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6.信任

オリヴィアの着地がわずかにぶれた。

エルヴィスの呼吸も、先ほどより明らかに荒い。

──時間と共に、疲労が溜まってきている。

しかし女王が落ちることはこの国が落ちることを意味する。

決して負けるわけにはいかない。


エルヴィスは正面を見据えたまま、左腕を伸ばし、手を緩く開いた。

左手に魔力が集まり、光を放つ。

エルヴィスが小声で呪文の詠唱を始める。


一方オリヴィアは、『赤い靴』で戦場を縦横無尽に駆け抜け、レイピアの切っ先を咲かせていた。

敵に囲まれた場面では、回転の勢いで刺突の連撃を繰り出す。


風の舞う音と剣戟の音が響く戦場。

詠唱を続け、光を左手から左腕、右腕にまで広げていたエルヴィスは、唱えながら眉間に皺を寄せた。


(くそっ、次から次へと湧いてきやがる。キリがねえ……!)


ちらりとオリヴィアに目を向ける。

せめて彼女だけでも休ませたい。


エルヴィスが見た時、オリヴィアは、『赤い靴』で風を起こしてレイピアの剣速を上げ、鋭い突きを繰り出しているところだった。

オリヴィアの突きが敵の大腿を貫き、相手の男は呻いてその場に崩れ落ちる。

無力化したが命までは奪っていない。

──彼女の一族に伝わる剣技だ。


(……優しいんだか甘いんだか)


エルヴィスはふうっと小さくため息を吐く。

この激しい戦場においてまでその剣を貫くのは命取りとも思えたが、その呆れるほどの甘さが彼女の美点でもあった。

……オリヴィアがその信念を突き通すというのならば、こちらもそれに合わせて行動するのみ。


(あいつが甘い分、俺が冷酷になればいい)


ずっと詠唱を続けていた魔法が完成し、エルヴィスの両腕が光を纏う。

光の膜が腕を覆い、瞬く間に黒い装甲へ変わる。

さらに両面を高強度のツルが補強し、腕が金属のような硬度を帯びた。

特殊な鎧が、エルヴィスの腕に生成された。

ただし効果持続時間は三分。


エルヴィスは低く身を屈めながら、オリヴィアに向かって声を張り上げた。


「オリヴィア!強く踏み込め!」


オリヴィアは目の前の敵から目を逸らさないまま、後ろから聞こえてきたエルヴィスの言葉に集中した。

エルヴィスの言う「強く踏み込め」とはつまり、「高く跳躍しろ」ということだ。

そうすることによって彼が何をしようとしているのかは、全く分からない。

だが、オリヴィアは心底エルヴィスを信じていた。

何の疑いもなく、右足を強かに踏み込んだ。


「はあっ!」


オリヴィアが天高く舞い上がる。

敵兵たちは皆、驚愕の顔で空を見上げた。


「今だ」


エルヴィスが、敵兵たちの足元の地面から無数の植物のツルを生み出す。

ツルは編まれながら空へと登っていき、帝国兵たちを囲い込んでいく。

上に視線を釘付けにされていた彼らが気づいたときには、もう遅かった。

植物は地面から根を離し、兵たちを完全に包み込んでいた。

そして結んだ頂点から持ち手のツルをエルヴィスへと伸ばす。


エルヴィスはタイミングを見計らい、柱を支点にしてぐいっと吊り上げた。

普通ならとても持ち上げられない重さだが、今のエルヴィスの腕には、魔法で生成した特殊な鎧が着いている。

敵兵たちを捕らえた吊るし罠の完成だった。


目の前の敵が瞬く間に一掃され、オリヴィアは息を切らしながら笑った。


「エルヴィス、すごい!」

「早く行くぞ。長くは持たない」


エルヴィスの冷静な声に、オリヴィアが慌てて顔を引き締め、彼を追いかける。

城内のなるべく人気のないところを目指して、二人は進んでいった。

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