15話
「あんた無茶するわねぇ~」
トレントの素材は葉っぱが主に薬の原料になるということで、テトラと二人葉っぱを毟る作業中である。
アバラは最後の一撃の寸前トレントが暴れるのを予測し、近くの木に駆け上がって回避、そしてその木から飛び降りて折れかけたトレントが真っ二つになるように踏んづけたのだ。
「本当は最初から頭突きで行くべきなのかもしれねぇけどなぁ…」
「あれはねぇ、やっぱり強いけど危ないわよね。本来弱点であるはずの人間の頭を振り回すんですもの」
「それにいくら強くても避けられちゃでかい隙をさらすことになるしな。やっぱり奥の手にしとくべきだな」
ヤンキーのスキルは今のところ、ハイリスクハイリターンの【ド根性頭突き】デメリット有りのパッシブスキル【ステゴロ自慢】自分の名前を叫ぶ必要があるヘイトを集める技【名乗り】とピーキーなスキルばかりだ。
「そろそろ俺もサブ職業について考える時なのかもなぁ」
「戦闘職のサブ職業って手に入れるの難しいわよ?ギルドに依頼すれば有料で師事してくれる人はいるだろうけど安くないし、適性がなければ中々覚えられなくて無駄な時間を過ごすことにもなりかねないわ」
その辺が底辺冒険者が優良なサブ職業を手に入れにくい現状である。サブ職業を手に入れるには金も時間もかかるのだ。グラトニアのギルドにいる底辺冒険者達はアバラのおかげでこの問題を解決したのだが、等の本人がサブ職業を一つも持っていないのである。
「まぁ帰ったらちょっと考えてみるわ。とりあえず撤収だな」
そういってトレントの葉がぎっしり詰まった袋を担ぎ上げて立ち上がった。
「そういえばギルドに無料で見られる戦闘職がまとめてある冊子があったはずよ。才能さえあれば誰かに師事しなくても手に入ることがあるから、そういうのを期待して情報をまとめてくれてるらしいわ」
「そんじゃルイシュに言ってちょっくら見せてもらいますかね」
そして森を抜けるため歩き始めた。トレントの死体には体積が減ったスライム達がウニョウニョと群がっていた。
元来た道を帰り王都グラトニアの城壁が見えてきた頃、空は夕焼けで朱く染まり城門が閉まる前に中に入りたい行商の馬車が列を作っていた。
大した荷物のない冒険者は別口ですぐ入れてもらえるから問題はない。
そんな中、警備の騎士団と思われる人たちの中から数人がこちらに向かって歩いてきた。
「アバラ君、久しぶりだね」
そう言って兜を取るとそこには見覚えのあるさわやかイケメンがいた。
「キサラギじゃねえか!どうしたんだ、こんなところで!そんなに経ってないのにえらく久しぶりな気がすんな!」
突然の再開に喜びガッと肩を組むアバラにキサラギはあからさまにビックリするが、すぐに取り繕い笑顔で話す。
「そ、そうだね。アバラ君も無事でよかったよ。騎士団の人からは町に逃げたが冒険者としてうまくやってるらしいとしか聞いてなかったから」
「冒険者してるってことはバレてたんだな。それじゃわかってて放っておいて貰ってる訳だ。よかったよかった」
いつまでも肩を組んでると居心地が悪かったのかキサラギが俯き気味に離れる。
「騎士団と一緒にいるってのは聞いてたが何してたんだ?」
「今は騎士団の下働きをしながら地力をつけてるところかな。今日は城壁外警備をしてる。あそこに他の異世界人達もいるよ。呼んでくるね。」
そういうと少し離れた場所にいた一団に声を掛けに行き3人ほど連れて戻ってきた。
「…思ったより少ねぇな」
「ごめん、少しアバラ君の事が怖いみたいだ…あの日アバラ君のおかげで僕は交渉のテーブルに着くことができたっていうのはみんな分かってると思うんだけどね…」
「いや、ほとんどはキサラギの手柄だろ?それにしょうがねぇよ。俺だって自分が好ましく思われるようなナリはしてねぇ自覚はある」
「そう思うんならその恰好やめなよ」
そうつっけんどんに言い放ったのは気の強そうな長髪の女だった。肌は健康そうに日焼けしており、目つきは鋭くアバラを睨めつけている。
「こら、初対面で失礼だろ。」
「ふん、スズキミサキだ。上の名前は嫌いだからミサキって呼べ」
キサラギに窘められ自己紹介をする。口は悪そうだが真面目そうな奴である。
「知ってるかもしれんがアバラだ、よろしく。そっちは?」
後ろに二人男がついてきていた。一人の大男は見覚えがある。
「ステータスを見られた時に見覚えがあるな。たしか【重戦士】の」
「…タカスギレンだ。【ヤンキー】の」
重戦士のと呼ばれた意趣返しだろうか、こちらは態度がそのままであまり友好的には感じられない。
「あたしは【幻術士】だ。あたしだけ教えてないのも不公平だから教えとく」
ミサキが口を挟む。もう一人は異世界人ではなくただの兵士の様だ。お目付け役といったところだろうか。
「んで、お前らはなんで俺と話しに来たんだ?仲良くしましょうってツラしてねぇぞ」
そういわれて口を開いたのはタカスギだった。
「…お前には感謝している。あの場を作ったのは間違いなくお前だ。ただ、同時に嫌悪もしている。お前のやり方は暴力的で見た目は威圧的だ。正直に言う、俺はお前が嫌いだ」
「なら黙っときゃいいじゃねぇか。わざわざ嫌いな奴に構いに来る必要はねぇだろ」
「感謝していると言っている。お前のことは嫌いだがやって貰ったことに対して何も言わないのは礼節を欠く」
「礼節とか言う奴が初対面で嫌いとか言うのかよ」
「ごめんアバラ君、タカスギは不器用なんだ。彼はあっちで君を怖がってる子、みんな女の子なんだけどその子たちの代弁をしたいだけなんだよ」
見ていられなくなったキサラギが口を出す。
「あそこにいる子達もみんな君に対して複雑な思いを持ってるんだ。みんなを助けるために暴力を選んだ君をどう思っていいのか分かってないんだよ」
タカスギは気まずそうに目をそらす。
「あたしも一緒だよ。感謝はしてる。それ以上にあんたという人間を見定めたくてここに来たんだ」
そう言ってミサキは腕を組んだ。
「なるほどね。まず一つ、俺は見た目は変えられん。これは俺のアイデンティティだ」
そういうと真っ赤なリーゼントを上向きにして額に親指を突き立てた。
「そしてもう一つ。俺は理不尽が嫌いだ。あと嘘とかも嫌いだ。そういう奴にはこれからも真っ向からカチ合う。だが、むやみに暴力は振るわん」
「何も変えるつもりはない…と?」
ミサキが目を細める。
「元々誰かのためにやってる訳じゃない。俺が俺であるためにやってんだ。文句があるなら勝手に言っててくれ。俺は知らん」
しばらくの沈黙があった後ミサキが「ぷっ!」と吹き出した。
「アッハハハハ!タカスギ!こいつはこう言う奴だよ。あたし達が何言っても変わんないわこりゃ!」
急に笑い出したミサキを横目にキサラギがフォローを入れる。
「タカスギはね、アバラ君がどうして王宮で暴れたのか仲間の女の子たちに説明してあげてたんだよ。あの子たちの中にはどうして君が暴れてたのか理解できてない子たちもいたからね」
「あんたは見た目が悪すぎるよ。見た目のせいでやってることが余計悪く見える」
笑いながらミサキが余計なことを言い、タカスギはバツが悪そうにしている。
「アバラ君が正しく評価されるためにはその恰好をやめるさせるしかないと思ったんだろうね。不器用なやつだよ…あ、僕はアバラ君の恰好は悪くないと思ってるよ?」
「俺がヤンキーの恰好をやめるわけねぇだろ。こちとら職業まで【ヤンキー】なんだぞ」
冗談めかしてアバラが言う。タカスギとキサラギの間には短い期間だが軽口を叩けるような信頼を感じることができた。
「…なら仕方がない。だが、異世界人の評判が悪くなるようなことはするなよ」
タカスギは素直に認めることはできないようだが、口で言うほど悪くは思ってないらしい。
「話は済んだだろうか?」
そうして話していると後ろで聞いていた騎士団の兵士が声を掛けてきた。
「お目付け役かい?長いこと勇者サマを拘束して悪いな」
「いや、そうじゃない。私も君と話がしたいんだ」
そういって兜を取ると、アバラが捕まっていた牢屋にいた上官らしき兵士だった。
「地下牢ぶりだな。あの時は済まなかった。」
そう言うと深々と頭を下げた。
「おいおい、よしてくれよ。仕事だからしょうがないって自分で言ってたじゃねぇか」
「それはそれだ。私がやったことがなくなる訳じゃない。会った時には謝ろうと思ってたんだ。私はクライスという。今は騎士団の中隊長をしている。その中隊に勇者殿のパーティを含めて色々とご指導もさせていただいている」
「アバラだ。知ってると思うが。俺も褒められた事はしてないからな、お互いこれでチャラにしようや」
そう言いアバラから握手を求めると少し間を開けた後、ふたりは固く握手した。
「私の用事はこれで済んだ訳だが、謝罪ついでにおせっかいを一つ。君たち異世界人は明け透けに職業について話し過ぎる所がある。さっきも自己紹介ついでに職業について話していただろう?あれはこの世界だとあまり褒められたものじゃない」
「マナー違反だみたいな話は聞いたけど、自分から言うのもダメなのか?」
アバラはテトラにスリーサイズを聞かれる様な物と言われたことを思い出していた。
「もちろんそれもある。例えば生まれつき【盗賊】や【ごろつき】の様な職業についている場合、いらぬ疑いをかけられないために家族にすら黙っている場合もある。だが、もう一つの理由は職業が分かれば自然と弱点もわかってしまう場合があったり、希少な職業の場合身柄を狙われたりする場合があるからだ」
確かにテトラの様に魔法使いだと分かってしまえば魔法を唱えられる前に近接職で奇襲をかければ対処できてしまうとバレてしまう。
「だから職業の話をする時は信用できる相手の前だけですることだ。少なくともこのような大通りでする話じゃない」
周りを見渡すとこちらを興味深そうに凝視する行商人の姿があった。
「忠告感謝するぜ。やっぱりまだまだこの世界のことはわかんねぇ事ばっかりだわ」
「この町で冒険者をやっていくなら騎士団と合同で大規模なクエストに参加することもあるかもしれん。その時はよろしく頼む」
そう言い残すとキサラギ達を残して先に騎士団の集まる方へ戻って行った。
「クライスさんは良い人だよ。たまに真面目過ぎるなって思うこともあるけど」
「タカスギと良い勝負だな」
キサラギとミサキがそう言って笑う。タカスギはそれを聞いて何やら考え込んでしまった。
「…俺ももう少し砕けた方がいいのだろうか」
「お前はそのままでいいんじゃねえか?勇者パーティの前衛が真面目なのはみんなも安心するだろ」
「あんた案外核心を突く事いうんだな。いい意味で見た目を裏切るじゃん。アバラの言う通りタカスギはそのままでいいんだよ。うちの他の女子達からは頼りにされてると思うわよ?」
「…ふむ」
案外まんざらでもなさそうなタカスギだった。
「それじゃいつまでもサボってられないから僕たちは戻るね!またねアバラ君!」
「おう!って、言い忘れてた!王宮でムチャぶりしちまって悪かった!今イウラや俺たちが安心して生きていられんのはお前のおかげだ!ありがとう!またな!」
「へへへ」と照れ臭そうにしてから、さわやかに手を降って騎士団の仕事に戻って行くのを見送ると遠巻きに見守っていたテトラが戻ってきた。
「悪かったな、長話ししちまって」
「ううん、あれが例の勇者様なんでしょ?さわやかイケメンだったわねぇ」
キサラギは中性的な顔つきをしていて女装すればそのまま紛れられそうなくらいのさわやかイケメンだ。体型もタカスギの横にいるせいか余計に華奢に見える。
「お前もああいうイケメンがタイプなのか?」
冗談っぽくアバラが聞く
「うーん確かにイケメンは好きだけどなんかピンとこないのよねぇ。アタシはもっとこう…キリッとしてシュッとしてる方が…」
なんだかふわっとしたイメージを上手く言語化できないでいたが、考えてるうちにそれが特定の誰かのような気がしてきてテトラは考えるのをやめた。
「とりあえず好みじゃないわ」
「そうか。面食いにも色々あんだな」
なんだかイラついたテトラがアバラの尻を蹴り上げ、それを怒ったアバラと追いかけっこをしながら街へと帰って行ったのであった。




