第六話 十四人分(2)
『VRMMO -関東封鎖戦域-』
第六話 十四人分(2)
修理は十五分で終わった。古賀と、白石側の女性――柚葉が外れた車輪を戻す。完全には直らない。だが、空の状態なら動く。傾いた棚へ直接近づかず、周囲の荷物を少しずつ移す。高棚の下には入らない。崩れそうなら、箱を諦める。時間は掛かった。その代わり、誰も下敷きにはならなかった。最後に、封印された樹脂箱が六つ床へ下ろされた。側面には古い自治体の印。
《災害用備蓄食品》
《加熱不要》
《個包装》
箱を一つ開く。中身は、保存食と栄養補助食品。包装は無事。期限表示は、ゲーム内年代ではとうに過ぎている。だが、PTIDの簡易判定では《要確認》であり、《使用不能》ではなかった。
「食えるのか?」
カイトが聞く。
「外装、臭い、変色を確認する。最終判断は拠点で行う」
「今一個食べれば早いだろ」
「結果が出る頃には帰ってる」
「確かに」
箱の内容量を記録する。六人側と十四人側。単純な人数比なら、第三七号の取り分が多い。だが、見つけたのは白石たちだ。修理に使った工具も、時間もある。ルークは三箱を白石側へ置いた。
「三箱ずつ」
「人数はそっちの方が多いだろ」
白石が言う。
「場所を見つけたのはそちらです」
「後で返せと言うなよ」
「言いません」
「甘いな」
「ここで一人負傷する方が高くつく」
白石は返事をしなかった。柚葉が箱の一つを開き、小さな個包装を取り出す。
「糖分入り。子供でも食べられそう」
結衣の言葉を思い出す。甘いの。ルークは三箱の中身を確認する。一つだけを選んで持ち帰る余裕はない。必要な物は、箱単位で積む。好みではなく、全体量で決める。それでも、糖分入りの包装が含まれていることは記憶した。倉庫奥から、燃料の臭いがした。カイトが先に見つける。
「ルーク。こっちに燃料缶」
小型発電機用の燃料が、金属棚へ残されていた。未開封が二缶。重量はある。三箱の食料。燃料二缶。工具。持ち帰るなら、搬送車が必要になる。
「全部載る?」
「載るだけなら」
ルークは答える。
「問題は、引けるかだ」
PTIDへ重量を入力する。
《推奨搬送人数:4》
《現在搬送可能人数:3》
《路面状態を考慮した転倒・疲労リスク:高》
白石が表示を見た。
「一缶置いていけ。帰り道で死ぬぞ」
「そちらは燃料を使うのか」
「発電機がない」
「なら、一缶を預かってもらえますか」
「何?」
「後日、必要になった時に回収する。保管料として、中身の一部を使っていい」
「俺たちを信用するのか」
「しません」
「さっきから正直だな」
「持てない物を床へ置くより、誰が持っているか分かる方がいい」
白石は燃料缶を見る。
「俺たちがここを離れたら」
「連絡手段は」
柚葉が胸元から古い通信端末を出した。
「戦域情報網なら、低容量だけ」
互いの識別名だけを交換する。
《SHIRAISHI》
《YUZUHA》
拠点位置は共有しない。所属人数も、先ほど言った以上は話さない。味方になったわけではない。敵でない時間が、少し延びただけだ。
その時
倉庫の外で、銃声がした。一発。間を置いて、三発。全員が動きを止める。白石が事務棟側を見る。
「俺たちじゃない」
「こちらでもない」
銃声は正面道路から聞こえた。続いて、車の警報音。誰かが配送センターへ近づいている。
「人数は」
「分からない」
古賀が答える。
「撃ち合う理由はない。裏から出る」
ルークは食料箱三つを搬送車へ積む。燃料缶一つ。空いた背嚢へ、個包装の一部を分散する。一か所へまとめれば、搬送車を失った時に全部失う。
「工具棚の部品は?」
カイトが聞く。
「置く」
「発電機に使えそうなのもあるぞ」
「次に来る」
「取られるかもしれない」
「今持てば、帰れなくなるかもしれない」
倉庫正面で金属音がした。シャッターを叩く音。誰かの声。
「開けろ!」
白石が自分たちの食料箱を背負える形へ分ける。
「西の裏口を使う。そっちは?」
「南へ出る」
「敵をこっちへ流すなよ」
「互いに」
短い合意。次に会った時も通用する保証はない。ルークたちは南側の搬送口へ向かった




