表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/48

7.破約

「いたぞ!ここだ!」


帝国兵のがなり声に、エルヴィスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

……もう見つかったか。



あの後、オリヴィアとエルヴィスの二人は城内の一室に隠れ、疲労回復と傷の応急処置に当たっていた。

その間に三分が過ぎ、エルヴィスの腕に着いていた鎧は消えた。

二人とも乱れた息を整えることはできたが、十分な休息はとれていない。



男の声はよっぽど響いたのか、帝国兵がわらわらと集まってくる。

その中の一人が歓喜の声を上げた。


「おい見ろ!女王と、最近婚約したっていう側近じゃないか?」


その言葉に帝国兵たちの目がギラリと光った。


「首を獲れ!出世のチャンスだ!」

「おい、女王に降伏させるだけでいいんじゃないのか?」

「同じことだろ!」


意気盛んにそれぞれが武器を構え始める。

下卑た笑みを浮かべて、自分たちが狩る側だと信じて疑わない、彼らの姿が浅ましい。

エルヴィスは「ハッ」と鼻で笑うと、オリヴィアを背に隠すようにして立ち上がった。


「舐められたもんだな。お前らが束になったって俺らの首には届きゃしねーよ。一人残らず吊るしてやる」


エルヴィスの好戦的な態度と言葉遣いに、帝国兵たちは狐につままれたような心地になる。

彼らが今まで見てきたエルヴィスは、品行方正、常に女王の側に控える大人しい側近だった。

だが今目の前で、短剣を手に取りこちらを睨み付けている彼は、まるで別人だ。


呆けた敵兵たちに、エルヴィスがにやりと口角を上げて言った。


「ほら、足元がお留守だぜ?」


それが聞こえた時にはもう遅かった。

ハッとした帝国兵たちが下を見ると、そこには、足元を縫うように植物のツルが張り巡らされていた。

いつの間に──そう口にする暇もなく、エルヴィスが指を鳴らすとツルが引っ張られ、それに引っ掛かった帝国兵たちが転倒する。

その転倒に巻き込まれて後ろの兵たちも倒れていった。

まるでドミノ倒しだ。


エルヴィスは挑発するように嗤って言った。


「おいおい大丈夫かよ?遊びに来たんなら帰り道はそっちだぜ」

「この……!」


顔を真っ赤にした帝国軍が武器を握りしめて立ち上がる。

彼らが一斉にこちらに向かって突進してくるのを、エルヴィスは冷静に見ていた。


(これでいい。俺に敵の意識を集めることで、あいつは逃げられる)


エルヴィスはちらりと天井を見上げる。

装飾板の奥──そこに隠し通路の入り口がある。

問題は、高すぎることだ。


エルヴィスは立ち上がって挑発を始める前、小声でオリヴィアに囁いていた。


「俺が魔法のツルで隠し通路の入り口付近まで梯子を作る。そこまで行けば手で押すだけで簡単に開くはずだ。俺が時間を稼ぐ。逃げろ」


オリヴィアはそれを聞いた瞬間悲痛な表情を浮かべたが、他に選択肢はない。

女王さえ生きていてくれれば、この国も生きていける。

自分だって易々と死ぬつもりはない。

逃げ道は戦いながら考える。


それに、少々私情も混ざっていた。

自分が、彼女に生きていてほしいのだ。



前列の兵がいよいよ眼前まで迫ってきている。

エルヴィスは左手を胸に当て、胸部を覆う鎧を生成する呪文を唱えながら、右手で短剣を逆手に構えた。

植物のツルはいつでも発動できる。

……あいつはもう逃げきっただろうか。

そう思った時だった。


「はあっ!」


左隣から聞こえた力強い声。

踵を打ち鳴らす硬質な音の直後、赤いドレスが室内を舞った。

帝国兵たちを、空中から鋭いレイピアが襲う。


「オリヴィア!」


エルヴィスの驚愕の叫び声に、オリヴィアが笑顔で振り返った。

その姿に、カッとエルヴィスの頭に血が昇る。


「このバカ!なんでまだいるんだ!死にたいのか!」


エルヴィスは左手のツルで遠距離の敵を振り回し、右手の短剣で近距離の敵を捌きながら、オリヴィアに怒鳴った。

だがオリヴィアはその怒りをものともせず、毅然と言い放った。


「エルヴィスを置いて一人で逃げるなんてできない。でも、貴方の気持ちを無下にしたことは分かってるわ。ごめんなさい」


レイピアの突きを的確に繰り出しながら素直に謝るオリヴィアに、エルヴィスは何も言えず黙り込む。

もう隠し通路を使う時間を稼ぐのは不可能だ。

こうなったら、たった二人で、ここを正面突破するしかない。


エルヴィスは目を瞑り、深いため息を一つ吐くと、すっと目を開けた。

過ぎたことは仕方がない。

頭を切り替え、新たな道を切り開くだけだ。


エルヴィスはオリヴィアにだけ聞こえる声量で囁いた。


「俺から離れるな。大勢を相手にする必要はない。前だけ見て一点突破するぞ」

「分かったわ!」


ぐ、とオリヴィアはレイピアを握る手に力を込める。


オリヴィアは言われた通り、ただ前だけを見て進んだ。

敵は次々と雪崩れ込み、終わりが見えない。

それでも、彼が側にいてくれるおかげで、少しずつ前進できていると信じられる。

だから、背後から、


「婚約者の命が惜しければ動くな!」


と叫び声が聞こえたとき、何が起こったのか理解できなかった。


「振り向くな!そのまま行け!」

「止まらなければ婚約者の首を斬るぞ!」


ドクン、ドクン、と鼓動の音が大きくなる。

エルヴィスは振り向くなと言った。

次同じようなことがあったら置いていけとも言った。

でも、そのまま進んだら彼の首を斬ると……。


「オリヴィア!出口はもうすぐだ!行け!!」


嫌な心拍音は、喉までせり上がってくる。


──約束は、守れなかった。

オリヴィアは……振り向いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ