25話
日の出と共にアバラが起きる。
「ふぁーあ…やっぱりキチンと休めてるとは言い難いなぁ…」
「当たり前でしょ…野営なんてそんなもんよ…」
そういうテトラも眠そうだ。目をこすり、寝袋を畳みながら母親の様にアバラに話しかける。
「朝ごはんの用意するから、アンタは顔でも洗っといで」
「ういー…」と言って川へ向かうアバラ。
数分後、ばっちりといつものヘアスタイルをキメて帰ってきたアバラは先ほどまでの気怠さが嘘の様に元気になっていた。
「よし!今日もバッチリだぜ!」
それをゲンナリと見たテトラは用意した芋のサラダを挟んだパンを差し出した。
「アタシはあと何回これを見てガッカリすればいいのかしらね…。はい、朝ごはん」
「おお!うまそうだな!サンキュー!」
芋サラダが挟まれたパンを美味しそうにガツガツ食べるアバラ。それを横目にテトラもサンドイッチを食べる。
「ほら、がっつきすぎ。ほっぺについてるわよ」
そういってアバラの頬についた芋の欠片を人差し指で拭う。その指をじっと見た後、何を思ったのかアバラの口にねじ込んだ。
「ぶぇ!何しやがる!」
「残したらもったいないでしょうが」
「だからってやり方があんだろ!」
ぎゃあぎゃあといつもの様にやりあいながら荷物をまとめ、準備を終える。
「いざ!沼地へ!」
「おー!って…あんまり乗り気にはなれんけどな…汚れるし」
「大丈夫!アタシ達には秘策があるのよ!」
そうして沼地へつくとテトラがカバンから首飾りを取り出した。
「それが秘策か?」
「そう!これは【沼地渡りの首飾り】って言ってね。足回りが汚れたり濡れたりするのを防いでくれるのよ!」
テトラが首飾りをさげ沼地の小さな水たまりに入ると、靴から薄っすらと光が出て水を弾いているのがわかった。
「おお!すげぇ!」
「一つ難点があるとすれば効果があるのは膝下くらいまでで、あんまり深く入ると普通に汚れるわ。あとは制限時間もあるから、魔力が切れたらチャージしないとダメね。まぁ、アンタも魔道具の櫛で練習してると思うけど、魔力でチャージすること自体は難しくないわ。でも魔物と戦ってる最中なんかだとチャージできないから、こまめにしておくことね」
「なるほどなぁ」
そういうとザブザブと沼地に入っていくアバラ。
「すげぇ!汚れねぇぞ!」
「思い切りがいいわね…ちょっと見習いたいわ…」
「クエストは…オオヒルの討伐と唾液集めだっけ?ちょっと気持ち悪そうだが…どこにいるんだろうな」
そろそろと沼地に入るテトラとじゃぶじゃぶと進むアバラ。
「オオヒルは普通のヒルと違って普通に沼地から飛び上がって襲ってくるらしいわ。ちょうどアンタみたいに激しく水面を揺らすとね…」
「え…」
その瞬間沼地の泥が盛り上がり、バサッーーー!!!と魔物が現れた。それは全長3メートルはあろうかというヒルの化け物だった。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
全力で逃げ出すアバラとテトラ。
「あんなにデカいなんて聞いてねぇぞ!!!」
「アタシだって知らないわよ!!!精々ボールくらいだと思うじゃない!!!」
「どっちにしたって囮に使いやがったな!!!」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ!!!まずはアイツをなんとかしないと!!!」
そういうと足を止め、同時にザッとオオヒルと向かい合う二人。
「俺はアバラだ!夜露死苦!」
「【フレイムスピリット】!」
【名乗り】を上げヘイトを引くアバラと、広範囲に無数の火の玉を生成し敵を囲むテトラ。
「キシャーーー!!!」
オオヒルがアバラに噛みつかんと襲い掛かるのを後ろに飛び上がって回避する。
「おい!こんな奴に血吸われたら一瞬でミイラになっちまうぞ!」
「アタシだって吸われたくないわよ!火あぶりにしてやるから頑張ってヘイト取ってて!!」
空中に展開した火の玉がゆっくりとオオヒルに当たると当たった個所からジュウッと音がして苦しみ始めたが、致命傷にはなっていないようだ。
「効いてるぞ!」
「でも仕留め切らないかも!隙作って!」
「任せろ!」
そう言うと威嚇するように体をもたげたオオヒルのボディに魔力を込めた回し蹴りをみまう。
「まだ【鬼纏】は使えねぇが、お前にはこれで十分だ!」
重い一撃をくらったオオヒルは絶叫の後、激しくのたうち、悶え苦しむ。
「そこ!【ポイントフレイム】!」
暴れるオオヒルが大きく開いた口内にテトラの魔法が炸裂した。肉を焼く臭いと泥水が蒸発する水蒸気が辺りを覆う。
体内を焼かれたオオヒルはしばらく悶えた後力尽き沈黙した。
「全くとんだリハビリだぜ…」
オオヒルの唾液は口の中にある唾液腺から抽出されるようだ。死んだオオヒルの口の中に唾液採取用の瓶を入れて唾液を集めるアバラは、せっかくの沼地渡りの首飾りの効果も空しく泥で汚れてしまっている。
「でもこんな大物滅多にお目にかかれないわよ。おかげで一匹倒しただけなのに唾液の瓶が5本も一杯になったわ!」
テトラはレンタルしたマジックバックにオオヒルの唾液を入れて満足そうだ。
「それは一本くらい瓶に唾液を入れてから言えよな!全部俺にやらせやがって!」
「嫌よ!気持ち悪いもの!」
「俺だって嫌だわ!」
いつもの様にぎゃあぎゃあと言い合っていると不意にガサッと近くの藪が音を立てた。
「む、新手か…?」
「またオオヒルかしら…」
杖を構えるテトラと様子をうかがうアバラが恐る恐る藪の中をかき分けていくとそこには青い髪の長髪の女性が倒れこんでいた。




