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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第3話 最初の10連、回します(後編)

指先が、少しだけ震えてる。



3体目。


ここで問題が発生した。


壊れやすいビン、最後の1本。


3本のビンに虚無のポーションを3等分した。つまり、3体が限界。


「……リルア。ビン、あと1本だけ」


「え? もう最後?」


「3本セットだからね。3回で終わり」


Nアイテムのリソース制限。SSRの装備なら1日使っても持つんだろうけど、Nは最初から数が少ない。


3体目のスライムがぷるぷるしながら近づいてくる。こいつは1体目より少し大きい。


最後の1本を投げた。薄いガラスがぱりんと割れて、虚無の霧が散る。


霧がスライムを包む――が、体が大きい分、効きが浅い。動きが鈍るけど、完全には止まらない。


「ちょっと足りない——!」


粘る糸を投げた。足元に絡みつく。でもスライムの力が強くて、糸がみしっと音を立てた。


今にも切れそう。


走った。短剣を抜いて——


「ひなたちゃん、今っ!」


リルアの声が、背中を押した。


スライムに突っ込む。


ずぶん。


深く刺さった。核に触れる。ぱきん。


3体目が崩れた。


「はあ……はあ……」


息が上がってる。足がふらつく。戦闘の緊張と、走った疲労と、手のひらに残るあの感触。


3体倒した。


壊れやすいビン、残りゼロ。粘る糸も使い切った。短剣は使えるけど、サポートアイテムがない状態で戦うのは危険だ。


『3本で3体。ぴったりだけど余裕がない』


『Nアイテム、継戦能力がなさすぎる』


「ひなたちゃん」


リルアが息を切らしてる私の横に立った。戦闘には参加してないけど、一緒に走ったりコンボのタイミングを声で教えてくれたりしてた。


「お疲れさま。3体もすごいよ」


「……うん」


前を見ると、少し離れたところに、4体目のスライムがぷるぷるしていた。


こっちに気づいてはいない。草原でのんびり揺れてる。


倒せるだろうか。


壊れやすいビンはもうない。粘る糸も使い切った。短剣一本で突っ込めば、核を壊せるかもしれない。でもサポートなしだとスライムの体当たりを食らう可能性がある。


ゲームなら突っ込む。スタミナ消費と報酬を天秤にかけて、いけると判断したら攻める。


でも。


リルアの顔を見た。


笑ってる。後光がぽわぽわしてる。でも、よく見ると、額に汗が浮いてる。銀色の髪が少し乱れてる。後光の光量が、朝より少し弱い。


疲れてるんだ。戦ってないけど、ずっと一緒に走って、声を出して、心配して。


「……やめよう」


「え?」


「今日はここまで。3体で十分だよ」


「でも、あと1体……」


「うん。でもビンもポーションもないし、リルアも疲れてるでしょ」


「わ、私は大丈夫だよ? 全然平気——」


「嘘。額に汗かいてる。後光もちょっと暗い」


リルアがはっとして、自分の額に手を当てた。


「……バレてた」


「バレてたよ」


『撤退は甘え』


『いや正解だろ。リソース切れで突っ込むのはダメプレイ』


『正論ニキが味方してる時点で撤退が正しい』


コメント欄も意見が割れてるけど、冷静な判断は「撤退」だ。


ソシャゲーマーはスタミナ管理を知ってる。限界を超えて突っ込んでも、得るものより失うもののほうが多い。


「ごめんね、リルア。もうちょっと行けるかと思ったけど」


「謝らないでよ! 3体も倒したのに! すごいんだよ!」


リルアがぶんぶん首を横に振った。


「帰ろう。明日もガチャ引けるし」


「うんっ! 明日のガチャも一緒に引こうね!」


「……もちろん」



帰り道。


草原を歩きながら、体の疲労がじわじわと効いてきた。


足が重い。腕がだるい。短剣を振ったせいで握力もほとんど残ってない。


「ひなたちゃん、大丈夫?」


「大丈夫……ちょっと疲れただけ」


全然大丈夫じゃない。足がもつれそう。前の世界で運動なんてしてこなかったツケが回ってきてる。


リルアが心配そうに私の顔を覗き込む。


「顔、白いよ?」


「色白なだけ」


「嘘。朝はもうちょっとピンクだった」


なんでそんなに顔色チェックしてるの。


草原の真ん中に、ちょうどいい大きな石があった。リルアがそこに座って、ぽんぽんと自分の膝を叩いた。


「ひなたちゃん。ここ」


「え?」


「膝」


「膝?」


「膝枕。いいから、横になって」


「い、いやいやいや。別にそこまで——」


「ひなたちゃん。命令」


「命令?」


「女神命令。横になりなさい」


リルアの青い目がきりっとしてた。


……女神命令って、そんなスキルあったっけ。ないよね。


でも、膝はたしかにやわらかそうで、抗議する体力が残ってなかった。


「……じゃあ、ちょっとだけ」


リルアの膝に頭を乗せた。


やわらかい。あったかい。銀色の髪がカーテンみたいに私の顔の横に垂れてきた。リルアの顔が上から覗いてる。


逆光で後光がぼんやり光って、女神っぽい。初めて女神っぽいかもしれない。


「えへへ。ひなたちゃんの寝顔、見放題」


「寝てないよ。目開いてるよ」


「もう閉じていいよ。休んで?」


リルアの手が、そっと私の前髪を撫でた。


「…………」


あったかい。


風が吹いて、草のにおいがする。空が青い。太陽が暖かい。リルアの膝がやわらかい。後光がぽわぽわ光ってる。


……あれ。


「リルア」


「ん?」


「なんか……体が楽になってきた」


「え?」


「さっきまで足がパンパンだったのに……腕もだるかったのに、ちょっと軽くなってる」


「えぇ? 私、何もしてないよ?」


リルアがきょとんとしてる。本当に何もしてないらしい。ただ膝を貸してるだけ。


でも、確実に回復してる。微弱だけど、体の疲れが少しずつ抜けていく。じわじわと、お風呂に浸かった後みたいな、全身のコリがほぐれていく感覚。


「リルアの近くにいると……回復する?」


「そんなことあるの?」


「あるみたい。今、実感してる」


『え、マジか』


『R女神にヒーラー適性?』


リルアが自分の手のひらを見つめた。


「……私が近くにいるだけで、ひなたちゃんが元気になるの?」


「みたい」


「…………」


リルアの後光が、ぽわ、と。


さっきまでロウソクだったのに。


ぽわぁ、と、暖炉くらいの温かい光が広がった。


「私がいると、ひなたちゃん……元気になるんだ」


その声が、震えてた。


顔を上げると、リルアの目にうっすら涙が浮かんでた。


「え、リルア? 泣いてるの?」


「泣いてない。泣いてないよ」


泣いてる。


「……だって」


リルアが鼻をすすった。


「私、ずっと……何にもできないって思ってたの。戦えないし、応援しても効果ないし、後光はしょぼいし。ひなたちゃんの隣にいるだけで、何にも役に立ててないって」


「リルア……」


「でも、いるだけでいいんだ。近くにいるだけで、ひなたちゃんが元気になるんだ」


涙がぽろっとこぼれた。私の頬に落ちた。あったかい。


「……いるだけで、役に立ってたんだ」


リルアの後光がぽわぽわ明滅してる。嬉しい時の光。揺れてるのは泣いてるから。


「リルア」


「……うん」


「前から役に立ってたよ」


「え?」


「昨日の夜、リルアが隣にいなかったら、私はたぶん怖くて眠れなかった。知らない世界で、知らないベッドで、一人きりだったら」


リルアが目を丸くした。


「ひなたちゃん……怖かったの?」


「……ちょっとだけね」


ちょっとだけじゃなかった。すごく怖かった。でもリルアが腕にくっついて寝てくれたから、なんとかなった。


「私がいたから、眠れたの?」


「たぶんね」


「……えへへ」


リルアが涙を拭いて、笑った。後光がぽわぁっと温かくなった。


「じゃあ、これからもいっぱい一緒にいるね。いっぱい回復してあげる」


「別に回復目的で一緒にいてほしいわけじゃ——」


「えー、じゃあ何目的?」


「それは……その……」


好きだから一緒にいたいなんて言えるわけない。好きって。友達として好き。そう。友達。


「……リルアがいないと、さみしいから」


言ってから、ものすごく恥ずかしくなった。


なにさみしいって。何言ってんの私。


リルアの後光が、ぼわっと爆発した。


「っ……! まぶしっ!」


「ご、ごめんなさい! 嬉しくて光っちゃった!」


草原の真ん中で、後光が太陽みたいに輝いてる。遠くにいたスライムがびっくりしてぷるぷる逃げてった。


「さみしいって言ってくれた……! 私がいないとさみしいって……!」


「だから光を抑えて!? モンスターに見つかっちゃうから!」


「えへへへへ」


リルアがにこにこしながら後光を抑えようとするけど、ぽわぽわ明滅が止まらない。嬉しすぎて制御不能。


『これが百合ですか(入信)』


『R女神のパッシブ回復、百合パワーで増幅してない?』


コメント欄がうるさい。でも今は、不思議と嫌じゃなかった。



リルアの膝枕で30分ほど休んだ。


体の疲労はだいぶ回復して、足取りもしっかりしてきた。


帰り道。夕暮れの草原を、二人で並んで歩く。


「ひなたちゃん」


「ん?」


リルアがごそごそとポケットを探って、何かを取り出した。


元気が出るメッセージカード。朝、使い道がなくてリルアに預けたやつだ。


「はい。これ」


リルアがカードを開いて、私の目の前にかざした。


『いつもがんばっていてえらいね! (Nランク)』


…………。


Nランクの定型文。何の効果もないゴミカード。


「どう、元気になった?」


「……うん。ちょっとだけ」


「ほんと!?」


「ちょっとだけね」


リルアの後光がぽわっとした。嬉しそう。


カードの効果じゃない。リルアが笑ってるから元気になっただけだ。


でもそれは言わない。恥ずかしいから。


『元気が出るメッセージカードの正しい使い方:かわいい女の子に読んでもらう』


『攻略サイトに載せろ』


うるさいなコメント欄。正解だけど。

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