24話
昼の太陽が、真っ赤に輝くリーゼントをまるで日時計の様に照らしていた。
沼地へ行くクエストを受けたアバラとテトラは道中の草原で休憩していた。大の字に寝そべるアバラを横目に足を広げて座る金髪のショートヘアのテトラはアバラの足を叩いた。
「いつまで寝てるつもりよ。今日中に沼地の手前の休憩エリアまで行かないといけないんだからね」
そう言われあくびをしながら起き上がった男、時代遅れの真っ赤なリーゼントをしたアバラは背中の骨をバキバキと言わせながら立ち上がると思いっきり伸びをした。
「いやぁ悪りぃ悪りぃ。あんまりにも気持ちいい陽気だったもんでついな」
「もう、明るいうちにたどり着かないと野営の準備だって大変なんだから」
今から行く沼地には王都から歩いて一日かかる距離であり、沼地手前の川の近くで野営をしてから挑むというのが通例だった。
そのために街道を歩く二人だったが、道中特に危険もなく。こうしてのんびり休憩をしていた所だった。
「悪かったって。それじゃ、チャキチャキ歩くとしましょうかね!」
「このまま休憩エリアまで行っちゃうわよー!」
そうしてアバラ一行が沼地手前の川の畔までたどり着いたのは日が暮れる少し前の時間だった。
「完全に日が落ちる前に野営の準備しないと!」
「じゃあテトラは薪を集めてくれ。そのほかの準備はやっとくから!」
そういうとアバラはテキパキと野営の準備をしていく。
「あんた、野営の経験あるの?ずいぶん手際がいいわね」
「いや、親父がキャンプ好きでな。子どもの頃よく連れてって貰ってたから、多少の心得があるだけだ」
話しながらも他の冒険者が使っていたであろう野営の痕跡から焚火の窯に仕えそうな石をポンポンと運びあっという間に窯を作り上げ、慣れた手際で大きい布とロープを使って寝床の屋根を張っていく。
薪を運んできたテトラが張られた屋根をわさわさと揺らしながらアバラに尋ねる。
「この屋根?は必要なの?雨も降りそうにないし別にいいんじゃないの?」
「意外と屋根のあるなしってバカにならないんだぞ?寝てみたらわかると思うけどよ」
「ふーん」と興味なさげなテトラだが、ちゃっかり屋根の下の一番寝心地のよさそうな場所に自分の寝袋を設置すると荷物からタオルを出し立ち上がった。
「アタシ、そこの川で身体拭いてくるから」
「おう、行ってこい」
「…覗かないでよ?」
「おう。覗かねぇよ」
「…フン!!」
全く興味がなさそうに野営の準備を進めるアバラを見てムカついたのか一撃蹴りを入れるテトラ。
「痛ってえ!なんだよ!」
「行・っ・て・く・る・わ・ね・!」
「何だってんだよ…」
女心がわからないアバラであったが、等の本人は異世界に来て初めての野営にウキウキなのであった。
父親のキャンプ好きを受けついだアバラは別に料理好きではないがキャンプ飯と言われればワクワクするし、特別寝心地がいい訳でもないのに寝袋で寝る事は楽しみな男の子であった。
「戻ったわよ。アンタも身体拭いて、ついでに頭も流して来なさいよ。その頭だと寝れないんでしょ?野営の準備はほとんどやってもらっちゃったから夕食の準備はアタシがするわ」
「おお、助かるわ。じゃ、行ってくる」
川までたどり着くと一張羅の特攻服を脱ぎ、ちょうどいい感じの木にかけた。頭から思いっきり川に浸かりスライムワックスを流す。魔素由来の成分なので流れてしまえば魔素に還るだけだ。
「カッー!冷てぇー!!」
季節は秋頃だろうか。昼間は程よい暖かさだが夜は少し冷える。持ってきたタオルで髪を拭うと一度川に浸け、絞った後身体を拭く。
「あー…やっぱ頭洗うと眠くなるな…」
普段髪を下すとすぐに寝る生活をしているせいで頭を洗うと反射的に眠たくなってしまう難儀な体質を患っているアバラは眠い目をこすりながらテトラの元へ戻って行く。
「あ、戻ってきた。夕食もう出来るわよ…ってリュウくんっ…!」
「だから、なんで下の名前で呼ぶんだよ…」
アバラを見るととっさに顔が赤くなるテトラ。アバラは普段の奇抜すぎるヘアスタイルのせいで忘れられがちだが、実はかなりのイケメンで髪を下すと眠くなる体質のせいで眠たげな瞳はミステリアスな雰囲気を醸し出し、濡れた髪は水も滴るいい男なのである。テトラ曰く「リュウくん」、勇者パーティのミサキ曰く「なんとかしてあのままにできねぇのか?」と言われる始末である。
テトラは「忘れてたわー…」と眉間を抑えたあと頭をぶんぶんと振り気を取り直すと、焼いてあった厚めのベーコンとレタスを挟んだサンドイッチを手渡した。
「はい、リュウく…アバラ。温かいうちに食べなさいよ」
「おぉ…!これぞキャンプ飯…!」
眠いのを誤魔化しながらサンドイッチを頬張るアバラは幸せそうだ。
「あぁーうめぇ。焚火の前で食うと二割増しくらいは美味くなるのはなんでだろうなぁ!」
そういいながらガツガツと食べ進めるアバラを微笑ましく見つめながら自身もサンドイッチを食べるのであった。
「ほんと。美味しいわね」
食事を終え、片付けもし終えたあとテトラが先に寝袋に入った。
「見張りは大体4時間で交代よ。眠いでしょうけど、先に休ませてもらうわね」
「おう。流石に野営にも慣れねぇとな。眠いとか言ってらんねぇ」
そう言いながらもうつらうつらと危うそうにしているアバラを見てテトラはため息をついた。
「ねぇアバラ、少し話さない?」
「んあ?…いいけどよ。何話すんだ?」
「アンタの話、聞かせてよ。どんな子どもだったのかとか」
「いいけど、あんま面白い話はないぞ?」
「アンタがどうしてヤンキーになったのか、知りたいわ」
「んー…」というとアバラはぽつぽつと昔話をし始めた。
子どもの頃は…活発な方だったと思う。スポーツが好きでよ、バスケットボールってスポーツで司令塔をやってたんだ。え?すごいじゃないかって?いや、全然なんだよそれが。
バスケってのは身長が全てって言ってもいいくらい小さい奴には人権のないスポーツでよ。当時俺はチームで一番身長が低かったんだよ。身長が低い奴は比較的小さくても平気なポジションに回されんだ。それがたまたま司令塔だったって話。
当時から俺は負けず嫌いでよ、どんだけ背が低くて馬鹿にされても「絶対負けるもんか」って気持ちでやってたんだ。
でもよ。一度だけ全く歯が立たない相手に出会ったんだ。そいつは俺より背が高くて、高く飛べて、速く走ったんだ。
こんな理不尽が世の中にはあるのかって思い知ったね。思えば初めての挫折ってやつだったのかも。
それでバスケはやめちまった。我ながら堪え性がないってやつだ。
その代わり今度は空手を始めたんだ。戦うための武術ってやつだ。そっちの方が性に合ってたみたいでよ、段々身体も大きくなってきて俺はメキメキ強くなってたと思う。
でな、そん時の先生、師匠かな。に言われたんだ「空手家は武器を持ってるのと一緒だから、決して試合以外で人を殴ってはいけない」ってな。
あの頃は素直だったからな。俺は師匠の教えを守って決して人に手を上げなかった。
でもよ、見ちまったんだ。クラスの奴がいじめられて殴られてるのを。それを見てとっさに助けに入って殴っちまったんだ。そしたらたまたま当たり所が悪くて歯が折れちまったみたいでよ。そしたらあっという間に俺が加害者よ。学校の先生にも師匠にも親にも怒られた。
それからは最悪だった。もう誰も殴らねぇって思ってたら、今度は俺がいじめの標的になったんだ。毎日毎日殴られて蹴られた。なまじ俺は頑丈だったからよ、ずっと我慢してた。
「それで?どうなったの?」
テトラが悲しそうな顔をして話を聞いている。
「ある日プツーンと切れちまった。今までが嘘みたいに暴れまわって全員病院送りにしちまった」
「え゛」
「そっからは想像できるだろ。学校は停学にさせられて、師匠には破門にされるし親にはどやされるしで完全にグレちまった。んで、今の俺になったってわけ」
アバラは小枝を焚火に投げ入れた。パチッと火花が弾けて地面に落ちる。
「今思えば碌な人間じゃねぇよな。グレて家にも帰らずに喧嘩三昧。挙句パッと消えて異世界に来ちまった。俺ほど親不孝者もそういないだろうよ」
テトラはかける言葉が見つからないのか寝袋にくるまって押し黙っている。
「だから面白い話なんか無いって言ったろ。さぁ、話は終わりだ。さっさと寝ちまえ」
「…アタシはアバラの事。ちゃんと見るよ」
「…あ?」
「きっと子どものアバラは誰かに見てほしかったんだと思う。どうして手を上げてしまったのか、知ってほしかったんだよね。そのあともたくさん我慢して、我慢して偉いって褒めて欲しかったんだよね」
「…あぁ。きっとそうだろうな…」
「…だから、アタシはちゃんと見るよ…アバラがどうしたいのか……どうやって生きていくのか……」
アバラは照れ臭そうに頬をかいた。
「恥ずかしいから、あんまり子ども扱いすんな…って…」
「すぅ…すぅ…」
「…寝てやがる…」
「はぁー!」とため息をついて夜空を見上げた。寒くなり始めて澄んだ空気の空は満天の星空だった。
「口が軽くなっちまうのも、焚火のせいなのかねぇ…」




