11.青焔
異常な熱気を伴って、王国騎士団は進軍を進めた。
オリヴィアを先頭に、道中でかちあった帝国兵たちを全て切り捨てていく。
そしてついに、オリヴィアはブライアン・フラットランドのもとへたどり着いた。
彼は帝国将軍と共に庭園にいた。
将軍には王国騎士が剣を突きつけている。
周囲は緊張に包まれ、静まり返っている。
レイピアの切っ先が首に向けられ、ブライアンは身動きをとることができない。
彼が慄然としていたのは、その剣先にではなかった。
目の前の女王が、あまりにも美しく微笑んでいたからだ。
オリヴィアはその笑みのまま、冷酷に言った。
「貴方の首をいただくわ。舌を切った後、貴方の国に送るの」
舌を切るのは、舌を噛みきって死んだエルヴィスの模倣だ。
帝国が彼を殺したように、この男を殺す。
言葉を聞いたブライアンは、肝をつぶしたようだった。
「ば、馬鹿な!戦争をするつもりか?」
帝国に正式に送るということは、それは帝国元首である皇帝のもとへ届けるということだ。
帝国の第四皇子の首を父親である皇帝に送ったとなれば、それは宣戦布告以外の何物でもない。
オリヴィアは可笑しそうに笑った。
「何を言っているの?戦争ならとっくに始まっているでしょう?貴方たちが始めたのに忘れたの?」
ケラケラとひとしきり笑うと、オリヴィアはすっと真顔になった。
レイピアの剣先が皮膚に触れる。
その急激な温度差に、ブライアンがゾッとする。
「止まれる場面は何度もあった。でもそれを無視して歩き続けたのは貴方たち。そして……もう二度と、後戻りできない地雷を踏んだ」
「地雷……?」
「分からない?」
オリヴィアが凄みをもってブライアンを見据える。
ブライアンはごくりと唾を飲んだ。
その動いた喉に、オリヴィアがぷつりと、レイピアの切っ先を刺した。
赤い粒が浮かび上がる。
「あなたの首なんかよりも、この国よりも、ずっとずっと重い、美しい青よ」
彼女が何を言わんとしているかは明らかだった。
あの碧眼の男。
彼女の愛する婚約者……エルヴィスの死が、決定的な分岐点だったのだ。
婚約者を人質にとったが失敗して死なれたという報告は受けていた。
なんて胆力がある男だと敵ながら感心したが……その時すでに、帝国の運命は決まっていたのだ。
オリヴィアは、もうこれ以上話す気がなかった。
いくら話したってエルヴィスが戻ってくるわけではない。
時間と気力の無駄だ。
面倒くさいからさっさと止めを刺してしまおう。
レイピアを素早く引いて突きの狙いを定める。
「さよなら」
……しかし、オリヴィアの引いた右腕は動かなかった。
驚いて自分の右手を振り返る。
なんと、自分の二の腕、肘、手首、そしてレイピア……全てが、植物のツルで固定されていた。
ドクン、とオリヴィアの心臓が大きく跳ねた。
このツルを私は知っている。
でも、あり得ない。
だってこれは、この魔法は──。
あの美しい青が脳裏をちらつく。
願望に近い期待と、そんな幻想は捨てろという理性が激しくぶつかり、思考がぐちゃぐちゃになる。
これは一体何──。
「そこまでだ。暴走しすぎだ、このバカ」
あまりにも聞き慣れた声が背後から掛けられた。
自らの大きな拍動に、喉が詰まりそうになる。
呼吸が乱れてくる。
自分の震える腕を捕らえる植物のツルの伸びる先。
恐る恐る、ゆっくりと振り返ると……。
金髪が、視界の端で揺れた。
見間違いだと思った。
とても、信じられなかった。
……そこに立っていたのは、死んだはずのエルヴィスだった。




