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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第8話 異世界アイドル総選挙、開幕します(前編)

推しに投票するために全財産を賭ける人間を——前世の私は笑えない。


異世界11日目。


朝ごはんのパンをかじりながら、ギルドに顔を出した。今朝のデイリーガチャ、10連でRが2個出た。青い光が2回。これは運がいい。化粧水と、鉛筆。戦闘には使えないけど、化粧水は地味にありがたい。異世界の乾燥、舐めてた。鉛筆はエルナさんが喜びそうだ。日常使いできるRは当たりの部類。


「おはようございます、桜庭さん」


エルナさんが受付カウンターの向こうから声をかけてくれた。昨日よりちょっとだけ笑顔が柔らかい。フレンドポイントのATK+1が効いてるのか、それとも別の理由か。


ノートを広げながら、エルナさんが続ける。


「今日は、ちょっと変わったクエストがあるんですが」


「変わった?」


「護衛クエストです。王都の広場で開催される——」


エルナさんがクエスト用紙を差し出した。


私はそれを受け取って、読んだ。


『第47回 アイドルグランプリ総選挙——会場警備。期間3日間。報酬:日額500ゴールド+歩合制ボーナス』


「……アイドル」


「はい」


「……総選挙」


「はい」


「……異世界で?」


「はい。この世界のアイドルは、投票が集まると2Dから3Dになれるそうです。あと、声のでないアイドルが声を手に入れたりするそうです。ソシャゲのイベントみたいなシステムですね」


エルナさんが事務的に説明してる。でも、目がちょっとキラキラしてる。彼女もこの手の話題には弱いのだ。


私の脳が停止した。


0.5秒。


そして——再起動した。


アイドル。総選挙。ソシャゲ。イベント。


前世の記憶がフラッシュバックする。推しに投票するために寝る間も惜しんでポイントを貯めた日々。イベント報酬のSSRを手に入れるために周回した地獄。担当のカードが圏外に沈んだ時の虚無。


全部、脳の奥から一気に蘇ってきた。


「やります」


「え、まだ詳細を——」


「やります。護衛でも警備でも何でもやります」


目が輝いてる自覚がある。レベリングの時とも、ガチャの時とも違うキラキラ。これはオタクが聖地に立った時に出る光だ。


リルアが隣で首を傾げた。銀色の髪が揺れて、後光がぽわぽわしてる。


「あいどる?」


「リルア、すっごく楽しいところに行くよ」


「すっごくたのしい!? 行きたい!」


後光がぽわっと明るくなった。理由もわからず楽しくなるこの子の天然っぷりは相変わらずだ。


「護衛クエストなら、私たちも同行しましょう」


レクトの声がした。振り向くと、ギルドの入口にレクトとセラフィーナが立ってた。


レクトが金髪をかきあげて、「護衛任務は戦力が多い方がいい」と素っ気なく言った。


セラフィーナがぺこりと頭を下げる。水色の髪がふわっと揺れて、後光がシャンデリア級に光ってる。


「レクトさまがそうおっしゃるなら、私も参ります! 先輩もご一緒ですよね!」


「うん! 行く!」


リルアの後光がぽわぽわ。セラフィーナの後光がキラキラ。並ぶとロウソクとシャンデリアの格差がすごいけど、二人とも楽しそうだからいいか。


エルナさんが受付カウンターの向こうで、もじもじしてる。


「あの……私も」


「エルナさん?」


「私も……見てみたいです。アイドル総選挙。データ収集の一環として——いえ、その、個人的にも興味が」


「行きましょう。みんなで」


エルナさんの切れ長の目がぱっと明るくなった。年相応の女の子の顔。昨日の川遊びから、この表情が増えた気がする。


『護衛クエスト(アイドル総選挙)。期間限定イベント開始では???』


『ソシャゲーマーがアイドルイベントに参戦。ガチャ欲×推し欲の化学反応が始まる(予告)』


『R女神の後光がペンライトに見えてきた件(先走り)』


『3日間で推しに全財産突っ込む祭典。正気か?(正気じゃない)』


『いや、イベント警備するだけで執筆は本業でいいだろ(冷静)』


コメント欄が朝から騒がしい。



王都の広場。


「…………」


絶句した。


目の前に広がってるのは——巨大な野外ステージだった。


石造りの広場が完全にイベント会場に変わってる。ステージの後ろには何十メートルもある石の壁があって、そこに半透明のランキングボードが魔法で投影されてる。名前と票数がリアルタイムで更新されていて、上位のアイドルの名前が金色に光ってる。


観客席には何千人もの人。老若男女、冒険者も商人も、子どもも——おじさんも。


「フェスだ」


声が漏れた。


「ソシャゲのリアルイベントが——異世界で開催されてる」


「ひなたちゃん、すごい人だね!」


リルアが目を丸くしてる。後光が人混みの中でぽわぽわ光ってて、周囲の人が「なんか光ってる」とちらちら見てくる。


ステージの上に、アイドルたちが並んでた。


きらびやかな衣装。宝石みたいな飾り。ライトに照らされて、キラキラ輝いてる。


でも——


「……ん?」


何かがおかしい。


アイドルたちの中に、明らかに見え方が違う子たちがいる。


一部のアイドルは——平面だった。


文字通り、2D。正面から見ると普通の女の子に見えるけど、ちょっと角度をずらすと——薄い。横から見ると、紙みたいにペラペラだ。奥行きがない。影が落ちない。正面からしか認識できない。


一方、人気のアイドルは完全に3D。立体感があって、エフェクトがついてて、存在感が桁違い。光の粒子が周囲に舞ってて、髪が風になびいてて、一歩一歩に重みがある。


「これ完全にソシャゲのアイドルゲームのシステムだ」


声が出た。


「2D/3Dとだこれ。投票で人気が上がると3Dモデルがもらえるやつ」


「ひなたちゃん、早口になってる」


「ごめん。でもこれ、すごい。2Dの子と3Dの子が同じステージに立ってるの。3Dになるには投票が必要なの。信じられる?」


「信じられないけど、ひなたちゃんが興奮してるのはわかる」


リルアが首を傾げたまま、にこにこしてる。理解してないけど楽しんでる。この子のスキル「共感ブースト」は公式にはないけど、たぶん隠しスキルだ。


リルアが、ステージ上の2Dアイドルをじーっと見てる。


「あの子たち……平面?」


「そう。人気がないと2Dのままなんだって」


「横から見ると消えちゃうの? 不思議……」


「不思議だよね。でもこの世界だと物理法則なんだ」


2Dの子たちが横を向くと、本当に線みたいに薄くなる。正面に戻ると元に戻る。見てて不安になる。


「ソシャゲだとキャラが3Dになるのは人気投票の上位だけなんだよ。まさか異世界でも同じシステムとは」


レクトが腕を組んで、つまらなそうに「ふんっ」と鼻を鳴らした。


「くだらん」


「そう言いながら見てるでしょ」


「……護衛任務だ。見てるのは当然だろう」


「レクトさまは、ああ見えて気になってるんです」


セラフィーナがぼそっと言った。


「セラフィーナ! 余計なことを言うな!」


『え、何このイベント』


『アイドルゲームだこれ。3Dお披露目配信(異世界版)』


『2Dのまま活動してるアイドル、ソシャゲの初期実装キャラみたいで泣ける』


『VTuberの2D→3D化と同じシステムが異世界に実装されてた(速報)』


コメント欄が大盛り上がりだ。



ステージの上で、アイドルたちの自己紹介が始まった。


司会者が声を張り上げる。「それでは、今回のエントリーアイドルをご紹介しましょう!」


歓声。ファンの叫び。プラカードが揺れる。


「まずは——第47回アイドルグランプリ、優勝候補筆頭! ルミナさん!」


会場がわっと沸いた。


ステージの中央に進み出たのは——3Dの、完璧なアイドルだった。


金色の髪が風に揺れてる。衣装は純白で、光の粒子がまとわりついてて、一歩踏み出すたびにきらきら光る。透き通るような歌声で、たった一言のあいさつだけで会場が静まった。


「皆さん。応援、ありがとうございます」


マイクなしで、声が会場の隅まで届いてる。


「皆さんの応援があったから、今の私がいます。今回の総選挙も、全力で頑張ります」


完璧なアイドルスマイル。完璧な佇まい。3Dの存在感が桁違いで、ステージに立ってるだけで空気が変わる。


でも——


私は気づいた。


ルミナの目が、どこか遠くを見ている。


笑ってる。完璧に笑ってる。でも、目だけが——ステージの向こう、空の彼方を見てるような。


(……気のせい、かな)


考える間もなく、次のアイドルの紹介が続く。


何人もの自己紹介が終わって——最後の方に、一人。


「続きまして——メロさん!」


歓声は……ない。


ステージの端に、小さな2Dの女の子が立ってた。


ピンクの髪。かわいい顔立ち。でも——2D。横から見ると薄い。存在感が薄い。文字通り。


口が動いた。


「が、がんばります……!」


——声は出てる。甘くて、かわいい声。ちゃんと聞こえる。


でも、会場の歓声にかき消されて、誰にも届いてない。


観客は次のアイドルの登場に沸いてて、メロという名前を覚えた人は——たぶん、ほとんどいない。


リルアが小声で「あの子、声はきれいだね」と言った。


「……うん」


きれいだった。声だけなら、ステージのどのアイドルにも負けてない。


でも、2Dだから。存在感が薄いから。誰にも気づいてもらえない。



投票システムの説明が始まった。


会場の巨大なボードに、文字が浮かび上がる。


『投票券:1枚10ゴールド。購入制限なし』


『ログインボーナス:会場に毎日来場すると投票券、1枚配布』


『投票期間:3日間。最終日に結果発表』


……購入制限なし。


金で殴れるシステム。これ、完全にソシャゲの課金構造だ。


無課金勢は1日1票のログインボーナスだけ。3日間で最大3票。……3票。メロちゃんの票数と同じだ。つまりメロちゃんに投票したのは、3日間毎日来場した人が3人——あるいは、初日に3人が1票ずつ入れた。それだけ。


ちなみに、私たちは護衛任務で来てるので、ログインボーナスの投票券はもらえない。運営から「警備スタッフは投票の中立性を保つため、投票券の配布対象外です」と言われた。まあ、そりゃそうか。護衛が特定のアイドルに投票したら公平じゃない。


(……でも、投票できないのはちょっと悔しい)


会場を見回すと——


おじさんが、ずた袋いっぱいの投票券を抱えてた。まだ投票が始まって数時間なのに、もう何百枚も買い込んでる。そのおじさんが推しの投票箱に向かって、どさどさと投票券をぶち込んでる。


「いけぇぇぇ! ルミナちゃぁぁぁん!」


おじさんの目が輝いてる。課金の喜びに満ちた顔だ。前世で見覚えがある。ガチャの「もう1回だけ」を100回繰り返す人の顔。


他にも、各アイドルのファンが「選挙事務所」というブースを出してる。のぼりが立ってて、チラシが配られてて、組織票の受付までやってる。


「ルミナ派連合」と書かれた横断幕を掲げた集団が、通りがかりの人を片っ端から勧誘してる。


「あなた、まだどのアイドルに投票するか決めてない? ルミナちゃんはね、今期最強の——」


営業トークがすごい。政党の街頭演説みたいだ。


その隣では、別のファングループが「うちの推しの方が歌がうまい!」と対抗チラシを配ってて、ほぼ選挙戦。


不正投票を監視するゴーレムが、のっそのっそと会場を巡回してる。たまに不審な動きをした人を捕まえて、「規約違反です」と無感情に告げてる。


そして——


一番すごかったのは、無課金の若者に声をかけてるおじさん。


「なぁ、1票投票してくれない? これあげるから」


ポーションを差し出してる。


若者が「え、タダでくれるんすか?」と受け取って、おじさんに指定された投票箱に1票入れる。


おじさんがうんうんと頷いてる。10ゴールドの投票券を買うより、3ゴールドのポーションで無課金勢を買収した方が安いことに気づいたのだ。


「……日本の選挙って結構まともだったんだな」


思わず呟いた。


「にほんのせんきょ?」


リルアが首を傾げた。


「いや、何でもない」


ステージでは、アイドルたちが選挙演説をしてた。


「今だけです! あなたの1票で私は3Dになれます! 限定3Dイベントは今回だけ!」


煽り構文。ガチャの煽りと同じだ。「期間限定」「今だけ」「あなたの1票で」。


別のアイドルが「私に声をください!」と書かれたプラカードを掲げてる。文字通り、投票を集めないと声が出ないままらしい。アイドルは2Dで声のないところから初めて、投票が集まってやっと声をもらえるとか。


ぞっとした。


ソシャゲで不人気キャラが、いつまでたっても声もなくイベントも発生しないのと同じだ。


エルナさんがノートに猛スピードでメモを取ってる。「投票システム:課金型、歩合制、購入制限なし……」


レクトが「くだらん」をもう3回言った。でも腕を組んだまま、ステージから目を離してない。


セラフィーナが「すごいですね先輩! こんなにたくさんの人が!」とリルアに話しかけてる。後光がキラキラしてて、周囲のファンが「あの光すげえ」「あれもアイドル?」とざわざわしてる。


『投票券ガチャとかいう闇システム』


『課金は信仰(哲学)』


『偶像崇拝選挙、清き一票(10ゴールド)』


『この世界の選挙法、ザル以前の問題では???(指摘)』→『正論ニキだ。だが投票制限なしという運営判断が全て』


『買収おじさんの合理性に感服した(不正ではある)』


『買収おじさんのコスパ意識、ソシャゲの石配布計算してる勢と同じ目してる(褒めてない)』


コメント欄が的確にツッコんでくれてる。助かる。私一人じゃツッコミが追いつかない。


選挙の午後。本当の祭りは、ここからだった。


でも気になるのは、ステージの一角にいる女性だった。後光が眩しすぎて、周囲がちらちらと白く見えてる。1位の人気アイドルだって聞いたけど——

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