18話
ある日のギルドの酒場の風景。
アバラは【鬼纏】の練習で魔力を使い果たし、酒場のテーブルに突っ伏していた。
向かいではテトラがナッツをつまみにエールを傾ける。
「アンタ最近夜はずっと魔力切れでぶっ倒れてるわね。よく毎日できるもんだわ」
テトラの言葉に顔だけ起こしてアバラが答える。
「…師匠からの命令だからな。【鬼纏】のコントロールができるまで続ける。流石に魔力を使い切るのは何も予定がない日だけにするが…」
「アンタ以外誰も目撃者のいない幻のお師匠様でしょー?夢だったんじゃないのー?」
「俺も夢だったと言われた方が納得できるんだけどな。目の前であんなもの見せられたら目だって覚める」
アバラの脳裏には今でもしっかり鬼そのものを纏ったラトネの姿が焼き付いていた。
「結局サブ職業の方はなんの進展も無しなんでしょ?それでその【キテン】とかう戦技は完成するまで使い物にならない技と。まぁ急いでる訳じゃないし良いんだけどね。最近はスライム液納品するだけでそこそこの稼ぎになるわけだし」
あれからというものハナコが新開発した化粧品の売り上げが好調らしい。スライム液の需要は増える一方で、上位を目指し始めた元底辺冒険者達はまだ戻ってこないのでアバラ達は最近スライム液集めに奔走している。
もちろんアバラのヘアワックス制作も順調で日々ハナコと二人で最高のワックス作りに勤しんでいる。
「そういうがなテトラ、お前はなんか新しい技とか覚えたのかよ」
「フフン。見てなさい【ポイントフレイム】!」
そう唱えると窓の外に火の玉が出現した。注目すべきは“窓は開いていない”のに外に火を出したということだ。
「なんかすごいがそれどうやって使うんだ…?」
「わかってないわねぇ。直線に飛ばす攻撃ばっかりだとアバラの後ろから攻撃するとき当てにくいでしょ?そういう時にこの魔法を使うのよ。座標を指定して使うから最悪見えてない場所に火をつける事もできるわよ」
外を歩いていた通行人がびっくりしてひっくり返っている気がするが見ないふりだ。
「…流石だなテトラ…流石俺の相棒…」
「なんか気持ち悪いからやめなさいよ…アタシだって強くなってるんだからね。いつまでもだらだらやってると置いていくわよ」
「うっす…姉御」
「…相棒じゃなかったの?」
その後もしっぽり二人で飲んでいると街の中を鎧をガシャガシャと言わせながら走り回る騎士団の音が聞こえた。
「最近多いな」
「例の奴隷商の件らしいわよ。アジトを潰しても潰しても首魁が捕まえられないんだって」
アバラは顔をしかめる。
「ムカつく話だぜ。現場を見つけたらぶん殴ってやるってのに」
「イウラ君の話だと貴族が情報を流してるって話よね。全く我が国ながら腐っててやんなっちゃうわ」
そういいながらポリポリとナッツを食べる
「そういや初めて出会った時もさらわれかけてたんだっけか」
「そうねぇ。そんなに前の事じゃないハズなんだけど何だか懐かしいわ」
「ほんと、気をつけろよ?俺だっていつも一緒ってわけじゃねえんだから」
「修行中の人は黙っててください~。今のアタシならあの時の二人組くらいなら簡単に倒せちゃうんだから」
言い返されたアバラは「ケッ!」と言ってエールをがぶ飲みした。
「かわいくねぇ奴」
「そんなこと言って、アタシがさらわれたら助けに来てくれるんでしょ?相棒」
「フフン」と頬杖をついてにやけるテトラ
「柄にもねぇ事言いやがる。酔ってるだろ」
「何を~!アタシの酒の強さを舐めてるなぁ!店員さんエールおかわりぃ!」
朝の目覚めは最悪だった。
「痛てて…昨日は飲みすぎたぁ」
アタシ、テトラは魔法使い、冒険者だ。小さな村に生まれて、魔法使いだとわかった時から同じ村にいた偏屈な魔法使いのおばあちゃんに魔法と冒険者の心得を教わって冒険者になった。
自分で言うのもなんだけど才能はあったと思う。王都グラトニアについてからすぐにパーティを探した。魔法使いは後衛職、前衛がいないと危険だ。でもパーティ探しは上手くいかなかった。
だって、どうみても下心しかない男共ばっかりだったんだもの。女性がいるパーティは、大抵パーティで一番強いやつと“そういう関係”になってナイトの様に守って貰っているか、女性だけでパーティを組んだりして対策しているらしい。
でも女性だけのパーティはそれはそれで襲われることもあって決して安全ではないそうで。
アタシは冒険者の第一歩で躓いてしまったのだ。
それからのアタシは一人でも大丈夫そうなクエストで日銭を稼ぐ日々。やさしい宿屋のおばちゃんのおかげで飢えたり浮浪者の様になることはなかったけど、相変わらずパーティを組んでくれそうな都合のいい人はいなかった。
そのためだけに男に靡くっていうことがアタシのプライドとしても許せなかったっていうのもある。
そんな時アイツに出会った。
暴漢二人にさらわれそうになったアタシを何でもないことかの様に救った男は決して王子様という感じではなかった。そう、全く王子様ではなかった。
どちらかというと魔族って言われた方がしっくりくる。そんな奇抜な恰好をした変な奴だった。
でもなんの見返りも求めずアタシを助けてくれたその人を見て“コイツだ”って思った。異世界人だっていうのは見てすぐわかったし多少強引にパーティに引き込んだ自覚はある。
きっとアイツは、アバラはもっといいパーティに入ることだって出来たはずなんだ。アバラは強かったし、ギルドのごろつきや街の住人とあっという間に仲良くなった。
アタシとアバラじゃ不釣り合いだと思う。きっとアイツはこれからもどんどん強くなるハズだから。でもアバラはアタシを捨てるような素振りは一切見せずにアタシと一緒に冒険者を続けてくれている。だからアタシは努力しないといけないんだ。
アバラと対等でいるためにはアバラと同じじゃいけない。アバラよりも多く、それを悟られぬように。
アンタの相棒はアタシなのよって当然でしょって。
まぁ、アイツの寝る前と寝起きの顔だけは勝てる気がしない。反則でしょあれは。
今日はアバラとまたスライム狩りだ。アバラはハナコちゃんと少し話してから行くって、先に出て行った。ギルド前で待ち合わせだ。
「おばちゃーん行ってくるね!」
「はいよー!最近物騒だから気を付けるのよ!」
「はーい!」
ギルドに向かう途中の小道で男の子がうずくまってるのを見つけた。どうやら獣人の男の子だ。
この街に物乞いや浮浪者はそんなに多くない。冒険者ギルドが一種のセーフティラインとして機能しているからだ。孤児は大抵神聖教会の孤児院が見てくれる。
だが獣人は別だ。最近の教会はキナ臭い。獣人や亜人を明らかに敵視している。昔はそんなことなかったはずなのに。
「どうしたの?大丈夫?」
アタシはたまらず声をかけた。正直アタシにはこの子達にできることはあまりない。
でもアイツなら、アバラならきっと放っておかないと思ったから。
「い、妹が…」
そう言って獣人の男の子は路地の奥を指さした。
「妹があっちにいるの?」
「う、うん…けがをしてるんだ」
よく見るとこの子もあちこちをすりむいている。何かの事件に巻き込まれたのだろうか。
嫌な予感がしてすぐ立ち上がった。
「案内できる?」
ちゃんと考えたら騎士団や近くにいる人に助けを求めてから動くべきだったって後悔した。
だってアタシはアバラじゃないんだから。




