第八話 三件の照会(3)
『VRMMO -関東封鎖戦域-』
第八話 三件の照会(3)
古賀たちが外周確認から戻ったのは、四十分後だった。持ち帰ったのは物資ではない。切断された金属片だった。第三七号へ到達した夜、古賀が機械室側の通路へ仕掛けた簡易警報の一部。
「自然に切れたものではない」
古賀が机へ置く。
「工具を使っている」
「足跡は」
「二人以上。公園東側から入り、施設の換気設備と資材搬入口を見ている」
「扉へは」
「近づいていない。位置と構造を確認しただけだ」
浜田が金属片を見る。
「斥候だな」
「いつ」
「雨が止んでから。俺たちが水の管理棟へ行っていた時間と重なる可能性がある」
第三七号の主力が外へ出た時間。新城が来る前から見ていたのか。新城を追って来たのか。まだ分からない。
「照会より先に来ていた?」
カイトが言う。
「照会を送った相手と同じとも限らない」
ルークは三件の紙を並べ直した。三つの組織。外にいた二人以上。情報を欲しがる相手が、一つではない。スズメの言葉通りだった。
「外部へ、第三七号に新城さんがいるとは返信していません」
「だが照会は来た」
真壁が言う。
「つまり、新城がここへ入ったことを別の経路で知った奴がいる」
新城は防水ケースを見た。
「媒体に追跡機能はありません」
「本当に?」
カイトが聞く。
「少なくとも、俺が知る範囲では」
「知らない機能がある可能性は」
「ある」
新城は認めた。
「行政用機器は、利用者へ全機能を知らせないことがある」
「まず媒体を隔離します」
ルークが言った。
「読取機がないので、今は金属保管箱へ。外部通信設備から離す」
葛西が設備庫から厚い工具保管箱を持ってくる。防水ケースを中へ入れ、管理室とは別の区画へ移した。これで追跡を止められる保証はない。何もしないよりはましだった。
その時
管理端末が電子音を鳴らした。一件目の照会が更新される。
《八洲共同警備機構・東部第九管区臨時連絡所》
《再要求》
《保護移送の受諾確認を求む》
《現地回収班を派遣可能》
《回答期限:4時間32分》
《未回答の場合、任務妨害と判断する可能性があります》
「可能性があります、か」
カイトが読む。
「脅してるのに、責任を取りたくない文章だな」
「官僚的で本物らしい」
真壁の冗談には、笑う者がいなかった。ルークは返信画面を開く。
「何て返す」
カイトが聞く。
「本人と媒体の存在は認めない」
「もう知られてる」
「こちらから確定させる必要はない」
ルークは文章を入力する。
《第三七号管理責任者ROOK》
《指揮系統および認証情報が不完全です》
《東部第九管区責任者の氏名、現行認証符号、保護移送後の担当部署を提示してください》
《確認完了まで、施設への接近を認めません》
送信前に真壁へ見せる。
「問題は」
「最後を変えろ」
「どこです」
「施設への接近を認めない、では撃つと解釈される」
「では」
《確認完了まで、第三七号外周で待機し、事前通信なく接近しないでください》
「弱くないですか」
「明確だ。強い言葉より、後で言い逃れさせない言葉を使え」
ルークは修正して送信した。既読表示は、すぐに付いた。返事は来ない。一分。二分。代わりに、第三七号の外周警報が鳴った。古賀が設置し直したばかりの、東側警戒線。一度。間を置いて、二度。風ではない。
「全員、配置へ」
浜田の声が施設内へ響く。照明が通常灯から、低い警戒灯へ切り替わる。真由が結衣を医務室奥へ移す。セトが矢吹の担架を確認する。ミナトは物資表を閉じ、入口から離れた保管区画へ持っていく。葛西が内側の防火扉を閉める。新城は動こうとして、真由に寝台へ戻された。人員表に配置した役割が、一斉に動き始める。ルークは管理室の有線通信を開いた。
「古賀さん、状況」
『公園東側。人影二。武器あり』
「所属表示は」
『見えない』
『待て』
古賀の声が低くなる。
『一人が、八洲の腕章を出した』
真壁がルークを見る。管理端末には、照会への返答がない。外では、八洲を名乗る二人が警戒線の前に立っている。
数秒後
鋼鉄扉の外部通話器が鳴った。浜田が受話器を取らず、ルークへ渡す。ルークは一度、全員の配置を確認した。十五人。役割未配置、ゼロ。それから通話を開く。
『こちら、八洲共同警備機構・東部第九管区回収班』
男の声だった。
『管理責任者ROOKへ告ぐ』
『保護対象と行政記録媒体を引き渡せ』
『これは、正式な回収命令である』
ルークは、まだ扉を開けなかった




