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みんなそれぞれ理由あり

 すっかり馴染みとなった冒険者ギルド、アンマル支部に置かれたテーブルの一つにて。


「最近妹が怖くて辛い。お兄ちゃんあんな風に育てた覚えないんですよね。超怖い……」


 今年冒険者四年目を迎えたクー・ズーハルトは、まるで酒に溺れるようにミルク片手に項垂れる姿が、仮にもまだズーハルトに連なる貴き身分であると思えないくらい様になっていた。


「へークー、あんた妹いたのかい。きっとあんたに似て可愛くないガキなんだろうね」

「あんた絶対末っ子だと思ってたわ」


 クーに相席していた大柄の女性冒険者の二人組、かつて絡んできたゴリラことラリラとその相棒たるリラリが何とも言えない顔を浮かべていた。


「ううっ、今日もお局ゴリラ共が手厳しい……俺は泣きそうだぞ、ララ……」

「だぁれがゴリラだってぇ!? 妹とやらより先にいてこましたろうかー!? ああん!?」

「どうどう。どうどうですよラリラ様。子供の戯れです」


 項垂れるクーへ掴みかかろうと立ち上がるラリラを、ララが澄ました顔で前から宥める。ちなみにゴリラは普通にゴリラという生物がいるから伝わってるよ。すごいね。


『まーたあいつらか。相変わらず仲良いねえ』

『知ってる新人(ルーキー)? あいつらって昔バチバチにいがみ合ってたし、ラリラとリラリのコンビって新人いびってたクソお局だったんだぜ?』

『え、そうなんですか!? あの新(・)人(・)に(・)優(・)し(・)い(・)ラリラさんがいびりなんて……ちょっと想像出来ないです』


 そんなクー達にギルド内は特に気にせず。最早いつも通りの日常の光景として扱われている。ちなみにクー達とラリラコンビの和解までそこそこ色々あったが、尺の都合で全部カットである。一言で言えば、決闘したり共通の敵を前に肩を並べるテンプレ的なあれである。


「おっつおつ、お待たせー! ちょっと道端で困ってたお婆ちゃんおんぶしてたら遅れちゃったー……って、なにこの状況?」

「何っていつものよ。そっちのクーが無自覚に煽って、うちのラリラが怒って、ララさんが止める。ほら、いつも通りでしょ?」

「だね! ほんと変わらないね三人とも! あっははー!」


 合流してきたルルラルルは、呆れるリラリの説明を聞き、にこりと笑みをみせながら同卓する。


「ったく、このガキは何年経っても可愛くなりやがらねえ。そのくせ顔はいいからむかつくな」

「それは随分な褒め言葉だな。ところでルルラ。どうだったんだ、昇級試験の方は?」

「ふっふっふー! 聞いちゃいましたねクー君、ふーっふっふっふー!」


 クーの問いにルルラルルは、成長し大人びた容姿ながら、四年前とほとんど変わらぬ笑顔で勿体ぶる。


「何と何とー……ダダダダーン! 無事合格しちゃいました! 不肖このルルラルル、今日よりシルバーランクの冒険者として活動いたします。あっははー!」


 ルルラルルが自信満々に見せつけた冒険者証には、見事シルバーランクを示す印が刻まれていた。


「おお、やったじゃねえかルルラルル! ついに筆記通ったのか、凄えじゃねぇか!」

「遅いといっても三度目だし早い方でしょ。でもおめでとう、ルルラルル」


 合格を聞いたラリラが喜びながらルルラルルの肩を抱き、リラリはそのままルルラルルに称賛の言葉をかける。


「おめでとうございます、ルルラルル様。……これでまた一つ、先へ行かれましたね。この場で唯一ブロンズランクなクー様?」

「ククッ、生憎嫌味にはならないぞ? 何故なら今の俺にはルルラへの称賛しかないからな。そもルルラの方が先輩なのだから、先にいくのは当然であろう?」


 小声で若干のからかいと口にしたララへ、ルルラルルへ手を叩くクーは軽やかに流してしまう。


「しかし……残念だ。シルバーになったということは、いよいよアンマルからは離れるのだろう?」

「あーうん、そうだね。クー君達と依頼するのは楽しかったから長居し過ぎちゃったけど……あたしの目標はやっぱり天下無双と名を轟かせることだからさ。いつまでも遊んでるわけにはいかないんだよね。あっはは!」


 ルルラルルはちょっぴり寂しそうに、けれど確かに胸を張り、高らかに自身の野望を語ってみせる。


「あ、でもクー君が付いてきてくれてもいいんだよ!? クー君の魔法とっても頼りになるし、クー君となら楽しくなるの確定だと思うんだよね! どうかな?」

「そうだな、ルルラとの旅は確かに楽しそうだ。……だが残念ながら、俺にも大志があるのでな。目的の最中で偶然重なっただけの点が、いつまでも離れないわけにはいかないだろう?」

「そっか、そっかー! ……うーん、すっごい残念! あっははー!」


 クーは笑顔ながら、はっきりと首を横へ振る。ルルラルルは少年の拒否を本当に残念そうに、けれど納得だと頷き笑ってみせた。


「つーかよクー。本当に学園通うつもりなのかよ? ここであたい達と冒険者続けようがよくね?」

「はっはっは。悪いが俺にはやりたいこと優先なのでな。というか、優先事項があるのはラリラ達も同じだろう? せっかくシルバーに上がったのだし、稼ぎを考えるのならお前達もアンマルから離れるべきじゃないのか?」

「あー、それ言われちゃうとな。正直、否定しきれねえから困る」


 ルルラルルから離れて席へと戻ったラリラは、クーに話を振られて少し困り顔で頭を掻いてしまう。


「女神の祝福(ユリブレース)。真に愛し合う者達が大女神像へ祈りと大金を捧げれば、女同士であっても子宝成就を授けてくれる女神様の奇跡。……分かってる、分かってるんだけどよ。一般市民じゃ無理しなきゃ手が届く奇跡じゃねえってことは。でもよ、それでもあたい達は、あたい達の子ってのを諦めきれねえんだ。冒険者なんて不確かな稼ぎに縋っても、その結果生活が苦しくなっちまっても」

 

 ラリラは拳を握り、少々顔を俯かせながら、それでもはっきりと言ってのけ、リラリは言葉なくも確かに首を縦に振って同意してみせた。


(【めがゆりTS】の原作では作者が重度の百合厨を公言していたせいか、捧げる額はそこまでで何なら金でなく物でもオッケーって感じあり、そういうライトな百合要素がアニメ化までこぎつけた理由の一端だったわけだが……どういうわけかこの世界だと金銭限定で、恐ろしいほどに高く設定されている。金貨一千枚……とはまではいかないが、それでも養育費も考慮すれば、普通に生きていれば子を持つべき若い内に手が届くことはない。……薄々思ってはいたが、この世界【めがゆりTS】と違う部分そこそこあるよな)


 クーはそんなラリラとリラリの二人を見つめながら、この数年で知った知識と原作の違いについて、何度目かもわからない思考に陥ってしまう。


(ライラ達が冒険者になったのも、無茶をしてでも子を得るという夢を叶えたかったからだとか。……ううっ、実に泣かせる話じゃないか。ハーレムにしろ一途にしろ、俺は純愛が一番好きだぞ。そしてNTRは嫌いだ)


 唐突な性癖暴露。クーの癖は多少ねじ曲がっていなくもないが、根底は純愛派なのだ。


(ちなみに女同士の子の宿し方は原作は疎かこの世界でも酷く曖昧であり、完全な真実を知るのは【めがゆりTS】の作者か授ける側な女神のみ。竿と玉が生えるのか。コウノトリか光が運んでくるのか。キャベツ畑や竹から採集するのか……ククッ、この世界でも体験者のみが知るとされているその真実を、おつか俺も知りたいな)


 そして【めがゆりTS】最大の謎とされる女神の祝福(ユリブレース)。その詳細を把握は、クーにとって将来における楽しみの一つだった。


「でもよ、同時にこの街のことも好きになっちまったんだ。ほら、アンマル支部最優のシレンナは確かに強いがちょっと抜けてるだろ? だからあたいらコンビがどっしり構えて守っていきてえんだよ」


 ラリラの言葉にリラリもまた相づちを打ち、同じ気持ちであると言葉なしでクー達へ告げた。

 

「……ククッ、ご立派なものだ。まあ好きと重いながらも余裕を持てず、半ば当たるように新人いびっていたら世話ないけどな」

「ぐっ、昔のことは本当に悪いとは思ってるっての。お前らと組むようになってからはやってねえし、むしろ新人の育成にも率先して協力して償ってるんだ。文句あるかよ?」

「ないぞ。荒い口調は変わらずとも、言葉どおりの積み重ねを俺達は確かに見ていた。なればこのクー、他の誰かが嗤おうものなら、敬意持つ友として直々に否定してやるとも」


 クーはニヤリと笑みを作る。断言に一切の嘘偽りなく、目の前の冒険者を友と思いながら。


「さて、それでは行こうかルルラ。新生シルバーランクの腕、しかと拝見させてもらおう」

「もち! まっかせておいてー! 今のあたしならブラッディボアが群れで襲ってきても楽勝だから! あっははー!」


 立ち上がり、クーとルルラルルとララの三人は、ゴリラコンビに別れを告げて席から離れる。


「……おいルルラルル! 出立の日はちゃんと教えろよ! その前にお別れ会するからな!」

「もちろんだよ! 楽しみにしておくね、あっははー!」


 去り際、ラリラの言葉にルルラルルは笑顔で頷き、手を振ってギルドを後にした。

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