが。

「異世界人はおそらく複数のスキルを獲得しています!身体能力向上系だと思われます!」


 国王の元へ伝令の兵士が走って来る。既にアバラが脱獄しこちらへ向かっていることは知らされていた。


「奴は牢に入れていたはずであろう?簡単に脱獄できるはずが…」


「牢に…?暴れてる異世界人ってアバラ君の事ですよね?牢屋に入れてたんですか?」


 近くで話を聞いていたキサラギが国王をにらみつける。彼もまたこの理不尽な異世界召喚に疑問を持つ者の一人だった。


「いや、その、あまりに暴れるのでな…?灸を据えるという意味合いでちょっと牢に入って貰っていただけなんじゃよ」


「信用できませんね。他の戦闘職ではない人たちはどこへ?」


 キサラギにもアバラの正義感の様な物が伝播していたのかもしれない。彼が物言えぬ様に連れていかれてしまったのなら自分が交渉を買って出ようとも思っていた。もちろん勇者という立場であればある程度発言力があるのではという打算はあったが。


「も、もちろん牢などには入れておらんぞ?なぁ?」


 国王が大臣に目配せをし大臣がうんうんと頷く。


「非戦闘職の者たちはこの後街へ出て職業斡旋を受けて頂く予定です」


「職業斡旋って…いきなりこの世界で働けって言うんですか?」


「非戦闘職とはいえ異世界人の持つスキルは貴重じゃ!きっと直ぐにこの世界でもやっていける様になれるから心配はいらんはずじゃ!」


 思った以上ずさんな計画にため息が出る。そもそも誘拐まがいの召喚を「自国の為」と割り切り魔王との戦争の道具にしようとしている者たちである。殺さないだけマシぐらい思っていても不思議ではない。


「(アバラ君が暴れているのはきっとこの異世界転移の理不尽に怒っているから…?)」

 

 アバラの本心はわからない。だがおそらくは…そう思うキサラギはギュッと拳を握った。


「僕にも何かできることが…」


 その時、扉がバァン!と開かれた。

 兵士の一人にヘッドロックをかけながらアバラが蹴り開けたのだ。


「邪魔するぞ!」


 そのままずるずると兵士を引きずりながら歩いて入ってくる。

 その場にいた異世界人達も驚いているがアバラはお構いなしだ。


「止まれ!それ以上は許さんぞ!」


 兵士達が槍を持ってアバラを囲む


「やめろっ!やめないかっ!」


 それを見て顔を真っ青にした国王が静止する。それでなくとも勇者達の心象が悪そうなのだ。これ以上悪化させるわけにはいかない。


「ウォッホン、兵士達に無礼があったようだ。非礼を詫びよう。して、何か用があったのかな?」


「あ?何勘違いしてんだ。クソ王、お前には何の用もねぇよ」


「なっ!?」


 突然のクソ呼ばわりに青かった顔を真っ赤にするがアバラには関係ない。


「俺は頭が悪いんでな。クソ王め、悔しいがお前をどうにもできん。俺が用事があるのはキサラギ、お前だ」


 名指しで呼ばれたキサラギは驚いて目を見開く。

 兵士を引きずりながら近づいてくるアバラに慌ててキサラギも近寄る。


「ぼ、僕?何かな、というか大丈夫なのかい?すごいケガしてるみたいだけど…」


「悪りぃな。見てわかる通り余裕がねぇんだ。だから簡潔に話すけどよ」


 真剣なアバラの様子に、唾を飲み、余計な話はなしにしてキサラギから切り出した。


「多分、君の言いたいことわかる気がする。理不尽だよね、この状況」


 一瞬きょとんとしたアバラだったが、考えてることが同じだと気づきガハハハッと豪快に笑った。


「話が早くて助かるわ。やっぱお前頭いいんだな、正直この場で俺や他の連中にできることはねぇ。奴らにいい様に使われるだけだ」


「うん」


「だが、お前だけは違うはずだ。お前は奴らと交渉できるカードを持ってる」


「勇者、だからね。正直どこまでできるかわからないけどやってみる」


 アバラが拳を突き出す。


「俺は馬鹿だからよ、作戦って程賢く立ち回れねぇ。だからお前が代わりにやってくれ、俺から言えるのはそれだけだ」


 突き出された拳とアバラの顔を交互に見た後、アハハハと笑い出した。


「アバラ君、君ってすごく良いやつだね!うん、僕も頑張るよ!」


 アバラの拳に自身の拳を合わせる。


「俺みたいなやつが良いやつなもんかよ。奴らのやり方が気に入らなかった、それだけだ。悪いな、一方的に。生きてられたらきっと借りは返す」


「死なないでよね。この世界で初めての友達なんだ」


「この世界で一人目のダチか。悪くねぇな!」


 そう言ってガハハと笑うと、アバラは兵士を投げ捨て一目散に窓をぶち破り外へ飛び出した。

 大慌てでアバラを追う兵士達を横目に


「…ここからは僕の戦いだね」


 キサラギはそう呟くと国王の元へ歩みをすすめた。


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