14.罰
エルヴィスは早歩きで自室へと向かう。
「……ス、エルヴィス!」
後ろから聞こえる自分を呼ぶ声は無視する。
「エルヴィス!」
肩に手が乗せられた。
仕方なく、エルヴィスは振り返る。
そこには息を切らしたサイモンがいた。
「何だ」
「何だじゃないよ。陛下の執務室を出るなり早足でさっさと行っちゃってさ。話したいことがあったのに」
「何だよ。さっさと言え」
「言おうとしたら消えたのは誰だい……」
サイモンが呆れ混じりにため息を吐く。
エルヴィスに顔を寄せると、小声で言った。
「いいのかい、陛下の結婚」
「言っている意味が分からない。俺には良いも悪いも言う権利はない」
「そう言うってことは、分かってるんだろ?本当に分かってなかったら国益の話で良し悪しを語るはずさ」
「……」
エルヴィスが嫌そうに渋面を作る。
「何が言いたいんだ」
「陛下のこと、好きだろ?このまま黙って見てていいの──」
サイモンは最後まで言葉を繋ぐことができなかった。
エルヴィスがサイモンの顔面に向かって放った拳を防ぐのに精一杯だったからだ。
「何するんだよ!」
「……気安く言うな」
エルヴィスがじろりとサイモンを睨む。
その顔を見て、サイモンは息を呑んだ。
「……ごめん。僕が悪かったよ」
「分かればいい」
エルヴィスはくるりと踵を返すと、足早に自室へ向かっていった。
室内に入り、エルヴィスは後ろ手で扉に鍵を掛ける。
先程のサイモンの顔を思い出した。
エルヴィスの隠された大きな傷を見てしまったかのような、傷ついた顔だった。
「はっ……俺はどんな顔をしてたんだろうな……」
扉に寄りかかり、項垂れる。
このまま黙って見てていいのかと言われたら、そうせざるを得ないというのが答えだ。
自分に、オリヴィアの結婚に可否を唱える権利はない。
幸いマインズ王国は内政の安定した国で、王子たちも穏やかな人柄だと聞く。
オリヴィアを傷つけるような真似はしないだろう。
(そう……俺のように)
エルヴィスは自分の胸元をぎゅっと掴む。
過去がまざまざと思い出された。
もし自分が王子でなければ。
もし王国が魔王に乗っ取られていなければ。
もし復讐に囚われず生きられていたなら。
(そうであれば、俺は──)
そこまで考えて、エルヴィスはゆるりと首を横に振る。
考えても詮無いこと。
自分は……自分にできることをするだけだ。
それが、せめてもの罪滅ぼし。
(あいつがどういう選択をしても幸せになれるように、俺は力を尽くす)
だがそうは思っても、オリヴィアの結婚と考えるだけで胸の奥が重くなった。
オリヴィアが結婚したら、マインズ王国王子はオリヴィアの王配となる。
これからの政務は二人が中心となるだろう。
夫婦仲睦まじく執政する二人を、傍で見守りながら支える──。
何て緩やかな拷問なんだろう、とエルヴィスは思った。
だがオリヴィアに、ずっと傍にいると約束した。
それを破ることはできない。
「……これが、罰か……」
エルヴィスの呟きは、誰にも聞かれることなく部屋に溶けて消えた。




