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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第15話 コメント共有機能?いらないんですけど(前編)

ダンジョンコアを叩いてから、三日。


街は、普通に戻っていた。


ブロック化現象は、コアを破壊した時点で拡大が止まり、街に届く前に踏みとどまった。地下から順に、ブロック化していた地形が時間経過で元に戻っていく。木は木に。岩は岩に。森の輪郭が、ぼんやりとした昨日の質感に戻った。


ギルドへの正式報告は翌日に終わった。エルナさんが報告書を受け取って、「お疲れ様でした」とすごく事務的に労ってくれた。事務的だけど、目が「ありがとう」って言ってた。


報酬金額は——「一旦の調査費+ダンジョンコア破壊の特別報酬」で、地味に大きかった。冒険者ランクは据え置き。N縛り勇者でも、普通に金は入る。


報告日の夜は、リルアと二人で湯につかった。お湯が普通に気持ちよくて、二人とも何も話さないまま、お湯の縁に頭を預けて目を閉じてた。それがすごく、平和だった。


二日目は、レクトちゃんとセラフィーナさんと一緒にギルドの食堂で昼食をとった。


三日目の今日、リルアが「お肉食べたい」と言ったので、屋台で串焼きを買った。リルアは両手でかぶりついた。後光がぽわぽわ。


あいかわらずガチャは爆死人生だけど、こういう日が一番幸せだ。


——と、その時は思っていた。



三日目の夜。


宿に戻った。


ベッドに腰掛けて、リルアと向き合った。スキル画面を脳内に開く。


【スキル:コメント欄——Lv2】

【新機能:コメント共有(解放済)】

『任意の対象に対して、コメント欄の情報を共有可能。対象は自分と対象の双方の同意が必要』


——使わないと決めていたはずの機能。


封印した、はずだった。三日間、ずっと、画面を出さないようにしていた。それでも、ふとした拍子に、画面の輪郭が脳の隅に浮かぶ。風呂の中で。串焼きを食べながら。リルアの寝顔を見ているとき。


「使ったら、何が起こるんだろう」


——その問いが、消えなかった。


たぶん、余計な機能だ。たぶん、使わない方がいい。


でも、私の隣に、リルアがいて。リルアにコメント欄を見せたら、リルアはどんな顔をするんだろう、っていう、すごく単純な好奇心が、勝った。


「気になっちゃってさ」


「コメント?」


「うん。一回だけ、試しに。リルアに共有してみたいなって」


リルアが首を傾げた。後光がぴこんと跳ねる。


「ひなたちゃんのコメントを、私が見れるってこと?」


「らしいよ。同意がいるから、リルアが嫌なら——」


「見たい!」


即答だった。


『早ッ』


『食い気味すぎて草』


『これは興味津々』


「えっと、じゃあ、いくよ」


【コメント共有機能:対象を選択してください】


リルアの名前を選んだ。


【共有を開始しますか?】


「リルア、いい?」


「はい!」


【共有を開始しました】


リルアの目がきょろきょろした。耳の裏あたりを気にして、髪を触って、それから——ぱあっと顔が輝いた。


「見える……! ひなたちゃん、本当に流れてる!」


「うん」


【共有モード:表示中】


私の脳内のコメント欄が、リルアの脳内にも流れてる。同期。


その瞬間——コメント欄が、おかしくなった。


『リルア!?』


『リルアちゃんに見られてる!?』


『リルアちゃん本物だ』


「あ、はい、こんにちは……?」


リルアがおずおずと頭を下げた。


その瞬間、コメント欄が爆発した。


『可愛い』


『リルアちゃんがあいさつしてくれた』


『R女神(実質SSR)』


『ぽわぽわが画面越しに伝わってくる』


『推しを推せる時に推せ』


『俺の女神』


『いやお前のじゃない、みんなの女神』


『リルアちゃん等身大抱き枕(後光内蔵)売ってくれ』


『売り切れです』


リルアの顔が、見るからに赤くなっていった。


「えっ、えっ、これ、私のこと……?」


「リルアのことだよ」


「えっ、えっ……」


リルアの後光が、ぴかぴか明滅し始めた。嬉しいような、恥ずかしいような、混ざった明滅。


『後光ぴかぴか頂きました(記録用)』


『恥ずかしがってるのも尊い』


「ひなたちゃん……みんな、私のこと、こんなに——」


リルアの目が、うるうるしてる。後光がぽわぽわとぴかぴかの中間。


「えっと、いつもね、私、Rでロウソクで、いらない子だったから……こんなに褒めてもらえるの、はじめて……」


『泣くな』


『あ、もう泣いてる』


『運営、リルアちゃんに昇格通知を』


『いや、リルアちゃんはRでいい』


『R女神(信仰でSSR)』


リルアがふにゃっと笑った。後光がもう、いつもより、ちょっと大きくなってる。ロウソクが、束で点いたみたいに、ぽわぽわ揺らいでる。


ぽわぽわぽわぽわ。


「うれしい……」


私の中で、何かが、ちりっとした。


——なんで、こんなに、嬉しそうなんだろう。


——コメント欄の、誰かもわからない人たちに褒められて。


その時——コメント欄の、調子が変わった。


『これ、ひなたさん抱きしめてやれ』


『ここでキスでしょ』


『キス!キス!キス!』


『一線越えるシーン待機』


『お前らもう付き合ってんだから、見せ場くれ』


『ベッドはそこにあるんだぞ』


『R女神がぐらついてる今がチャンス』


『コメ欄民、調子乗りすぎ』


『でも見たい』


——リルアとの関係を、囃し立てられたくない。


——「キスしろ」って煽られて、するもんじゃない。


——リルアと心を通わせるのは、コメント欄のためじゃない。


『あ』


『嫉妬センサー作動』


『ヤバい、視聴者の俺たち、消されるかも』


リルアがまだコメント欄に夢中で気づいてない。


私は——私は、なんで、こんなことを試そうって思ったんだっけ。


「リルア」


「ん?」


「これ、切るよ」


「えっ」


「切るね」


「えっ、えっ」


【共有を終了しますか?】


迷わず「はい」を選んだ。


【共有を終了しました】


ぷつっ、と音がした。気がした。


リルアがきょろきょろした。


「あれ、消えちゃった」


「うん、切った」


『はぁ!?』


『切るな!!!』


『俺たちの楽園を切るな!!!』


『運営、復活ボタン』


「うるさいなぁ」


ぼそっと呟いた。


リルアが私の顔を覗き込んだ。


「ひなたちゃん?」


「……ううん」


「もしかして……怒ってる?」


「怒ってない」


『嘘だ』


『嫉妬してるって正直に言え』


「うるさい」


『独占欲覚醒イベント』


『煽った俺たちのせいでもある(反省)』


「うるさいって、言ってる」


リルアが目を丸くした。


「ひなたちゃん」


「うん」


「もしかして、コメント欄、なにか言ってた?」


「……うん」


「私には見えなくなったから、わかんないけど。最後の方、ひなたちゃんの顔、変わってたから」


息を吸った。


「コメント欄が、余計なこと言ってた」


「余計なこと?」


「うん。リルアと私のこと、囃し立てて、おもちゃにしようとしてた」


「囃し立てて……」


「『キスしろ』とか、『一線越えろ』とか。そういうの。リルアが、知らない人たちに、いいネタにされてるのが——なんか、嫌だった」


リルアが、目を丸くしたまま、しばらく止まった。


「あと、ちょっとだけ、嫉妬もしてた」


「ちょっとだけ?」


「……ちょっと多めに」


リルアの後光が、しゅん、と落ち着いた。明滅じゃなくて、深いところで、しっとり光る感じ。


「えへへ」


「笑うとこじゃないし」


「だって、嬉しい」


「なんで」


「ひなたちゃんが、コメント欄から、私のこと、守ってくれたから」


——言葉に、された。


私が言いたかったのに、リルアに先に言われた。「守る」って言葉、私の中ではちゃんとあったのに、口にする前に、リルアの方が拾ってしまった。


「言わないで」


「うん。ごめん」


「言わないで、それは」


「うん」


リルアが私の手を握った。後光が、私の手の甲までぽわぽわ伝ってくる。


「あのね、ひなたちゃん」


「うん」


「コメント欄のみんなに褒められたの、はじめてで、ぐらっとした。本当」


「うん」


「でも、わたし、知ってるよ」


リルアの青い目が、私をまっすぐ見た。


「わたしを一番最初に見つけてくれたのは、ひなたちゃんだから」


「うん」


「ぐらっとした分、ひなたちゃんに、ぎゅってしてほしい」


「……うん」

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