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妖精に導かれ

 アンマルから出たクー達一向は、貴婦人から受けたシンカゲという美容に良い果実を採集依頼をこなすため、街から一日歩く程度の距離にあるエルキドの森まで訪れていた。


「天よ(デヴァ)、縫い止めろ(プラミカ)」

「せやぁ!」

 

 魔法の風にて押し止められたラージスパイダーは、ルルラルルの見事な一突きによって胴を穿たれ、絶叫と共に力尽きる。


「ふう。相変わらず見事な一閃だな。ラージスパイダー相手に一突きとは、シルバーに偽りなしだな」

「クー君の魔法が動きを止めてくれたからだよ! やっぱりあたし達、相性ばっちりだね! あっははー!」


 二人はつい先ほどの健闘を称賛し合いながら、ラージスパイダーの骸を淀みない手つきで解体していく。


(……四年前に比べれば、確かに俺もルルラも強くなった。特にルルラは成り立てではあるものの、戦闘力だけで言えば歴戦のシルバーランク……それこそアンマル最優たるシレンナとさえそう遜色ない。……四年で垢抜けたのか更に美しくなったし、本当に【めがゆりTS】にいなかったのかと自分の記憶を疑うくらいだよ)


 解体の最中、クーは目覚ましいほどの成長を遂げたルルラルルを、四年前と比較しながら称賛していく。


(だが一方で、俺はまだ足りていない。冒険者ランクは未だブロンズ、剣の才能は十の頃には頭打ち。そして主軸となる基礎魔法五属性のうちまだ一つ、光(アラテ)を習得出来ていない。何もかもが半端、大きな壁に突き当たってしまっているのが現状だ)

 

 その半面、自らの不甲斐なさを客観的に分析し、自身が如何に未熟かを改めて痛感する。


(せめて今使ってるこの杖を買い換えられれば……いや、泣き言はなしだ。魔法は己の産物、杖に頼るようでは二流というのがギンガロウの教え。何よりちゃんとした杖って高いし、学園のある公都でもないといいの売ってないからな。学費に四苦八苦している俺では、正直縁のない品だ)


 懐にしまってよほどのことがない限り抜くことのない、ないよりかはましな自作の杖に頼りなさを覚えてしまうクーだったが、そこはどうしようもなかった。


「……ククッ、学費といい装備といい、現実というやつは本当にままならないな。ククッ、はーっはっは!」

「?? どうしたのクー君?」

「なに、どうしたものかと思ってな。何か一攫千金のタネでも転がってないかと、頭を悩ませていたが、やはりそう上手くはいかないものよ。はっはっは」

 

 解体を終えた二人は、再び森の奥へと進んでいく。ちなみにララは一歩後ろから見守るだけだ。


「でも残念だなー。持って帰ろうにも食べようにもちょっと大きいし、かといって売れる部位だけ取って放置ってのも気が引けるなー。あははー」

「そう言われても、先に手を出してきたのはあっちだ。……それに俺は絶対に嫌だぞ、蜘蛛食べるの」

「えー? 毒ない蜘蛛は美味しいんだよー? 食わず嫌いは良くないんだぞー?」


 ルルラルルの勧めをクーは断固として拒否する。クーにとって、蜘蛛は食べ物ではないのだ。


「……先ほどのラージスパイダーの巣か。あの体躯に相応しく、実に見事な規模だな」


 そうしてしばらく進んだクー達の前に、幾多の木と木の間に架かる、大きな蜘蛛の巣が姿を見せる。


「ふわぁ、おっきい……」

「クー様。ラージスパイダーの糸は色々と需要がありますので、ギルドでもいいですが、ザッカー様にでも見せればそれなりの価格で買い取ってもらえるかと」

「そうなんだ。しかし虫に鳥など、餌として色々と捕まっている……おや、あれは?」


 ララのひそひそ進言に頷いたクーは、蜘蛛の巣を採集しようとした矢先、あるものが目に入る。


「ううっ……」


 呻くそれは小さな人。薄透明な羽を背中に宿した、手のひらほどのサイズでしかない、確かなヒト。──妖精だった。


「うわぁ、妖精、妖精だよ! クー君、あれ妖精だよねこれ! あたし初めて見たよ!」

「どうやら巣に引っかかったらしいな。あわや大蜘蛛に食される間近といった所か……ククッ、お互いに運が良いな」

 

 クーは笑う。ただしその目は先ほどまでと違い、妖精を見る目に少しの欲を宿してしまいながら。


(妖精。この世界に存在する希少種。ギンガロウ曰く、『魔出』の物質化。表では尊重や保護の対象だがその一方、裏では愛玩や魔法実験などの用途を以て高値で取り引きされる。個体にこそよるが、それこそ一体で学費の半分稼げる可能性さえあるほど。性別こそないらしいが、あれのように女体であれば高い部類だろうな)


 クーはそこまで考えた末、金でしか考えていない内心に気付き、自らのゲスさを心の中で嘲笑う。


「ククッ、まさに金の成る実。崖っぷちな俺へ天が施しと、出来たタイミング過ぎて疑ってしまうな」


 クツクツと半ば自嘲のように笑いながら、クーは指を立たせながら、びしっと手を振り上げる。


「天よ(デヴァ)、斬り払え(プラミカ)。悪いな天よ、それは俺の趣味ではない。このクー、誰かを売った金で通った所で気持ち良くなれるなどと思い上がれないとも」


 風の刃が蜘蛛の巣を引き千切り、ヒラヒラと落ちる妖精を、今度は風が優しく抱き留める。

 

「テンノチカラ、ニンゲン……?」

「そうだとも。運が良かったな、妖精よ」


 目を覚まし、自らの羽根で飛び上がった妖精はクーとルルラルル──ではなく、後ろに立つララへと不快そうに意識を向ける。


「……クサイ。フカイナニオイ。オマエ、ドウゾクゴロシダナ?」


 妖精の問いにララはほんの一瞬、珍しくピクリと反応しながらも、すぐに完全な平静を取り戻す。


「ララ?」

「……ええ。嘘も否定もしません。ララめは一度、確かにこの手で殺めました。それは確かです」


 顔を上げ、妖精を見据えながらはっきりとララは言葉に出す。偽ることなく、自らの罪を。


「……オマエキライ。オマエ、スキダケドキライ? ──オマエスキ、エイユウノタマゴ、ギュー」

「え、あたし? えー嬉しいなー! あっははー!」


 妖精はララを毛嫌い、クーへ首を傾げ、そしてララの確かにある胸へと笑顔で飛び込む。


(好きだけど嫌い……? どういうこと……?)


 尊い光景をみせる二人をよそに、クーは妖精のよく分からない所感へ素直に困惑していた。


「オレイアゲル。シレンキョウ、フタリ、タノシンデキテ」

「お礼……?」


 妖精がそう呟いた瞬間、クーとルルラルルの足下の地面が木の扉へと置き換わってしまう。


「っ、クー様っ!!」


 真っ先に気付いたララが手を伸ばすも既に手遅れ。クーとルルラルルは開かれた扉に吸い込まれるように落ち、ララの手が虚空を切るばかりだった。

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