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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第17話 コメント欄、尊いって叫んでください(前編)

街の北。


雲の渦の下に、私たちは立っていた。


空は、もう、半分が黒い雲で覆われてた。雲の中心では、白い影が、ゆっくり、ゆっくり、降りてくる。


巨大な、顔のない、人型のシルエット。


地上に立つ私たちと、視線を合わせるみたいな高さに、降りてきた。


頭は、ない。胴と腕と脚だけ。輪郭は、白い、(もや)。中身は、空っぽ。


——無貌神ヴァニタス。


『来た』


『来てしまった』


『でかい』


『SSR勇者の3倍くらいある』


『ガチで物量からおかしい』


『URサイズ、伝説に違わぬ巨大ボス』



「ひなた、後ろに下がれ」


レクトが、私の前に出た。聖剣を、両手で構える。聖剣の刃が、白く、輝いてる。


「セラフィーナ、結界」


「はい」


セラフィーナが、シャンデリア後光を、抑えていた光量から、一気に開放した。広場全体に、薄いドーム状の結界が張られる。光の壁。


「これで、街への直接被害は、しばらく防げます」


「いいぞ」


レクトが、ヴァニタスを睨み上げた。


「行く」


レクトが、地面を蹴った。


聖剣の鎧、脚の強化、飛行——SSR勇者の全スキルが、一気に発動した。


レクトが、空中を駆け上がる。


ヴァニタスの胴体、その中心を、聖剣が裂いた。


さぁ、と、白い靄が散った。


——再生。


ヴァニタスの裂けた箇所が、ゆっくり、また、白い靄で塞がっていった。


「効かない、か」


レクトが、地面に着地した。聖剣を握り直す。


「セラフィーナ、後光ビーム」


「はい!」


セラフィーナの後光から、光のビームが放たれた。シャンデリア級のSSR後光。集束されたビームが、ヴァニタスの胸を貫く——


——のではなく。


ビームが、ヴァニタスの体に、吸い込まれた。


「えっ」


セラフィーナの目が、見開かれた。


ヴァニタスの体が、ぐっと、明るくなった。


「光、奪われてる!」


セラフィーナが、ビームを止めようとした。でも——止まらなかった。


シャンデリア後光が、糸を引くように、ヴァニタスの体に吸い込まれていく。


「セラフィーナ!」


レクトが叫んだ。


セラフィーナの体が、ふっ、と、軽くなった。後光が、急速に、弱くなっていく。


シャンデリア→ランプ→ロウソク→マッチ棒——


「セラフィーナ! 離れろ!」


レクトが、セラフィーナの腕を引いた。


でも、もう、遅かった。


セラフィーナの後光が、すぅっ、と消えた。


「あ……」


セラフィーナが、膝から崩れた。


「セラフィーナ!」


私たちは駆け寄った。


セラフィーナは、目を閉じてた。息はある。でも、後光が、ない。後光が完全に消えた女神って、こんな感じになるんだ——白くて、人間に近い。気絶してる。


「セラフィーナちゃん、セラフィーナちゃん!」


リルアが、セラフィーナの肩を揺さぶった。


「セラフィーナちゃん、起きて!」


セラフィーナは、目を開けない。


『マジか』


『SSR女神、第1ターンで沈黙』


『これがUR——SSRの後光をビーム一発で吸い尽くす』


『相性悪すぎる』


『信仰を喰う敵に、信仰の集合体である女神を、ぶつけちゃダメだろ』


『でも、ぶつけるしかなかった』


ヴァニタスの体が、さっきより、明るくなってた。セラフィーナの後光を、丸ごと、吸収した。


——そして。


ヴァニタスの白い手が、ゆっくり、伸びてきた。


長い、長い、腕。広場まで、届く。


腕の先端が——セラフィーナの体を、つかんだ。


「離せ!」


レクトが、聖剣で、その腕を斬った。


斬れた。でも——


腕の中央で切断されたのに、ヴァニタスは、平然としてる。切れた腕の先端が、セラフィーナの体を抱えたまま、空中に浮いて、ヴァニタスの本体に向かって、ふわふわ、戻っていく。


「待て! 離せ!」


レクトが、空中を駆け上がった。聖剣で、もう一度、腕を斬る。斬る。斬る。


切っても、切っても、白い靄が、再生する。


セラフィーナを抱えた腕の先端が、ヴァニタスの胴体に、ゆっくり、吸い込まれていった。


セラフィーナの白いドレスが、最後にちらっと見えた。


そして、消えた。


ヴァニタスの体に、丸ごと、取り込まれた。


「セラフィーナーーー!!!」


レクトの絶叫が、空に響いた。



『セラフィーナさん、喰われた』


『あ、あ、あ』


『SSR女神、第1ターンで退場』


『URの吸引能力、想像以上』


『これ、レクトちゃん、メンタル来るやつ』


地上に、レクトが落下してきた。聖剣を地面に突き立てて、止まる。


レクトの肩が、震えてた。


「ひなた」


レクトが、振り向かずに、私の名前を呼んだ。


「うん」


「リルアと、エルナを連れて、逃げろ」


「えっ」


「私が、一人で時間を稼ぐ」


「待って——」


レクトが、私の方を、ちらっと見た。


「セラフィーナを、取り戻す。あいつの中から、引きずり出す。だから——お前らは、生きて、攻略の手がかりを、探してくれ」


「レクトちゃん」


「お前らがいなくなれば、ヴァニタスの注意は、私一人に向く」


「でも——」


「私はSSRだ。女神じゃなくとも私だけで、多少は引きつけられる」


レクトの声は、いつもの「ふんっ」じゃなかった。低くて、強くて、まっすぐな声。


「ひなた、頼んだ」


レクトが、地面を蹴った。


聖剣を構えて、ヴァニタスに向かって、まっすぐ、突進していった。


「レクトちゃんーーー!」


私は叫んだ。


ヴァニタスが、もう一本の腕を、振り上げた。


聖剣の刃が、ヴァニタスの胸を、まっすぐ貫いた——


——けど、その瞬間。


ヴァニタスの白い手が、レクトを、つかんだ。


握りつぶすんじゃなかった。


ぽい、と、放り投げた。


レクトの体が、空中を、横に飛んだ。広場の外、街の壁に、激突した。


ガラガラ、と、壁が崩れる音。


「レクトちゃん!」


私とリルアと、エルナが、駆け寄った。


レクトは、瓦礫の中で、倒れてた。


聖剣を、まだ、握ってた。


「……生きてる」


息は、ある。でも、意識がない。鎧が割れて、肩から血が流れてる。


「レクトさん、レクトさん!」


リルアが、レクトの頬を叩いた。レクトは、起きなかった。


『SSR勇者、ワンパンで敗北』


『ヴァニタス、嫌な強さ』


『ガチで投げ捨てるみたいに無造作』


『勇者って、こうも軽く扱われるのか』


『リアル絶望』


「桜庭さん!」


エルナが、私の腕を引いた。


「逃げてください!」


「逃げない」


「桜庭さん、レクトさんもセラフィーナさんも倒されました。次は——」


その時。


ヴァニタスの体から、白い靄の塊が、複数、飛んできた。


無数の、靄の弾。


「エルナさん、伏せて!」


エルナが、咄嗟に、私を突き飛ばした。


エルナの背中に、靄の弾が、何発も、命中した。


「えっ」


エルナの体が、地面に、崩れた。


「エルナさん!」


私はエルナを抱き上げた。


エルナの唇の端から、血が滲んでた。倒れた拍子に、唇を強く噛んだらしい。


「桜庭、さん」


「エルナさん、しっかりして」


「桜庭、さん……鑑定、が」


エルナの瞳の奥で、鑑定スキルの光が、まだ、弱く、走っていた。


——戦闘が始まってから、ずっと、鑑定を続けてたんだ。UR相手に。ボロボロの体で。


「結果、が……出ました」


エルナが、噛んだ唇から血を滲ませたまま、言葉を絞り出した。


「ヴァニタスは——信仰を、喰います。女神の後光も、信徒の祈りも、全部——信仰エネルギーとして、吸収する」


「それは、さっき——」


「でも——リルアさんの力には——別の属性が、ある」


エルナの目が、リルアを見た。


「創成の女神……リーゼリスの、残滓。何かを——生み出す、力」


「生み出す、力……」


「ヴァニタスは、世界の裏返し。無から生まれた、虚無。何も、生み出さない。でも——創成の力は、その対極。何かを、生み出したい、と願う力。だから——相殺、できない。吸収、できない」


エルナが、咳き込んだ。唇から、また、血が一滴、こぼれた。


「ただ——そのままじゃ、駄目、です。リルアさんの力の——創成の部分だけを、前に出すように——少し、アレンジ、すれば——」


「アレンジ?」


「リルアさんが——『何かを、生み出したい』と、強く、強く、願えば——その気持ちが、月光に、宿る。信仰の光じゃなく、創造の光として、放たれる」


エルナの鑑定スキルの光が、ふっ、と、消えた。


エルナの声が、どんどん、小さくなっていく。


「後は——頼み、ます……」


エルナの目が、閉じた。


意識を、失った。



UR相手に、鑑定スキルを、最後まで走らせ続けた。全神経を、使い果たした。


でも、息はある。生きてる。たぶん、生きてる。お願い、生きてて。


「エルナさん」


エルナの頬を、撫でた。あったかい。生きてる。


——絶対、生きて、戻る。


「リルア」


「うん」


「聞いてた? エルナさんの、鑑定結果」


「うん——生み出したい、もの……」


リルアが、自分の手を見た。R女神の、小さな後光。


「奥の方に、何か、眠ってる、気はする。でも——それが、何なのか、わたし、わからない」


「リルア」


「『何を、生み出したいか』が、わからないと、力が、出ない。創成の女神の、チカラ——わたし、ピンと、来てない」


リルアが、唇を、噛んだ。


「ごめん、ひなたちゃん。今すぐ、は——」


「いいよ」


「えっ」


「考えて。リルアが、答えを、見つけるまで」


「でも、ヴァニタスは、待たない」


「うん。だから——」


私は、Rツルハシを、握り直した。


「下がってて」


「えっ」


「私が前に出る」


リルアが、目を見開いた。


「ひなたちゃん、それは——」


「私が前に出ないと、リルアが標的になる。私が時間を稼ぐから、リルア、その間に、見つけて。リルアが『生み出したいもの』」


「で、でも——」


「お願い」


リルアが、唇を噛んで、頷いた。


「うん——わたし、見つける。絶対」


私はRツルハシを構えて、ヴァニタスに向き合った。


——巨大な、白い、顔のない影。


私の身長の、20倍以上。


腕が、空気を裂きながら、こっちを向く。私を見てる。視線はないけど、見てる。


ヴァニタスの白い手が、ゆっくり、私に向かって、伸びてきた。


私は、握りしめたツルハシで、振り下ろした。


——かすった。


ツルハシの先端が、白い靄を、ちょっとだけ、削った。


でも、すぐ、再生した。


ヴァニタスの手が、私の頭の上に、かぶさってきた。


避けられない。腕が早すぎる。距離も近すぎる。


「ひなたちゃん!」


リルアが叫んだ。


ヴァニタスの白い手が、私に、触れた。


——その瞬間。


何かが、私の体から、すうっと、抜けていく感覚。


「えっ」


頭の中が、ぼーっとした。


リルア、を——


リルアのこと、を——


「ひなたちゃん?」


ヴァニタスの手が、私の体に、触れたまま。


私の中の、リルアへの想いが、抜けていくのが、わかった。


朝、リルアが「ひなたちゃん」って呼んだ声。


宿で、リルアが私の腕の中で、すぴすぴ寝てた感触。


灼熱層の洞穴で、ぎゅっと抱きついてきた、湿った肌の匂い。


総選挙の夜、リルアが「明日、ちゃんと話す」って言った時の、揺れる目。


——全部。


吸われていく。


——ひっ、と、息が止まった。


『ヤバい』


『ヤバいヤバいヤバい』


『ひなたさんの記憶吸われてる』


『リルアちゃんへの想いそのものを吸い取ろうとしてる』


『恋愛感情ごと』


『ヤバい! 止めろ!』


『ひなたさん、虚無のポーション!』


——虚無のポーション。


私は、震える手で、ポーチから、ビンを取り出した。


『N:虚無のポーション』


ヴァニタスの手の真下、私の足元に、たたきつけた。


ぱりん。


虚無の、効果。


「感情を一瞬、無効化」する、用途不明のNアイテム。


私の感情が、一瞬、ぷつっ、と切れた。


ヴァニタスが吸い上げていた「想い」も、一緒に、ぷつっ、と切れた。


ヴァニタスの手が、ぐらっと、揺れた。


吸引が、止まった。


「今ッ!」


私は、後ろに飛びすさった。ヴァニタスの手の届く範囲から、抜けた。


リルアの隣まで、走って戻った。


リルアが、私を抱きしめた。


「ひなたちゃん、よかった、よかった!」


リルアの腕が、震えてた。私を抱く力が、いつもより、強かった。


「リルア——」


「ひなたちゃんの中の、わたしが、消えそうだった。あの、瞬間——わたし、頭が、真っ白に、なった」


「うん」


リルアが、私を、ぎゅっ、と、抱きしめ直した。それから、小さな声で、ぽつり、と。


「……わたし、コピー、だから」


「えっ」


「いつか、消えるかも、しれない。創成の女神の、コピー。何百体も、いる、うちの一人。世界の、どこかで、本体が、力を、使い切ったら——わたしも、たぶん、消える」


——リルア。


そんなこと、考えてたんだ。


「だから、さっき、ひなたちゃんから、わたしの存在が、消えそうになって——わたし、こわかった」


「リルア——」


「いつか、わたしが、消えても——ひなたちゃんとの、繋がり、だけは、残したい。残せる、形——あれば、いいのに、って」


リルアの声が、揺れた。


「ずっと——ずっと、思ってた」


「リルア——」


私は、リルアの背中に、手を、回した。


「私も、ずっと、一緒にいたい」


「うん」


私の中の、リルアへの想いが、戻ってきていた。


虚無のポーションが切れて、感情が再起動した。リルアの匂い、リルアの温度、リルアの——全部、戻ってきた。


ぎりぎり、間に合った。


「リルア」


「うん」


「あれ、感情を吸う」


「うん」


「想いの、強い方から、吸う。たぶん、信仰と同じ仕組み」


「うん」


『SSR後光を吸ったのと同じだ』


『感情=信仰、と認識してる』


『密度が高いほど、吸いやすい』


『ひなたさんのリルアちゃんへの想い、密度バカ高いから真っ先に狙われた』


ヴァニタスが、また、腕を伸ばしてきた。


距離を詰めてくる。逃げ場がない。


——どうする。


レクトは倒れてる。セラフィーナは喰われてる。エルナは負傷してる。リルアは戦闘力がない。


私一人で、何ができる。

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