オチつかないお茶会
『キャロラインズブートキャンプ』(笑)です。でもキャロラインもどこかズレている。
少し遅れました。
最近また眠気に負けてます……。
「ここが、プレートの町……」
少年は体に似合わぬ大荷物を持って、プレートの町の門とは言えない入り口に立っていた。
翠色の大きな目を自身の手に持つ紙へと落とす。
「あの噂って、本当なのかな……?」
ブルリと体を震わせて、それでも用事のために町へと足を踏み出す。
「『ガラム』さんかぁ……。怖い人じゃなければいいんだけど……」
本日、屋敷のサンルームでは小さなお茶会が開かれていた。
サンルームは1階にあり食堂とはエントランスを挟んで反対側に存在し、食堂とは違い『乙女の涙』よりも『葉霧の森』と屋敷の庭が一望出来るような造りになっている。
ただし現在は、その庭もまだ荒れており野性味溢れる趣だ。
そして窓からギリギリ見えないところに自称ただの執事の畑が存在する。言わなければ判らないだろうが。
床は観葉植物が入れられる事を想定しているのだろう柔らかい風合いのタイルが張られている。
その中央には丸テーブルが1卓、椅子が4脚。
揃いのそれは天板と座面が同じ白地に色とりどりの花々が散りばめられ、周りの景観に邪魔にならない程度の彩りを添えている。
また流れるような曲線を描く脚は、華奢でありながら安定して使用者を受け止めている。
絶対お高い、とルミは思った。
そう、このお茶会の参加者は、おてんば娘ルミと一目で判るどこぞのご令嬢キャロラインの2人である。
壁際に給仕のためかビフレットが、いつもの通り穏やかに微笑みながら立っているが。
これは前王弟曰く『キャロラインズ ブートキャンプ』の一貫である。
以前『葉霧の森』に子供だけ、かつ無断で入って周りに多大な心配と迷惑をかけたため、企画されたものだった。
キャロラインの言う事には「ルミには座学よりも実践の方が良いでしょう」だそうで、実践方式が採り入れられている。
立ち方、座り方から入り、歩き方、物の上げ下げまで、結構みっちり指導しているようだ。
最終日には立食パーティー形式の指導も予定されている。
「時間が足りませんわ」との事。
本日は今まで習った事の確認のためと、「誘われないとは言い切れなくってよ?」という謎の言葉のために、お茶会と相成った訳である。
ルミは「誘われるって、誰に!?」と内心大嵐のようだが。
入室の段階ですでに3回はダメ出しをされているルミが、テーブルに突っ伏したくなるのを我慢して、お茶を飲みつつ目の前の蒼髪の令嬢を見る。
紅茶のホッとするようないい匂いとテーブルの上、蔦模様の描かれた皿、この為に作られたのだろう可愛らしい細工のお菓子たち。
その向こうに美しい所作でカップを持ち上げる彼女。
サンルームに差し込む陽光を受けて髪は艶めき、鮮やかな青に見える。少し伏せられた夕焼け色の目は憂いを帯び、メガネを通して見ても整った顔立ちだという事が判る。
何だか遠い所にいる人なんだ、と思わせる雰囲気があった。
「ルミ」
そんな彼女が少女の名前を呼んだ。
「は、はいっ!」
思わず伸びているはずの背筋を更に伸ばして答える。
その動作に首を傾げた令嬢だったが、気にしない事にしたらしい。
「貴方のお父様は、領地軍におられるのでしたわね」
お茶会には情報戦が付き物。本日はそこまでやるつもりは無いだろうが、キャロラインは話題を提供したらしかった。
「はい、そうです」
彼女は素直に答えた。隠しようもない事実だから。
「お会いした事はありませんが、元気でいらっしゃるの?」
「この前、手紙が届きまして、元気でやっていると書いてありました」
ちゃんと言葉も砕けた言葉ではなくて、丁寧に話せているだろうか?
キャロラインとしては言葉の指導もしたいが、ルミならば使い道が限られるだろうし、1週間は短すぎるので砕けすぎてなければ目を瞑っている。
「イノシシの魔物が出たそうで、討伐した事も書かれていた、いましたよ」
「イノシシですか。最近、農作物への被害が多いらしいですわね」
この領地の報告書を読んだ事を思い出し、キャロラインは顎に指を添える。
「そうなんですか。何かガライ……さんなら捕ってきて食べたいって言い出しそう、ですよね」
「……まあ、間違っていませんが、その話題に持っていくのは頂けませんわ」
普通の会話だったのなら、「しし肉は栄養豊富ですからね」とか返したであろうが、今は淑女講習中である。
社交界であったのなら品位を問われる事になるだろう。
イノシシの話題もどうかと思うが。
「それと、ガライの事は名前で呼んではなりません」
「俺は気にしないけどなぁ」
サンルームの入り口から声がした。そちらを見ると赤銅色の髪の偉丈夫が自称ただの執事に誘われ、部屋へと入ってくるところだった。
金色の目がこちらに向けられる。
「社交デビューするわけじゃないんだ。そこのところは大目に見てもいいんじゃないか?」
その言葉にキャロラインは少し考えてから、頷く。
「そうですわね。ルミにしてみれば、ただの『ムキムキなオッサン』でしかないのですから」
「そこは『ムキムキ』だけにしとこうぜ」
「『オッサン』と言われた事を否定しないのですか、貴方は」
「だってルミから見たら間違いないし」
「つまりわたくしも『オバサン』と?」
その問いには、にっこりと笑うだけで答えなかった。女性に年齢の話はNGなのだ。
「それより」
ビフレットが引いた席についたガライが、手に持っていた袋を机に置いた。
「何ですか、それは」
今日の講習は終わりっぽいなぁ、とルミは思いながら、その袋を見る。
「毟ってきたやつ」
「むしっ!?」
ガライが袋を開け、中身を取り出す。
それは色とりどりの羽根。ただ普通の鳥にしては随分大きい。
「もしかしてペリュトンの羽根ですか?」
そのまま後ろに控えていたビフレットが、机の上を覗き込みながら言う。
「うん。色とりどりだったから、記念に」
「何の記念ですか、何の」
キャロラインはそう言いながらも羽根を1枚手に取る。それは黄色い羽根で、手の中でくるくると回される。
「この大きさで天然物。需要はありそうですわね」
「私はあれを思い出したよ。ほら、『黄色い羽根の共同基金』」
ビフレットが小首を傾げながら記憶を辿る。
「ああ、あったな。そういうの」
そうガライが頷けば、
「基金を募らなくても貴族なら寄付が当たり前という事で、黄色い羽根が夜会に散っておりましたわね」
と、キャロラインが当時を思い出す。
当時、孤児院の資金繰りが芳しくないとか何とかで、一部の下級貴族が騒いでいたはずだ。
普通に国へ窮状を申告すればいいと思ったが、何処かでピンハネをしたバカがいたのか信用されなかったらしい。ちょっとした騒ぎに発展した。
ちなみに何を思って黄色い羽根を象徴としたのかは謎である。
「一応、あれはあれで意識改革としては成功していたよな。寄付の金額が増えたって兄上が言ってた」
兄上=前王である。
「そうなんですか」
「アニキ、1本もらっていい?」
大きな羽根であろうが彩り豊かなそれは、彼女には魅力的に映ったらしい。ルミはどれがいいか視線をさ迷わせながら、ガライに尋ねる。
彼女のガライの呼び方はラジーに影響されたのか『アニキ』呼びである。
「いいぞー。オススメは孔雀の羽根」
「扱いに困りそうですわね」
普通のものよりも大きいそれは、当然先端の目玉模様も大きい。ちょっと怖い。
「でも、孔雀って南の国にしかいないと聞きますよ」
「羽根は入って来るんだがなぁ」
「でもコレ、あの魔物の羽根なんでしょ?」
ルミがその孔雀の羽根をびょーんとしながら言った。
「そうなんだよな」
「逆に魔力が溜まっていて、本来のものより価値が出そうですけどね」
「キャロ……、価値だけじゃない。思い出はプライスレス!」
「その思い出は町が狙われたという思い出ですが」
『カツン、カツン、カツン』
何処かでドアのノッカーを鳴らす音が聞こえてきた。
「おや、来客のようです。見て参りますね」
その音にすぐに反応を示した自称執事が席に着く者たちに一礼をしてから、部屋を出ていく。
「これって何でここまで音が聞こえるの? さっきの、玄関のやつでしょ?」
ルミが不思議そうに扉の方を見ながら尋ねる。
ここは一階と言えども、屋敷と呼ばれるくらいには大きな建物の端の方で、玄関ホールからは割と離れている。そんな所のノッカーの音が普通なら聞こえるはずはない。
「大きな家にはよくあるものなのですが、魔道具です」
キャロラインがネタバラシをする。
「ノッカーに仕掛けがあって、打たれるとその音を増幅して人に届けるのですわ」
「指定範囲にいないと聞こえないけどな。それより誰だろ?」
「来客予定も配達の予定もなかったはずですが……」
その頃、玄関に辿り着いた自称執事はそこにいた人物と対峙していた。
「あ、あの……! 『ガラム』さんはいらっしゃいますか……!?」
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