11話
場所は意外にも近く、前にスライム狩りに行った平原のすぐそばだった。どうして今まで見つけられなかったのかというと、遺跡の元の持ち主が入口を魔法により隠ぺいしており、地面の下に隠してあったそうなのだが、魔法が風化によって劣化し、誤作動を起こして上がってきたのではないかとのことだそうだ。
「不思議なこともあるもんよねー」
などと言いながら何度か訪れた平原から渡されたマップを頼りに草木をわけて進む。所々に焚火の跡や、食事をした跡のような生活のなごりが出てくる。
「丁度前にゴブリンに襲われた所の少し奥か?もしかしてあのゴブリン達の住処だったのかもな」
「だとしたら奴らも災難ね。アバラに追い返された後、住処まで荒らされちゃったんだもの。同情しなくもないわ」
半泣きで逃げていくゴブリン達を思い出しながらさらに進むと少し開けた場所に出る。
「遺跡はもう少し先か?ってなんだこの臭い…」
場所を確認していると近くから血と獣のような臭いが漂ってくる。
「あそこ見て…!オークが何か食べてるわ…!」
テトラが指をさす方を見れば5匹程のオークが「フゴフゴ」と何やら大きな肉塊に群がっている。
一匹のオークがバッと顔を上げこちらに気づいたようだ。血に濡れた口を開け「フギィィィイ!!」と言うと他のオークも皆顔を上げ、各々が武器を取った。
「避けられねぇみてぇだな」
「遺跡も近いし、ここで始末しておきましょう!ヘイト取って!」
「まかせろ!俺の名はアバラだ!夜露死苦!」
そういうとアバラは新たに覚えたスキル【名乗り】を発動した。このスキルを発動すると強制的にアバラにヘイトを集めることができる。
デメリットとして、一々名乗らなければならない事と、複数回行うとだんだん効果が薄くなるというものがあるが、元々派手でうるさいアバラはヘイトを引きやすいのであまり関係がない。
「フギギギィィイィ!!」と5匹のオークが襲ってくるが、木の位置をうまく利用し、全員と同時に対峙するのを避けながら対処するのはアバラの十八番だ。
「オラァァ!!」
アバラのパンチが槍を持ったオークに命中するも一撃で絶命するには至らない。
槍を持ったオークが下がり、代わりに石オノをもったオークと、どこかで拾ったのかボロボロのサーベルを持ったオークが対峙する。
「やっぱ一撃じゃ無理か!それならこれでどうだ!」
振り下ろされるサーベルを躱し、石オノを持ったオークへ突貫する。
「おらぁ!!!」
【ド根性頭突き】を発動させた渾身の頭突きをぶつけると、グシャア!という音が響き、石オノを持ったオークが地面に伏す。
近づいてきた他のオークに向かってサーベルを持ったオークを蹴り飛ばす。
「今だ!」
「ナイス!【フレイムアロー】!」
溜まった魔力を解き放ち、テトラから大きな炎の矢が生み出された。矢は真っすぐに3匹纏まったオークに飛び、爆発した。
まとめて吹き飛ばされたオーク達をみた槍オークは逃げようとするも、回り込んでいたアバラにとどめを刺される。
「終わりだな!」
「アタシらの連携も様になって来たんじゃなーい?武器も防具も付けてない奴がタンク役っていうのは他人が見たらびっくりすると思うけど」
ケラケラと笑いながら手際よくオークから魔石を回収する。下手に盾や防具をつけたタンクより、速くて固いアバラはタンクとしてかなり優秀だった。
「こいつら、食ったりすんのか…?」
「確かに魔物肉を食べるってのはよくあるけどね、オークは臭いからあんまり食べないわよ。皮とか牙とかは売れるけど、手間に対してあんまり儲からないから誰も取りたがらないわね。今回は魔石だけ取って邪魔にならないところに置いておきましょ」
アバラは安堵した。いくら魔物といえど人型の生き物の肉を食べる気は起きなかったからだ。
「そういや、こいつら何か食べてたけど、なんだったんだ?」
「そうねって…これグリフォンじゃない…?こんなところで珍しいわね、こいつが生きてたらアタシたちじゃどうにもできなかったわね…」
グリフォンと言うと最低でも【シルバー級】でないと対処できないとされており、対空攻撃がなければ逃げるのが鉄則と言われている凶悪なモンスターだった。
死骸は食い荒らされていて、直接の死因はわからなかった。
「なんだか痩せてるっぽいしオーク達がグリフォンを狩れるとは思えないから、弱って縄張りから追い出されて放浪してる所を運悪くって事なのかしら…どちらにしてもギルドに報告ね」
「こいつ魔石あるぞ。素材も取れねぇか?」
「ラッキーね。爪とまだキレイな羽は取って行きましょう!」
思わぬ臨時収入にほくほくの二人だったが、目的を思い出して遺跡に向かって先を急いだ。
「そろそろ見えてくるはずだけど…」
マップを見ながら歩いていると、積まれた石段の遺跡が見えてきた。石段の上には土や、草が付着していて、なるほど、地面からせり上がってきたとはこう言う事かとわかった。
遺跡を進んでいると一際大きな石塊の入口の様な場所が見えたがそこには人影があった。
「むむむ…むむ…」
うなりながら入口に向かって長剣を突き立てる人物は見覚えのある長髪長身の女性だった。
「ギルドにいたキレイなお姉さんだ!」
「あのなんだか危なっかしい姉ちゃんじゃねえか。あんたもこのクエスト受けてたのか」
女性はこちらに気づくと長剣をしまい頷いた。
「…リンファ」
「リンファ?名前か。俺はアバラ、アバラリュウト。こいつはテトラだ」
「アバラ、テトラ。これ、開けられる…?」
そういうとリンファは封印のかかった入口を指した。入口は見た目はただの石壁なのだが、触ると薄っすらと文様が浮き上がり、押しても引いてもびくともしない。
「テトラ、解けたりするか?」
「無理よ。グラトニアのギルドにはこれを解ける人はいないって言われたでしょ?他の入口を探しましょ」
「…他の場所から入るのも、無理。この封印が遺跡全体を覆ってるから…」
見ると遺跡の横っ腹に何度も斬り付け壁をえぐった跡があった。おそらくそれ以上は封印のせいで進めなかったのだろうが、仮にも歴史的な遺跡であるので、いささか強引である。
「おいおい、いいのかあれ…」
何が悪いのかわからないと言いたげなリンファは首をかしげている。
「…封印を解かないと、多分どうやっても入れない……」
「それじゃあ完全にお手上げだな…帰ってルイシュに報告すっか。うわっ!!」
そう言って入口から離れようとしたアバラの足元に丸い小石があり、運悪く躓いてしまい、後頭部から遺跡の入口にぶつかった。その瞬間「ガキィィィィン!!」と音がしてアバラは頭を抱え込む。
「痛ってぇぇぇぇぇぇ!!!」
「アバラの石頭でも痛いなんて、この封印、相当ね…」
テトラは冗談なのか本気なのかわからない声色で話しながらアバラを助け起こす。
「…今すごい音がした…。封印、解けてない…?」
リンファが駆け寄って確認するが文様は健在の様だった。
「痛てて…流石にこんな事で解けやしねぇか…」
「…待って、ここ…綻びが出来てる」
そう言い、リンファが指をさすがもちろんアバラにはわからない。
「もう一回ぶつければいい?」
「人の頭を何だと思ってんだ」
「待って…これなら…」
再び長剣を抜くと綻びが出来た文様に差し込みグリグリし始める。アバラ達がここに来た時と同じ状況だ。
「むむむ…むむ……」
封印に向かってうりうりと剣を差し込むのをただ見つめるという時間が数分続いた。
「…帰るか」
「そうね…」
そう言って離れかけたその時。
「む…!」
なんとも気の抜けた声と共に長剣が文様の奥までズンッと入ったのだ。
「えっ!ええっ!封印ってそういう感じに解けるもんなのか!?」
「アタシも見たことないけど多分違うと思うわ…!」
「ここまでくれば…いける」
リンファは長剣をテコの原理のように使って遂には封印をこじ開けてしまった。
「ほんとに解けたのか…?」
「…アバラのおかげ…えらいぞ…」
そういってアバラの頭を撫でようとする。
「やめねぇか!ガキじゃあるめぇし!」
「むぅ…その頭、触ってみたかった…」
「思ったより固いからやめといた方がいいわ」
「なんで触り心地を知ってんだ」
リンファは名残惜しそうに手をひっこめると遺跡の扉を開き奥へ入って行ってしまった。
あっけに取られて見つめる二人に振り返って言った。
「…行かないの?」
「「行くぞ(わ)!」」




