第15話 コメント共有機能?いらないんですけど(中編)
ベッドに、リルアを引き倒した。
——その瞬間。
視界の隅のコメント欄に、薄いモザイクが走った。
『——プライバシーフィルター起動——』
『は!? またか!?』
『今回も仕事するの!?』
『プライバシーフィルター!!! プライバシー!!!』
『今だけ俺たちが封じられる回(確定演出)』
ぎゃーぎゃーと、最後の悲鳴。
そして——コメント欄が、すーっと薄くなった。プライバシーフィルター稼働中の表示だけが、視界の端に小さく残ってる。
ありがたい。今だけは、コメント欄が静かでよかった。
「ひなたちゃん」
「うん」
「いつもより、強い?」
「強いよ」
リルアの白いワンピースのリボンを、ほどいた。指が震えてた。リルアは震えてなかった。私の方が、たぶん、興奮してる。
「ひなたちゃん」
「ん」
「私だけ、見てて」
「うん」
「コメント欄のみんなも、いない、今は」
「うん」
「私だけ」
「リルアだけ」
ベッドの上、リルアと向かい合う。コメント欄は、もう、消えている。
「私だけが、リルアを褒める」
「うん」
「私だけが、リルアに、こういうこと、する」
「うん」
唇を重ねた。さっきまで戦場で、コメント欄に煽られて交わしたキスとは、全然違う、ふたりだけの、深いキス。
「ひなたちゃん」
「リルア」
唇を離した瞬間、リルアの目が——受け身じゃない、まっすぐな、青い目が、私を見た。
「ひなたちゃんも、わたしの、独占でしょ」
——え。
今まで、リルアは「ひなたちゃんだけのもの」って言ってた。私が守る側で、リルアが守られる側で。
でも今、リルアは——逆を言った。
「うん」
「うん」
短い、応酬。それで、十分だった。
——その夜のことは、ふたりだけの記憶。
リルアの後光だけが、月明かりの代わりに、ふたりの体を、ピンクに染めていた。
「リルアは、私だけのもの」
「うん、ひなたちゃんだけのもの……」
リルアの目が、潤んで、私だけを見つめている。お風呂の夜、ベッドの夜、洞穴の夜——重ねてきた全部が、今夜の一晩に、集約されていく。
「ひなたちゃん、すき」
「私も、リルアが、世界で一番、すき」
唇を、深く、合わせた。
——その先のことは、ふたりだけのもの。
リルアの後光が、しゅるるっと、ロウソクサイズに戻った頃には、私の腕の中で、リルアが、すっかりくたっとしていた。汗で湿った銀の髪が、私のシーツに広がってる。
「ひなたちゃん」
「うん」
「すご、かった」
「うん」
「コメント欄、見てた?」
「フィルター入ってたから、いなかったよ」
「あはは」
リルアが、くたっと笑った。
私はリルアに覆い被さって、おでこにキスをした。それから、唇に、もう一度。
「リルアの声も、表情も、全部、私だけのもの」
「うん」
「コメント欄には、絶対、見せない」
「うん」
「リルアは、私の——」
最後の言葉、言うのが恥ずかしくて、リルアの胸に顔を埋めた。
リルアが私の頭を、撫でてくれた。
「ひなたちゃん、いいよ。最後まで、言わなくて」
「うん」
「私、ひなたちゃんの女神だから」
——女神だから。
その言葉が、なんか、ずっしり重かった。
「リルア」
「うん」
「ありがとう」
「えへへ」
リルアの後光が、ぽわぽわ、ぽわぽわ。
その夜、リルアと抱き合ったまま眠った。コメント欄は——プライバシーフィルターでずっと黙ったまま。今夜だけは、邪魔されなかった。




