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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第5話 R女神の入浴事情(前編)

異世界5日目の夕方。

私は宿の部屋で、人生最大の危機に直面していた。


魔王でもスライムでもない。お風呂だ。


昨日、帰り道でリルアに「一緒にお風呂入ろうね」と言われて、なぜか「うん」と返事をしてしまった。なぜかじゃない。リルアの笑顔に負けたからだ。


冷静に考えてほしい。


R女神のリルアと一緒にお風呂に入る。つまり、銀色の長い髪と青い瞳と整った顔立ちと透き通る肌の美少女と、裸で、同じ湯船に、浸かる。


無理じゃない?


「ひなたちゃん! お風呂沸いたって!」


リルアが廊下から駆け込んできた。後光がぽわぽわ弾んでる。楽しみなんだ。すごく楽しみな顔してる。


宿のおかみさんが気を利かせて、貸し切りのお風呂を用意してくれた。冒険者向けの広いやつ。「女神さまと一緒なんて素敵ねぇ」って言ってた。素敵の方向性が違う気がする。


「ひなたちゃん、早く早く!」


「う、うん……」


逃げ道がない。


『これは風呂回(確定演出)』


『テンプレの入浴イベントだ(期待)』


『R女神の入浴、排出率何%?』


コメント欄がざわついてる。うるさい。



脱衣所に入った。


木製のロッカーが並んでて、竹で編んだカゴに荷物を入れる仕組み。見た目は和風旅館っぽい。異世界にも入浴文化があるんだなぁ。


さて。着替えだ。


「……ねえ、リルア」


「ん?」


「あっち向いてて」


「え、なんで?」


「なんでって……脱ぐから」


「私も脱ぐよ?」


「だからさ……」


リルアがきょとんとしてる。後光がぽやぽやしてて、なんの疑問もない顔。


女同士なんだから気にしなくていいでしょ、って理屈はわかる。わかるけど。


私は普段、人前で着替えたことがほぼない。体育の着替えも、人より早く更衣室に行って、人より早く終わらせてた。別に体にコンプレックスがあるわけじゃなくて——いや、あるかもしれないけど——とにかく人に体を見られるのが苦手なのだ。


……あと、コメント欄がある。


『待ってました(正座)』


『プライバシーフィルター仕事しろ。いや仕事するな。どっちだ』


こいつらの視線も問題だ。


「見るな」と全力で念じた。


コメント欄の映像が遮断される。


『真っ白に——』


『またかよ!』


『毎回このタイミングで仕事するプライバシーフィルター、有能すぎて腹立つ』


よし。


リルアに背を向けて服を脱いだ。素早く。異世界仕様の簡素な服は脱ぎやすくて助かる。タオルを巻いて振り返ると——


リルアがもう全裸だった。タオルすら巻いてない。


「リルア!? タオル! タオル巻いて!?」


「え? お風呂で巻くの?」


「巻くの! 入る前は巻くの!」


「そうなんだ。ひなたちゃんの世界のルールは難しいね」


私の世界のルールっていうか……いや異世界にもマナーはあると思うけど。


リルアの体が、目に入ってしまった。


白い。びっくりするくらい白い。銀色の髪が背中を流れてて、後光がぼんやりと裸体を照らしてて、ちょっと神話の絵画みたいだった。


腰が細い。鎖骨がきれい。お腹が平らで——


「ひなたちゃん、見てる?」


「見てない!」


見てた。


タオルをリルアに渡して、ぐるぐる巻きにしてあげた。リルアが「きつい~」と文句を言ってる。きつくしないと意味ないの。



浴室に入った。


石造りの広い空間に、湯気がもうもうと立ち込めてる。奥に大きな浴槽。手前に洗い場。照明は壁に埋め込まれた魔法の明かりで、やわらかいオレンジ色。


夜遅い時間帯なので、他のお客さんはいない。貸切状態。


ここでもう一つの問題が発生した。


プライバシーフィルター。


着替えの時に全力で「見るな」と念じたやつ。あれの効果時間が——


『映像復旧!!!!!!!!!!!!!!!』


『はい優勝』


——10分だった。


「えっ!? ちょっ——!」


慌てて念じ直す。「見るな見るな見るな——」


が。


10分前に発動した時ほど集中できない。湯気と湿気で頭がぼんやりしてるし、リルアが隣にいるし、裸にタオル一枚だし。


念じる。念じる。念じる——


ぶつっ、と。


映像が遮断された。でもさっきと感覚が違う。


『あれ? 見えないけど……なんか違う』


『フィルターの種類が変わってない?』


『さっきは完全真っ白だったのに、今回は音声が聞こえる』


音声は聞こえるらしい。しかも——


『ん? 輪郭だけぼんやり見えるぞ?』


『湯気フィルターだ。大事なところは見えないけど、シルエットは見える』


どうやらプライバシーフィルターには2段階あるらしい。1段階目は手動で「見るな」と念じて発動する完全遮断。効果時間10分。


2段階目は自動発動のオートフィルター。こっちは完全遮断じゃなくて、「大事なところだけ隠す」仕様。顔や手足は見えるけど、胸やお腹や太ももは白い光や湯気で覆われて見えない。


アニメで言うところの「謎の光」的な規制。


『顔は見える! 鎖骨も見える! 足の先も見える!』


『でも肝心なところは湯気が厚い。自然の規制』


『このフィルター設計した神、わかってる。わかってるけど悔しい』


手動フィルターは10分間しか使えない。つまり、10分後はこのオートフィルター状態。


……つまり、リルアの顔とか、肩とか、足の先とか——


「ひなたちゃん、お湯あったかいね~!」


リルアが浴槽の縁に腰掛けて、足をぱしゃぱしゃさせてる。湯気越しに見える笑顔がやわらかい。濡れた銀色の髪が肩に張り付いてて——


きれい、だな。


「ひなたちゃん? 顔赤いよ?」


「お湯が熱いからだよ! まだ入ってないけど!」


「入ってないのに赤いの?」


「いいから! 先に体洗うよ!」



洗い場に並んで座った。


石の椅子が冷たい。魔法の蛇口からお湯が出る。シャンプーに相当する薬草の液体と、石鹸に相当する白い塊がある。


「ひなたちゃん」


「ん?」


「髪、洗ってあげる」


「え?」


リルアがにこにこしながら私の後ろに回った。


「リルア、別に自分で——」


「いいの。やりたいの」


断る間もなく、リルアの指が私の髪に触れた。


「……っ」


びくっとした。


薬草の液体を泡立てながら、リルアの細い指が頭皮をゆっくりなぞる。


くしゅ、くしゅ、と。丁寧に。


「ひなたちゃんの髪、さらさらだね」


「そ、そう?」


「うん。きれい。触ってると気持ちいい」


それはこっちの台詞。


頭に触れるリルアの指が、やさしい。力加減が絶妙で、気持ちよくて——ちょっと、眠くなる。


「……リルア、上手だね」


「えへへ。女神の研修でね、先輩が後輩の髪を洗う係があったの」


「なにそれ。女神の研修って独特だね」


「セラフィーナちゃんの髪も洗ったことあるよ。すっごくサラサラで、水色がきらきらしてて——」


「……そう」


なんだろう。セラフィーナちゃんの髪を洗った話を聞いて、ちょっとだけ胸がちくっとした。


嫉妬じゃない。嫉妬じゃないよ。


「——でもね」


リルアが言った。


「ひなたちゃんの髪を洗うほうが、ずっと楽しい」


「……なんで」


「わかんない。でも、心臓がぽかぽかするの」


リルアの指が、こめかみのあたりをくるくるする。


「……」


気持ちいい。


返事をする代わりに、目を閉じた。湯気の匂い。薬草の香り。リルアの手のひらの体温。


しばらくそうしていたら、リルアが言った。


「はい、おしまい。流すよー」


ざばっ、とお湯をかけられた。


「わぷっ」


「えへへ。きれいになった」


目を開けると、リルアが満足そうに笑ってた。濡れた銀色の前髪から雫が垂れてて、後光がぽわぽわ明滅してる。


……かわいい。


「じゃあ次、私がリルアの髪洗うね」


「え!? いいの!?」


「いいよ。座って」


リルアがそそくさと前に向き直った。後光が全力でぽわぽわしてる。嬉しい時の明滅。


銀色の髪に手を入れた。


さらさら。指が吸い込まれるみたいに通る。しかも長い。腰くらいまであって、量もたっぷりで、泡立てるのに両手を目いっぱい使わないと追いつかない。


「ひなたちゃんの手、あったかい……」


リルアが小さく呟いた。


「力加減、大丈夫?」


「うん……気持ちいい……」


とろけた声。


湯気の中で銀色の髪がふわふわ泡に包まれて、リルアの白い肩が見えて——


『肩!!!』


『フィルター開発者、ここの判定甘いぞ(感謝)』


オートフィルター、肩は隠さないんだ。


『鎖骨から肩のラインが芸術的(語彙力消滅)』


うるさい。でも私もちょっと同意する。芸術的。


「ひなたちゃぁん……もうちょっと、ここ……」


「ここ? 耳の後ろ?」


「んん……そこ、気持ちいい……」


声が甘い。甘すぎる。


顔が熱い。お湯のせい。お湯のせいだから。


このままお風呂に浸かったら、もう絶対に頭がおかしくなる。そんな予感がしてる。何かの感情を超えて、その先に行ってしまう予感がして——でも、もう止められない気がする。

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