12話
遺跡の中は自然光も殆ど届かず真っ暗だった。通路は狭く、人が3人並ぶと一杯になってしまう程度だったので、アバラを先頭にリンファ、テトラと一列に並んで進むことにした。
「【フレイムスピリット】!」
テトラが呪文を唱えると小さな火の玉がパーティの前と後ろに一つずつ現れ道を照らした。
「便利だな。触っても平気なのか?」
「もちろん熱いわよ。緊急時には敵にぶつけるから覚えとといてね」
「そういう緊急は来ねえ事を祈るわ。罠とかあったらどうすりゃいい?」
「アンタが身体で受けなさい。リンファさんとか弱いアタシを守るのよ」
「まぁ、罠見つけるとかできねぇし仕方ねぇな」
「……アバラはそれでいいの?」
アバラを雑に扱うテトラに、それを容認するアバラを困ったように見やるリンファだった。
幸い罠は無さそうで、進んでいくと壁面に絵が描かれた部屋に出る。壁面には戦争をしている様な描写、魔族らしき絵、人間らしき絵、亜人、獣人の子どもらしき絵等が書いてあるのがわかった。
「こういう壁画ってのは歴史的価値がある~みたいな感じで大事にしなきゃなんねぇもんくらいの認識しかないんだが、驚くべきなのか?」
「アタシにもわかんないわー。価値を決めるのはギルドに任せて探索を続けましょ」
しばらく無言で壁を見つめていたリンファだったが、一際黒く大きい生き物の壁画の前で足を止めた。
「……暗黒神」
「あんこくしん?」
「…この世界に魔力をもたらした別次元の神、それを模した絵…だと思う」
「何それ、アタシも聞いたことないわ」
「へぇ~、そんなのがいるんか」
リンファはコクッと頷くと先の部屋を指さした。
「…行こう」
先ほどよりも少し緊張が見える表情をしているリンファを尻目に先に進むと、奥の部屋から臭気が漂ってくる。
「臭ぇな…こりゃなんかいるかもな」
「アンデッドがいるかもね、注意して」
コクリとリンファも頷く。
奥に進むと、巨大な数本の柱が立つ広めの部屋に出た。部屋にはあちこちに朽ちた死体が転がっており、大昔に凄惨な事件があったことを窺わせる。
アバラ達が部屋に入ると、ピクリッと部屋の死体の一つが動き始めた。それを皮切りに他の死体もぞろぞろと動き出す。
「やっぱアンデッドの登場か!おい、通路まで下がるぞ!多少戦いにくくても囲まれるよりもマシだ!」
「OK!」
「…わかった」
そういって通路まで退避し、アバラを正面にアンデッド達を迎え撃った。
「アバラ!嚙まれちゃだめよ!アンデッドは呪いを持ってる場合があるから長く触れてるとうつされるわよ!」
「そうは言っても数が多いんだよ!援護してくれ!」
「…まかせて」
リンファは長剣を槍のように使い、本来扱いにくいはずの狭い通路でもそのポテンシャルを十二分に発揮した。アバラの後ろからそのリーチを生かして的確にアンデッドを突き殺していく。
「【ファイアスピリット】!」
詠唱が終わり10数個程の小炎弾がふわりと飛んでアンデッドに命中する。動きの早いモンスターや、広い空間では当てにくい魔法だが、狭い空間でかつ動きの遅いアンデッドには有効な手立てだった。
ボッとアンデッドが燃え上がり、一匹、また一匹と倒れていく。
「これで終わりね!」
「…おつかれさま」
「思ったより楽できたぜ。相性もあるが、リンファ、あんた相当強いな。ランクいくつなんだよ」
褒められたリンファはというと「つーん」とそっぽを向いている。
「…ご、ごーるど……」
「え?リンファさんってゴールドなの!?すごい!やっぱりエリート冒険者だったのね!」
「…う、嘘…し、しるばー!」
どうみてもバレバレの嘘をついているのだが、本人は至って真面目であった。
「言いたくないなら別にいいけどよ。なんか隠す理由があんだろ?あんた悪いやつには見えねぇし、詮索はやめとくよ」
「…しるばーだから…」
「へいへい、探索再開しようぜー」
そう言って探索を始めるも、ただのだだっ広い部屋でしかなく、これといった収穫も得られなかった。
「何もないわねぇ」
「歴史的に~とかそういう感じの価値しか無いのかね。お宝がなかったのは残念だぜ」
テトラとアバラが話していると、ずっと壁沿いに歩いていたリンファがある所で止まった。
「ここ…魔力を感じる…」
そう言うと突然剣を抜き、壁に向かって斬撃を加えた。ドゴォ!!とすさまじい音と土煙を上げる。
「な!なにやってんだぁ!!?」
「そうよ!歴史ある遺跡のハズなんだからそんなことしちゃまずいわよって…部屋?」
そこには小さな部屋があり、部屋の真ん中には小さな台座と紫焔に輝くちいさなオーブが鎮座していた。部屋の壁にはびっしりと文字が書き連ねてあり、この部屋の異常性を際立たせていた。
「なんだこの部屋…気色わりぃ…」
「ほんと…気持ちの悪い部屋ね…真ん中の紫の玉は何かしら」
「…【魔水晶】古代の魔法が封印されてる。触るくらいなら平気だと思う。でも、なんだかよくない感じがする…私なら壊せる、けど。どうする?」
ボヤァとした気配を放つ魔水晶をじっと見つめるテトラだったが、良くないものと聞きサッと離れる。
「でも、きっと価値のある物よね?触っても平気ならギルドに持って帰った方がいいんじゃないかしら…アタシは触らないけど」
「俺の仕事かよ…。リンファ、これ俺らが持って行っていいか?」
「…私はいらない。それに、目的も済みそうだから」
そう言うとリンファは壁の文字の一部を短剣でバッと切り払った。文字が書かれた部分がガラッと落ち、それを粉々になるまで踏みつけた。
「おい、お前また訳の分からんことを…」
「…大丈夫。これで終わり」
そうして指先をそっと唇にあて
「…内緒ね」
と呟いた。その姿はぞっとするほど妖艶で今までのふわふわと危なっかしい姿からは想像もできなかった。用事を終えたリンファはすたすたと部屋から出ていき、それに続いてアバラ達も遺跡を後にした。
遺跡を出るとリンファは「…じゃあね」と言い、どこかに行ってしまい、それっきりギルドに帰っても出会うことはなかった。
後でルイシュに聞いた話だが、【リンファ】という冒険者はグラトニアには在籍していないらしい。明らかにただ者ではなかったという話から、ゴールド以上の冒険者だと目星をつけていたが、ゴールドを超えると知名度も結構上がってくるため、ギルドで働く人間が知らないということは考えにくいそうだ。
「彼女…何者だったのかしらね…」
テトラと二人、酒を飲みながらリンファという人について話す。
「さぁな…たぶん、俺たちと共闘した時も全く本気じゃなかったんだろうな」
「やっぱりそう思う?アタシ達邪魔だったのかなぁ」
「いや、多分合わせてくれてたんだと思うぜ。リンファなりの優しさだったんじゃねぇかなぁ」
その日の儲けを二分しても、パンパンになった革袋をガシャっと持ち上げて落とす。
「今回のクエスト、かなり儲かったけど、なんかリンファさんの分まで取っちゃった気がして申し訳ないわ」
今回のクエストの一件をルイシュに事細かに伝えて渡された報酬だ。もちろん【リンファという人物】についても伝えたが、「在籍が確認できない人に報酬は渡せませんので、お二人でお分けください」とのことだそうだ。遺跡の価値は歴史的文化財とのことで、また調査隊が入るそうだ。アバラの勘だが、もう自分たちが見た以上の発見はないだろうと思っている。
【魔水晶】についても研究施設行きとなり、詳細は追ってお知らせしますとのこと。
「一つ思ったんだけどよ、遺跡に入る前に死んでた、グリフォンっていただろ?もしかしたらだけどよ…」
「…リンファさんが倒したんじゃなかってこと?」
「あいつなら多分余裕で倒せるだろ?んで、あくまでそうだと仮定した場合、グリフォンの魔石も素材もいらない冒険者ってどんなレベルだと思う?」
革袋にどっさりと入った金貨の内、何割かはグリフォンの素材をイウラに買い取ってもらったものだった。グリフォンは討伐の際に魔法で撃ち落とすことが多いため、キレイな羽や爪は希少なんだそうで、アバラ達が思っていたより高値で買い取って貰えたのだ。
「想像できないわ。アタシだったら【プラチナ級】になってもセコセコ集める自信があるわね」
「言えてるな」
「でも、リンファさんには悪いけどせっかく臨時収入だし今日は飲むわよー!」
「いつかまた会えたら本当は何者なのかちゃんと聞きたいとこだな」
二人の夜は更けていく。
「♪~」
夜の森で銀髪を靡かせながら鼻歌交じりに歩く。変な髪の面白い男と、快活な金髪の少女の事を思い出すと口元がゆるみ愉快な気持ちになる。
【リンファ】と名乗った彼女は危険な夜の森を、明かりもつけず歩いていくのだった。
場所は変わりアバラ達が探索した遺跡にも夜のとばりが下りていたが、同じく明かりもつけずに男が立っていた。
「…先を越されましたね。まぁ、いいでしょう。面白そうな物も見つけましたから」
そう言った男は遺跡を背にコツコツと歩き夜の闇に消えていった。




