16話
ギルドに成果報告をしたあと、スライム液とトレントの葉をイウラの所に持ち込んだ。
「助かるよ。後で報告書も読ませてもらうけど道具の使い心地はどうだった?」
「めちゃくちゃ使いやすかったぞ。手や服がほとんど汚れないし、スライムを倒して採取するより量も取れる」
「なるほどね、これで次の段階に進めるかも。色々とありがとう。ハナコさんが奥で待ってるから行こう」
そう言って例の開発部の部屋に向かった。
「…トレントの葉も助かります。ポーションを作る材料に加えれば質を上げられますから。最近品薄だったんです」
そう言ってアバラとテトラから袋いっぱいのトレントの葉を受け取る。
「葉の代金はスライム液の物と合わせてイウラさんから受け取ってください。それからこれが、例のヘアワックスの試作品になります…」
「もう出来たのか!早速試させてもらっていいか?」
言うが早いかワックスの入った瓶をすぐに開け中身を確かめるアバラ。
「感想をもらえた方が今後の参考になるので…って使うの早いですね」
ポケットから愛用の魔道具の櫛と手鏡を使って手慣れた様子でリーゼントを整える。整え終わった後、手鏡でまんべんなくチェックし、俯いてふるふると震えるアバラ。
「…だめでしたか?」
「いや!文句なし!完璧だ!」
そう言うとハナコの手を取ってキラキラした目で叫びだした。
「サイキさん!いや、ハナコ先生!俺はこの世界で初めてちゃんとしたヘアワックスに出会った!感動だ!俺の好みに合わせるならもう少し固くとか香料とかも拘って作って欲しいがそんなことはどうでもいい!」
「せ、先生!?」
テンションの上がったアバラは止まらない。
「ハナコ先生!俺は髪が決まらねぇと、どうしてもやる気が出ねぇ体質だったんだ。おかげでここ数日は本当に陰鬱な日々だったんだ!こいつのおかげで俺は“元居た世界と同じように”生きていける!本当にありがとう!」
ハナコはそう言われてハッとした。自分にとっては大した事じゃなくとも彼にとっては違ったのだ。元居た世界と同じように、というのはこの異世界では得難い感覚で、それを作ったということがなんだか誇らしく、そしてうれしかったのだ。
そう思うとハナコの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
「ハ、ハナコ先生!悪ぃ!俺イカツイから急に迫られて怖かったよな!」
「あー!アバラがハナコちゃん泣かせたー!いけないんだー!」
「ちょっとテトラさん、今いいところだから僕とあっち行ってましょう!」
空気の読めないテトラをイウラが連れていく。
「ごめんなさい、違うの……私、この世界の事嫌いだった。向こうの世界でやりたかったこともあったから、それももう出来ないんだって、ずっと辛かった。でもアバラ君のおかげで気づけたの。“元居た世界と同じように”それはきっとこっちに連れてこられてしまった人たちにとってはとても大切なことで、化粧品が欲しいとか、スポーツがしたいとか、美味しいものが食べたいとか。そういった願いを私の力なら叶えてあげられるのかもしれないって、そう思ったらうれしくって…」
堰を切るように流れ出すハナコの言葉にアバラは相槌を打つことしかできず、「こういう時キサラギなら上手く慰めるのだろうか」などと考えてしまう始末であった。
「……ごめんなさい、落ち着いてきたわ。ありがとう、聞いてくれて」
「おう…気の利いた事言えなくてすまねぇ、ハナコ先生」
「ううん…。ねえ?髪型がキマるとやる気が出るってね。私もそう思うよ。」
そう言うとハナコは手首に巻いたヘアゴムで無造作に伸ばした髪をポニーテールにまとめ上げた。
「今日からはこっちが私。本当は敬語とか使って話すの、苦手だったんだ。でもアバラ君って怖い人だと思ってたから出来なかった。本当は王宮で私たちの代わりに怒ってくれたこと、お礼言いたかったのに…。でもアバラ君は本当は優しい人だって、私達と変わらない一面も持ってるし乱暴なんかじゃない。そう気づいたから…。これからは皆の小さな願いを叶えられるようにたくさんいい物を作るよ。…ハナコ先生、だからね」
「……ハナコ先生!誤解されるようなナリしててすまねぇ!でもこれからはダチって事でいいんだよな!?」
そう言って拳を突き出した。
「…うん、友達」
そうして恥ずかしそうにコツンと拳をあわせたハナコだった。
「い゛い゛は゛な゛し゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
「…なんでテトラさんが一番泣いてるんだい?」




