第10話 モンスター襲来、ステージは守ります(中編)
ミラージュウルフを無事討伐。しかし、本当に大変なことが起きようとしていた。
◇
「今のって……私が?」
リルアが自分の手を見てる。目が丸い。後光がまだ少し乱れてて、光が指先からちらちら散ってる。
「リルア……後光で照明を作った。暗がりに隠れた狼を照らし出した」
「私が……光で……?」
「ステージライトの応用だよ。メロちゃんを照らしてたのと同じ。でも今回は、敵を照らした」
リルアの後光がぽわぽわぽわぽわっと明滅してる。混乱と驚きと、嬉しさがごちゃまぜになってる。
「私……役に立てた……?」
「立った。すっごく立った」
リルアの目がうるんだ。
「私……戦闘で……役に立てた……!」
後光がぽわーっと明るくなった。嬉しくて制御できない。ロウソクがランタンくらいになってる。
「先輩!」
セラフィーナが走ってきた。
「先輩! すごいです先輩! 後光であんなことができるなんて!」
セラフィーナの後光もキラキラチカチカしてる。嬉しすぎて制御できてない。シャンデリアがディスコボールみたいになってる。
「せ、セラフィーナ、まぶしい……」
「すみません先輩! 嬉しくて!」
後光が二つ、ぽわぽわとキラキラと、バックステージの裏で光り合ってる。
レクトが剣を納めて、ふっと息を吐いた。
「……悪くなかった」
レクトのツンデレ翻訳:「よくやった」。
エルナさんがメモを取りながら震えてる。
「後光の戦闘応用——照明による幻影無効化。R女神の後光が、B級モンスターの幻影を打破。これは——これは、新しいデータです……!」
興奮してる。ペンの動きが速い。でもメモの手が震えてるのは、興奮だけじゃなくて——たぶん、ちょっと泣いてる。
「リルアさんが……戦闘で……」
「うん。リルアが、やった」
エルナさんが鼻をすすった。すぐにメモに戻ったけど、ノートに水滴が落ちてた。
『R女神、戦闘初貢献!!!!!!!!(歴史的瞬間)』
『後光の用途:照明(公式)。ステージライト→サーチライトへの転用(応用)』
『N装備+R後光でB級撃破。この子たち本当にNとRか??? ランク詐欺では???(疑問)』
『虚無のポーションがB級モンスターの幻影を無効化した件。Nアイテム最強伝説がまた更新された(速報)』
『セラフィーナのディスコボール後光、これはこれで新しい(副産物)』
『虚無のポーションで50匹が5匹に。N装備の可能性、無限大すぎる』
コメント欄が大騒ぎだ。
◇
戦闘が終わって、会場に戻った。
メロが——まだステージで歌ってた。
ゲリラライブの小スペースで。一人で。
モンスターが襲来してる間も、ずっと歌い続けてた。
ファンたちが拍手してる。泣いてる人もいる。モンスターが来て、悲鳴が上がって、パニックになりかけた時——メロの歌声が聞こえたから、落ち着けた。逃げないで済んだ。
メロの声が震えてる。でも歌い続けてる。
歌い終わった。
静寂。
そして——拍手。
会場中から拍手が聞こえた。メインステージの方からも。ゲリラライブの小スペースに、人が溢れてる。200人、300人——もっといる。
「メロちゃん、なんで——」
「みんなが……怖くないように……」
メロが泣きながら言った。
「私にできることは、歌うことだけだったから……」
胸の奥が熱くなった。
歌うことだけ。それだけ。でも——それが、何百人もの人を救った。
パニックにならずに済んだのは、メロの歌声が会場に響いてたから。
「エルナさん」
「……はい」
「メロちゃんの票数」
エルナさんの鑑定スキルが光った。声が震えてる。
「800……900……」
数字が動いてる。戦闘が終わって、感動したファンが次々に投票してる。
「950……980……」
会場のあちこちで、投票券を握りしめた人たちが走ってる。メロの投票箱に向かって。
「990……」
「1000……!」
1000票。
その瞬間——
メロの体が、ぶわっと光った。
2Dの輪郭が——変わり始めた。
平面だった体に、奥行きが生まれていく。影ができる。横から見ても消えない。髪がふわっと立体的に揺れる。手に厚みが出る。足に体重がかかる。
会場が静まり返った。
メロが——3Dになっていく。
光が収まった。
メロが——立ってた。
3Dで。
立体で。
初めての後ろ姿があった。
メロが自分の手を見た。開いたり閉じたり。振り返った。——後ろ姿がある。初めての後ろ姿。
「私……立体に……手が……厚みが……!」
メロが自分の頬を両手で触った。
「あったかい……自分の顔が、あったかい……」
涙が落ちた。3Dの涙。立体の涙。光を反射してきらきら光りながら、メロの頬を伝って落ちた。
エルナさんが鑑定スキルで何かを見た。ノートに急いで書き殴ってた。「投票、1000到達……3D化達成……」
ペンが止まった。エルナさんの顔色が変わった。
「……桜庭さん。3Dの先に、もう一つ段階があります。数値が——振り切れてる。鑑定スキルの測定限界を超えてます」
「測定限界?」
「ルミナさんが話してた伝説……もしかしたら、ただの伝説じゃないのかもしれません」
エルナさんの手が震えてた。データで見える人だからこそ——見えてしまったものの重さが、顔に出てた。
大歓声。
会場が揺れた。拍手と歓声と涙が、全部混ざり合って——
コメント欄が全部同じ文字で埋まった。
『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』
『3Dお披露目配信。本日のMVP、確定(満場一致)』
『おめでとう』
『おめでとう』
私も泣きそうだった。
リルアが私の手をぎゅっと握ってきた。後光がぽわーっと、明るく、あたたかく灯ってる。
◇
投票締め切りの時間になった。結果発表は明日。
日が暮れた会場で、メロが走ってきた。
——走って。
3Dで。
足音がある。地面を踏む感触がある。2Dの時にはなかった、地面との接点。
「ひなたさん……!」
メロの声が、すぐそばで聞こえた。2Dの時は距離感がなかったのに、今はちゃんと「近くにいる」とわかる。
「ありがとうございます……! 3Dに……なれました……!」
泣いてる。3Dの顔で、3Dの涙を流してる。
「メロちゃん」
「はい……はいっ……」
「横から見ても見えるね」
メロが、さらに泣いた。
「はいっ……! 見えます……! 見えるんです……!」
メロが自分の横顔を手で触ってる。厚みがある。横から見ても消えない。自分が立体だということを、何度も何度も確認してる。
リルアが二人を見てる。
後光がぽわぽわしてる。嬉しそう。
でも——少しだけ。ほんの少しだけ。
後光がしゅんと暗くなった。
一瞬だけ。すぐにぽわっと戻ったけど。
私は気づいた。でもリルアは何も言わなかった。
リルアの内心が——後光に出てた。
(メロちゃんは3Dになれた。たくさんの人の応援で)
(私は、ひなたちゃん一人の応援だけ)
(それでも……それでいいって思ってるのに)
(なんでちょっとだけ、羨ましいんだろう)
後光がほんの少し、しゅんと暗くなった。
でもすぐにぽわっと戻る。
リルアは笑ってた。いつもの笑顔。




