第4話 冒険者ギルド、ランクは最底辺です(前編)
異世界4日目。
ガチャの結果は、期待を裏切らない。悪い方向に。
昨夜の深夜0時。リルアと手を重ねて引いた2回目の10連。
N×8、R×2。
初回よりR多い! やった! ……と一瞬だけ思った。中身が問題だった。
「フレンドポイント」。2つ。R枠が2つとも同じアイテム。
◇
**【フレンドポイント】**
ランク:R
種別:消費アイテム
説明:友人に使用することができる。
◇
フレンドポイント。
ソシャゲでは日常配布の定番中の定番。ログインボーナスでもらって、フレンドガチャ回して、Nアイテムの山が出て、「そんなところでがんばるんじゃなかった」って後悔するやつ。
『フレンドポイントwwwwww』
『配布アイテムの中の配布アイテム』
『アイテムじゃなくてフレンドポイントが出るの、ある意味レア(いらない方のレア)』
コメント欄がはしゃいでる。笑いたければ笑え。
問題は、「友人に使用すると」の部分だ。
「友人……」
私がぽつりと呟いた。
「……私、フレンド、いないんだけど」
前の世界でも、フレンドリストはスカスカだった。ソシャゲのフレンド枠は50人あったのに、実際に登録してたのは同じくらいのレベルの人に無作為に申請して繋がった名前も知らない人が3人。現実の友達は——数えないことにしてる。
「いるよ!」
リルアがびしっと手を上げた。
「私がいるよ! ひなたちゃんのフレンド!」
「リルア……」
「ね、使って使って! 私に使って!」
リルアの目がキラキラしてる。後光がぽわぽわ明滅してる。
この子は本気で「自分はひなたのフレンドだ」と思っている。嘘がない。ゼロ。
「……じゃあ、やってみるね」
フレンドポイントの小さな結晶を手に取った。ソシャゲの画面なら「使用」ボタンをタップするだけ。こっちでは……たぶん、相手に向けて念じる?
リルアに向かって、ぽん、と結晶を差し出した。
意識を集中する。「リルアに使う」。
結晶が光って——
——何も起きなかった。
しーん。
結晶はぼんやり光ったまま、私の手のひらに乗っている。
「……あれ」
「あれ?」
リルアがきょとんとしてる。
「効かない?」
「効かない、みたい」
『は? 草』
『R女神、フレンドポイントの対象外wwwwww』
『フレンドじゃなかったんだ……(残酷)』
「え、え? 私、ひなたちゃんのフレンドじゃないの……?」
リルアの後光がしゅんと暗くなった。
「違うよ! たぶんシステム的な問題で——」
『フレンドじゃなくてパートナーだから効かないんじゃね?』
『いやカップルだから』
『恋人は友人とは違う存在。互換性なし(仕様)』
『恋人にフレンドポイントは使えません。告白イベントをクリアしてください』
告白イベントってなに。そんなのない。
「リルア、違うの。たぶん女神と勇者の関係は"フレンド"じゃなくて、もっと別の……」
「別の?」
「その……パートナー、とか」
リルアの後光が、ぱっと一瞬だけ光った。
「パートナー! フレンドよりすごい!?」
「すごいかどうかは知らないけど、カテゴリが違うっぽい。だからフレンド用のアイテムが効かないんじゃないかな」
『パートナーって言って照れ散らかしてるの可愛いな』
照れてない。分析してるだけ。
リルアが私の腕をぎゅっと掴んだ。
「じゃあ私はひなたちゃんのパートナーなんだね! フレンドよりも特別なんだね!」
「そ、そういう言い方をされると……」
「えへへ」
後光がぽわぽわ。元気に戻った。
フレンドポイントが効かなかったのに、なんで嬉しそうなの。
「でもでも、パートナーだからって何もできないのはやだ!」
リルアが拳をぎゅっと握った。後光がきらっと明るくなる。
「じゃあ応援する! ひなたちゃん頑張れー! 頑張れー!」
リルアが全力で声援を送ってきた。ぴょんぴょん跳ねてる。後光がぽわぽわリズミカルに明滅してる。
……かわいいけど。
ステータス画面をちらっと確認した。
何も変化なし。
『応援バフ(効果なし)』
『声量だけはSSR』
『気持ちは伝わってるけど数値は動いてない(残酷な事実)』
「リルア、ありがとう。気持ちは……すごく伝わった」
「えへへ。効いた?」
効いてない。でもリルアの笑顔でHPが回復した気がするのは、たぶんプラシーボ効果。
◇
朝。ギルドに着いた。
エルナさんにガチャ結果を報告すると、今日もすごい速度でメモを取っていく。
「N8、R2。Rの内訳がフレンドポイント×2……」
ペンの音がぴたっと止まった。
「フレンドポイント、ですか」
「はい。でもリルアには効かなかったんです」
「効かない……」
エルナさんの切れ長の目がすっと細くなった。「前世で……」と言いかけた時と同じ目。データの海に潜っていく目。
「つまり召喚女神はフレンド対象外。パートナー枠は別カテゴリということですね。ということは、フレンドポイントの対象は第三者——召喚関係にない他者……」
ぶつぶつ言いながらメモの余白に図を描き始めた。スイッチ、入ってる。
「あの、エルナさん。試しに受け取ってもらえませんか?」
「え?」
エルナさんがペンを止めた。切れ長の目がこちらを見る。朝の光がカウンター越しに差して、栗色のポニーテールがきれいに照らされてる。
……なんで今、そんなところ見てるんだろう。
「フレンドポイント、誰かに使わないとデータが取れないので。エルナさんに使ってみたいんですけど」
エルナさんの頬がほんのり赤くなった。
「わ、私にですか?」
「ダメですか?」
「ダメではないです。データ収集のためですし。あの、これは業務の一環として——」
「うん、業務の一環として」
エルナさんが咳払いをした。
カウンター越しに結晶を差し出した。エルナさんが少し身を乗り出して、結晶を覗き込む。
意識を集中する。「エルナさんに使う」。
結晶が光って——
——何も起きなかった。
また。
しーん。
「……何も起きませんね」
「……そうですね」
視線が合った。エルナさんの切れ長の目がほんの一瞬揺れて、先に逸らされた。
エルナさんがメモに「受付嬢:対象外」と書いた。ちょっと残念そうだった。
「冒険者でないと効かないのかもしれませんね。あるいは——」
『まだフレンドじゃないってことだろ(身も蓋もない)』
『受付嬢ルートは好感度が足りません(攻略班)』
やめて。今はエルナさんも私もちょっと傷ついてるから。ルートってなに。
「フレンドとして認識されるには一定の親密度が必要なのかもしれません。ゲーム的に言えば好感度イベントの——」
エルナさんがはっとしてペンを握り直した。
「い、いえ、なんでもありません。とにかくデータの蓄積が必要です。他の方にも試してみてください」
リルアの後光が、ちょっと暗くなった。
「……ひなたちゃんが他の人にもフレンドポイント使うの……?」
「データ収集だよ?」
「データ……」
後光しょんぼり。
嫉妬バロメーター、フレンドポイントにも反応するの。
◇
ギルドの受付前で報告書を書いていたら、隣のカウンターで報告してる冒険者が目に入った。
革鎧に大剣、立派な装備。でも腰のポーチから覗いてるのは——空のビンと空の容器ばかり。中身が入ってない。
「あの人、なんで空の容器ばっかり持ち歩いてるんだろ」
「さあ……?」
エルナさんがちらっとそっちを見て、小声で教えてくれた。
「ああ、あの方はNアイテムコレクターです。空容器を集めるのが趣味で、中身は全部捨ててます」
「中身捨ててるの!?」
「容器の形が好きなんだそうです」
世界は広い。ガチャのNアイテムにも需要があるらしい。……いや、それは需要じゃなくて趣味か。
後、今日から正式にギルド登録完了。Fランクの冒険者スタート。アイテム鑑定もしてもらうことになったけど、Nばかりのリストを見せるのは......少し緊張する。




