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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第8話 異世界アイドル総選挙、開幕します(後編)

会場の熱気は午後に向かって高まっていく。推しへの想いと投票券が交わる、本当の祭りが始まろうとしていた。



午後。


護衛任務で会場を巡回してた。


レクトとセラフィーナはステージ正面の警備。エルナさんはデータ収集と称して投票所付近をうろうろしてる。


私とリルアは、会場の外周を歩いて回ってた。


人がどんどん増えてる。熱気がすごい。推しの名前を叫ぶ声、投票券を買い求める行列、ファン同士の議論。


「にぎやかだね、ひなたちゃん」


「うん。すごいね」


リルアがにこにこしながら、私の隣を歩いてる。銀色の髪が午後の日差しに光ってて、後光がぽわぽわ。


会場の端っこに来た時——


人通りが途切れた場所に、一人の女の子がいた。


ピンクの髪。2D。


さっきステージで「がんばります」と言ってた子——メロだ。


メロは、チラシを持ってた。「メロに清き一票を!」と書かれた、手書きのチラシ。


通行人に向かってチラシを差し出してる。


でも——


「あの……チラシ、受け取って、もらえますか……」


声は出てる。甘くて、かわいい声。ちゃんと聞こえてる。


でも2Dだから——チラシを渡そうとしても、手が届かない。平面だから奥行きがない。相手の手元に紙を届けられない。差し出してるのに、紙が宙ぶらりんになる。


通行人が素通りしていく。メロに気づいてない人もいる。気づいてても、2Dの薄い姿を見て、興味を持たない。


メロが、もう一度チラシを差し出した。


「あの……」


通行人が通り過ぎる。


「……」


チラシを持った手が、ゆっくり下がった。


(……見てられない)


私は歩き出してた。


メロの前に立って、チラシを受け取った。


2Dの手から紙を受け取るのにはちょっとコツがいった。メロの手は薄くて、つかめない。でもチラシは3Dの物体だから、チラシの端をつまむことはできた。


メロが目を丸くした。


2Dの顔の上で、目がまんまるに見開かれてる。平面なのに、表情はちゃんと動く。


「受け取って……くれた……?」


「あなたがメロちゃん?」


「は、はい! メロです!」


「さっきの自己紹介、聞こえてたよ」


「え……聞こえて?」


「いい声だね」


メロの2Dの体が、ぴくっと震えた。


「聞こえて……? 私、いつも誰にも気づいてもらえなくて……声だけはあるのに、見てもらえなくて……」


声が震えてる。泣きそうな声。甘くてかわいいのに、悲しい声。


「メロちゃん、投票……何票くらい入ってるの?」


「……3票です」


「3票」


「自分と、お母さんと、お母さんの友達です」


沈黙。


3票。そのうち1票は自分。


ソシャゲで例えるなら——総ダウンロード数3。うち1つは自分のスマホ。


「…………」


何も言えなかった。3票という数字の重さと軽さが同時に胸を突いた。


リルアが、私の隣で立ち止まってた。


メロをじっと見てる。後光がぽわぽわしてて——


「メロちゃん、がんばって!」


リルアが言った。笑顔で。何の計算もなく。ただ、がんばってる子を見て、がんばってと言っただけ。


その瞬間——


リルアの後光がぽわっと光った。


光がメロに当たった。


ロウソク程度の微弱な光。でもそれがメロの体を照らした時——


メロの2Dの輪郭が、ほんの少しだけ、立体的に見えた。


影ができた。ほんの薄い影。さっきまで影すらなかった2Dの体に、一瞬だけ奥行きの気配が生まれた。


メロが自分の手を見た。


「……! 今、私……ちょっとだけ立体に……?」


リルアが首を傾げた。


「え? 何かした?」


何もしてない。何もしてないのに、リルアの後光がメロに影響した。


応援が——直接アイドルに影響した。


(これ……ソシャゲの「好感度で進化」と同じシステムだ。投票だけじゃなくて、直接の応援が——)


考えがまとまる前に、メロの輪郭は元に戻った。ほんの一瞬。でも確かに見えた。


メロがリルアを見て、ぽかんとしてる。


「今の光……あったかかった」


リルアの後光がぽわぽわしてる。本人は何が起きたかわかってない。


「ひなたちゃん、私なにかした?」


「……わからない。でも、いいことが起きた気がする」


メロが、また泣きそうな顔をした。でもさっきとは違う。さっきは悲しくて泣きそうだったけど、今は——


「応援……されたの、久しぶりです」


声が震えてる。甘い声が、もっと甘くなってる。


私はメロに向き直った。


「メロちゃん」


「は、はい」


「明日もゲリラライブ、やりなよ」


「えっ?」


「会場の端でいい。メインステージの合間に。待ち時間の人が暇してるから、歌を聴いてくれるかもしれない」


メロが目をぱちくりさせた。2Dの顔がまたまんまるになってる。


「でも……私、2Dだし、誰も見に来てくれないかも——」


「私たち、見に行くから」


メロの口が、半開きになった。


「……え」


「護衛任務だから会場にいるし。リルアも一緒に見るよね?」


「うん! 見る! メロちゃんの歌、聴きたい!」


リルアの後光がぽわっ。


メロの目に、じわっと涙が浮かんだ。


泣きそうで、でも——笑ってる。


2Dの顔が、立体じゃないのに、ちゃんと笑えてる。


「ありがとう、ございます……!」


小さいけど、震えてるけど、ちゃんと声が出てる。


メロが両手でチラシを握りしめて、ぺこぺこ頭を下げた。2Dだから頭を下げると上半身が画面ごと傾く感じで、ちょっと変だったけど——気持ちは、ちゃんと伝わった。


『勇者、推し活を始める(速報)』


『N装備で選挙を応援するの??? ジャンルが違うんだが???』


『ぶっちゃけ気になるこの子。声はSSR級では???(審美眼)』


『3票アイドルを応援するスキル2個の勇者。似た者同士じゃん(泣)』


『正論ニキ『投票券がN装備より効率いいのでは』』


『R女神の後光がペンライトとして有能すぎる件(再掲・確定事項)』


コメント欄がざわざわしてる。



夕方。


会場の端にあるベンチで、全員集合して休憩してた。


護衛任務の1日目が終わりかけてる。大きなトラブルはなかった。ファン同士の小競り合いが何度かあったけど、レクトがにらみをきかせたら一瞬で収まった。SSR勇者の威圧感は、治安維持に最適だ。


「アイドル総選挙、なかなか面白いですね」


エルナさんがノートを閉じながら言った。ページがびっしり埋まってる。


「データは取れましたか?」


「はい。投票システム、ファン構成、アイドルのランク分布……まとめると面白い論文が書けそうです」


「論文……」


「あ、冗談です。半分くらいは」


半分は本気なのか。


レクトがベンチの端で、腕を組んだまま黙ってる。


「レクトちゃん、楽しかった?」


「楽しいわけがないだろう。護衛任務だ」


「でも、ルミナっていうアイドルの歌、聴いてたよね」


レクトの耳がちょっとだけ赤くなった。


「……声が響いてきただけだ。聴こうとしたわけじゃない」


「レクトさまは、ルミナさんの2曲目で拍手してました」


「セラフィーナ!!!」


セラフィーナが方向音痴並みに空気の読めないタイミングで暴露した。レクトが耳を真っ赤にして、マントの襟を引き上げて顔を隠してる。


リルアが私の腕をつかんだ。


「ひなたちゃん、明日も来るんだよね?」


「もちろん。護衛任務、まだ2日ある」


「メロちゃんのゲリラライブ、楽しみ!」


後光がぽわぽわしてる。今日一日中、リルアはずっとぽわぽわだった。お祭りの空気が合ってるのかもしれない。


ふと——空を見上げた。


ランキングボードが、夕焼けの空に半透明に浮かんでる。


1位:ルミナ——38,927票


最下位のあたりに、名前がかろうじて読める。


メロ——3票


「……明日」


私は立ち上がった。


「明日から、本気出す」


「本気って何するの?」


リルアが首を傾げた。


「メロちゃんの応援」


護衛任務と並行で。N装備の勇者に、選挙を動かす力はないかもしれない。でも。


リルアの後光がメロに当たった時、あの子の輪郭が一瞬だけ変わった。あれは見間違いじゃない。


3票でも、声は出てた。


3票でも、歌は歌えてた。


3票でも——笑えてた。


「行こう。明日が本番だ」


『護衛クエスト初日終了。勇者、推し活を開始する(1日目・完)』


『明日のゲリラライブ、ちょっと楽しみなんだけど(素直)』


『N勇者がアイドル総選挙に参戦。何が起きるか全くわからない(期待)』



夜。宿の部屋で。


リルアがベッドの上で足をぱたぱたさせながら、今日の感想を語ってる。


「2Dの子って横から見ると消えちゃうの面白いね! あと、投票券を買ってた大きいおじさん、すごい枚数だったね! あと、メロちゃんの声、すごくきれいだったね!」


「うん。全部その通り」


「ひなたちゃんは何が一番楽しかった?」


「……メロちゃんが笑ったとこ」


「あ、わかる! あれよかったよね!」


リルアの後光がぽわっと灯った。寝る前の穏やかな光。


「ねえ、ひなたちゃん」


「ん?」


「明日、メロちゃんの歌が聞けるの、楽しみだね」


「うん」


「私、また光っていい? さっきみたいに」


「もちろん。リルアの応援が、メロちゃんに届いてたんだよ」


「届いてた?」


「うん。リルアの後光が当たった時、メロちゃんの体がちょっとだけ立体に見えたの」


リルアが目をぱちくりさせた。


「私の後光で……?」


「たぶん。応援の気持ちが、直接アイドルに影響するんだと思う」


「じゃあ、明日もっといっぱい応援したら、メロちゃんもっと立体になる?」


「かもしれない」


リルアの後光が、ぽわぽわぽわぽわ光った。嬉しくて抑えられないやつだ。


「明日がんばる! いっぱい光る!」


「うん。一緒にがんばろう」


リルアがにこっと笑って、私の腕にぎゅっとしがみついた。


「おやすみ、ひなたちゃん」


「おやすみ、リルア」


後光がゆっくり暗くなる。消えたんじゃない。安心して眠りについた、穏やかな光。


——アイドル総選挙、1日目。


護衛クエストのはずだったのに、いつの間にか推し活が始まってた。


3票のアイドルを応援する。N装備の勇者とR女神で。


どうなるかはわからない。でも——放っておけなかった。


それだけだ。


『アイドル総選挙1日目、終了。勇者の推し活、2日目に続く——』


『メロちゃんの3票、明日はどうなる?(フリ)』


『リルアの後光がステージライトになる日は近い(予言)』

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