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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第8話 異世界アイドル総選挙、開幕します(後編)

会場の熱気は午後に向かって高まっていく。推しへの想いと投票券が交わる、本当の祭りが始まろうとしていた。


◇


午後。


護衛任務で会場を巡回してた。


レクトとセラフィーナはステージ正面の警備。エルナさんはデータ収集と称して投票所付近をうろうろしてる。


私とリルアは、会場の外周を歩いて回ってた。


人がどんどん増えてる。熱気がすごい。推しの名前を叫ぶ声、投票券を買い求める行列、ファン同士の議論。


「にぎやかだね、ひなたちゃん」


「うん。すごいね」


リルアがにこにこしながら、私の隣を歩いてる。銀色の髪が午後の日差しに光ってて、後光がぽわぽわ。


会場の端っこに来た時——


人通りが途切れた場所に、一人の女の子がいた。


ピンクの髪。2D。


さっきステージで「がんばります」と言ってた子——メロだ。


メロは、チラシを持ってた。「メロに清き一票を!」と書かれた、手書きのチラシ。


通行人に向かってチラシを差し出してる。


でも——


「あの……チラシ、受け取って、もらえますか……」


声は出てる。甘くて、かわいい声。ちゃんと聞こえてる。


でも2Dだから——チラシを渡そうとしても、手が届かない。平面だから奥行きがない。相手の手元に紙を届けられない。差し出してるのに、紙が宙ぶらりんになる。


通行人が素通りしていく。メロに気づいてない人もいる。気づいてても、2Dの薄い姿を見て、興味を持たない。


メロが、もう一度チラシを差し出した。


「あの……」


通行人が通り過ぎる。


「……」


チラシを持った手が、ゆっくり下がった。


(……見てられない)


私は歩き出してた。


メロの前に立って、チラシを受け取った。


2Dの手から紙を受け取るのにはちょっとコツがいった。メロの手は薄くて、つかめない。でもチラシは3Dの物体だから、チラシの端をつまむことはできた。


メロが目を丸くした。


2Dの顔の上で、目がまんまるに見開かれてる。平面なのに、表情はちゃんと動く。


「受け取って……くれた……?」


「あなたがメロちゃん?」


「は、はい! メロです!」


「さっきの自己紹介、聞こえてたよ」


「え……聞こえて?」


「いい声だね」


メロの2Dの体が、ぴくっと震えた。


「聞こえて……? 私、いつも誰にも気づいてもらえなくて……声だけはあるのに、見てもらえなくて……」


声が震えてる。泣きそうな声。甘くてかわいいのに、悲しい声。


「メロちゃん、投票……何票くらい入ってるの?」


「……3票です」


「3票」


「自分と、お母さんと、お母さんの友達です」


沈黙。


3票。そのうち1票は自分。


ソシャゲで例えるなら——総ダウンロード数3。うち1つは自分のスマホ。


「…………」


何も言えなかった。3票という数字の重さと軽さが同時に胸を突いた。


リルアが、私の隣で立ち止まってた。


メロをじっと見てる。後光がぽわぽわしてて——


「メロちゃん、がんばって!」


リルアが言った。笑顔で。何の計算もなく。ただ、がんばってる子を見て、がんばってと言っただけ。


その瞬間——


リルアの後光がぽわっと光った。


光がメロに当たった。


ロウソク程度の微弱な光。でもそれがメロの体を照らした時——


メロの2Dの輪郭が、ほんの少しだけ、立体的に見えた。


影ができた。ほんの薄い影。さっきまで影すらなかった2Dの体に、一瞬だけ奥行きの気配が生まれた。


メロが自分の手を見た。


「……! 今、私……ちょっとだけ立体に……?」


リルアが首を傾げた。


「え? 何かした?」


何もしてない。何もしてないのに、リルアの後光がメロに影響した。


応援が——直接アイドルに影響した。


(これ……ソシャゲの「好感度で進化」と同じシステムだ。投票だけじゃなくて、直接の応援が——)


考えがまとまる前に、メロの輪郭は元に戻った。ほんの一瞬。でも確かに見えた。


メロがリルアを見て、ぽかんとしてる。


「今の光……あったかかった」


リルアの後光がぽわぽわしてる。本人は何が起きたかわかってない。


「ひなたちゃん、私なにかした?」


「……わからない。でも、いいことが起きた気がする」


メロが、また泣きそうな顔をした。でもさっきとは違う。さっきは悲しくて泣きそうだったけど、今は——


「応援……されたの、久しぶりです」


声が震えてる。甘い声が、もっと甘くなってる。


私はメロに向き直った。


「メロちゃん」


「は、はい」


「明日もゲリラライブ、やりなよ」


「えっ?」


「会場の端でいい。メインステージの合間に。待ち時間の人が暇してるから、歌を聴いてくれるかもしれない」


メロが目をぱちくりさせた。2Dの顔がまたまんまるになってる。


「でも……私、2Dだし、誰も見に来てくれないかも——」


「私たち、見に行くから」


メロの口が、半開きになった。


「……え」


「護衛任務だから会場にいるし。リルアも一緒に見るよね?」


「うん! 見る! メロちゃんの歌、聴きたい!」


リルアの後光がぽわっ。


メロの目に、じわっと涙が浮かんだ。


泣きそうで、でも——笑ってる。


2Dの顔が、立体じゃないのに、ちゃんと笑えてる。


「ありがとう、ございます……!」


小さいけど、震えてるけど、ちゃんと声が出てる。


メロが両手でチラシを握りしめて、ぺこぺこ頭を下げた。2Dだから頭を下げると上半身が画面ごと傾く感じで、ちょっと変だったけど——気持ちは、ちゃんと伝わった。


『勇者、推し活を始める(速報)』


『N装備で選挙を応援するの??? ジャンルが違うんだが???』


『ぶっちゃけ気になるこの子。声はSSR級では???(審美眼)』


『3票アイドルを応援するスキル2個の勇者。似た者同士じゃん(泣)』


『正論ニキ『投票券がN装備より効率いいのでは』』


『R女神の後光がペンライトとして有能すぎる件(再掲・確定事項)』


コメント欄がざわざわしてる。


◇


夕方。


会場の端にあるベンチで、全員集合して休憩してた。


護衛任務の1日目が終わりかけてる。大きなトラブルはなかった。ファン同士の小競り合いが何度かあったけど、レクトがにらみをきかせたら一瞬で収まった。SSR勇者の威圧感は、治安維持に最適だ。


「アイドル総選挙、なかなか面白いですね」


エルナさんがノートを閉じながら言った。ページがびっしり埋まってる。


「データは取れましたか?」


「はい。投票システム、ファン構成、アイドルのランク分布……まとめると面白い論文が書けそうです」


「論文……」


「あ、冗談です。半分くらいは」


半分は本気なのか。


レクトがベンチの端で、腕を組んだまま黙ってる。


「レクトちゃん、楽しかった?」


「楽しいわけがないだろう。護衛任務だ」


「でも、ルミナっていうアイドルの歌、聴いてたよね」


レクトの耳がちょっとだけ赤くなった。


「……声が響いてきただけだ。聴こうとしたわけじゃない」


「レクトさまは、ルミナさんの2曲目で拍手してました」


「セラフィーナ!!!」


セラフィーナが方向音痴並みに空気の読めないタイミングで暴露した。レクトが耳を真っ赤にして、マントの襟を引き上げて顔を隠してる。


リルアが私の腕をつかんだ。


「ひなたちゃん、明日も来るんだよね?」


「もちろん。護衛任務、まだ2日ある」


「メロちゃんのゲリラライブ、楽しみ!」


後光がぽわぽわしてる。今日一日中、リルアはずっとぽわぽわだった。お祭りの空気が合ってるのかもしれない。


ふと——空を見上げた。


ランキングボードが、夕焼けの空に半透明に浮かんでる。


1位:ルミナ——38,927票


最下位のあたりに、名前がかろうじて読める。


メロ——3票


「……明日」


私は立ち上がった。


「明日から、本気出す」


「本気って何するの?」


リルアが首を傾げた。


「メロちゃんの応援」


護衛任務と並行で。N装備の勇者に、選挙を動かす力はないかもしれない。でも。


リルアの後光がメロに当たった時、あの子の輪郭が一瞬だけ変わった。あれは見間違いじゃない。


3票でも、声は出てた。


3票でも、歌は歌えてた。


3票でも——笑えてた。


「行こう。明日が本番だ」


『護衛クエスト初日終了。勇者、推し活を開始する(1日目・完)』


『明日のゲリラライブ、ちょっと楽しみなんだけど(素直)』


『N勇者がアイドル総選挙に参戦。何が起きるか全くわからない(期待)』


◇


夜。宿の部屋で。


リルアがベッドの上で足をぱたぱたさせながら、今日の感想を語ってる。


「2Dの子って横から見ると消えちゃうの面白いね! あと、投票券を買ってた大きいおじさん、すごい枚数だったね! あと、メロちゃんの声、すごくきれいだったね!」


「うん。全部その通り」


「ひなたちゃんは何が一番楽しかった?」


「……メロちゃんが笑ったとこ」


「あ、わかる! あれよかったよね!」


リルアの後光がぽわっと灯った。寝る前の穏やかな光。


「ねえ、ひなたちゃん」


「ん?」


「明日、メロちゃんの歌が聞けるの、楽しみだね」


「うん」


「私、また光っていい? さっきみたいに」


「もちろん。リルアの応援が、メロちゃんに届いてたんだよ」


「届いてた?」


「うん。リルアの後光が当たった時、メロちゃんの体がちょっとだけ立体に見えたの」


リルアが目をぱちくりさせた。


「私の後光で……?」


「たぶん。応援の気持ちが、直接アイドルに影響するんだと思う」


「じゃあ、明日もっといっぱい応援したら、メロちゃんもっと立体になる?」


「かもしれない」


リルアの後光が、ぽわぽわぽわぽわ光った。嬉しくて抑えられないやつだ。


「明日がんばる! いっぱい光る!」


「うん。一緒にがんばろう」


リルアがにこっと笑って、私の腕にぎゅっとしがみついた。


「おやすみ、ひなたちゃん」


「おやすみ、リルア」


後光がゆっくり暗くなる。消えたんじゃない。安心して眠りについた、穏やかな光。


——アイドル総選挙、1日目。


護衛クエストのはずだったのに、いつの間にか推し活が始まってた。


3票のアイドルを応援する。N装備の勇者とR女神で。


どうなるかはわからない。でも——放っておけなかった。


それだけだ。


『アイドル総選挙1日目、終了。勇者の推し活、2日目に続く——』


『メロちゃんの3票、明日はどうなる?(フリ)』


『リルアの後光がステージライトになる日は近い(予言)』

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