湖畔のお屋敷と一般の感覚
玄関先の攻防(?)とサンルームの人々。
一般人の感覚からすると、こうなる。
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ご愛顧下さり、有り難うございます。
キャロラインがお茶会に誘ってくれそうです。
町の人に尋ねつつ来た、その人物がいるらしい場所は明らかにお屋敷だった。
その見上げるような(彼の背が小さいせいでもある)大きな門と奥に鎮座する年季の入った邸宅。庭は少し荒れているが、高貴な人物が住んでいると想像に難くない。
思わず、え?合ってるよね!? と手元の紙と屋敷を見比べてしまった。そして、ポカンともう一度見上げる。
何か、家を間違っていたら怒られるどころじゃない場所である。
おとなの常識っぽいものに苛まれる彼の目には、その庭で遊んでいる子供たちの姿は入っていないようだった。
彼らは勝手知ったる友達の家、ウサミミフードの子供やかっこつけのその兄がいなくても、庭なら自由に入ってもいい事を判っているのだ。
その対比は遠目に見ると、遊びたいのに友達の輪に入れない子供にしか見えなかった。
やがて意を決したのか、彼はやたらキリッとした表情で門を開け中に入る。
そして玄関まで行き、ドアに付いたノッカーを打つ。
『カツン カツン カツン』
その音を聞いて、また現実に戻ったのか「やってしまったぁぁぁっ」とばかりに頭を抱えた。
間違っていたらどうしよう、コンコンダッシュするのも失礼だし……、と思う事数分。
かちゃ、と僅かな音を立ててドアが開かれた。
かくして、その隙間から顔を覗かせたのは、まさしく王子様だった。
光輝くようなその相貌が少しさまよった後、視線を下、つまり彼に向けられる。にこりと微笑めば後光が差すようである。
うわっ、まぶしっ、と思わず顔を逸らしてしまう彼。
取りようによっては失礼なその態度にも、相手はよくある事なのか苦笑を漏らしているだけだ。
落ち着くであろう平均タイムであるらしい、程よい間を置いて相手は彼に話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。何かご用でしょうか?」
それに「ひ、ひゃい!」と変な声を上げて後ずさった。そして正気に戻る。
「あ、す、すみません」
「いえ、慣れておりますので」
本当に慣れているらしいその人物は、何ともないように答えた。実際はちょっと落ち込んでいたりするが。
「え、ええっと、僕は、冒険者ギルドかりゃ、は、派遣されたんですけど」
言葉をかみかみながらもそう言って、手に持ったままだった紙を見せるように差し出す。
「あ、あの……! 『ガラム』さんはいらっしゃいますか……!?」
それに一通り目を通した見た目王子様は、パアッっという効果音が付きそうな程、顔を綻ばせた。
「主から話は聞いております。どうぞお入り下さい」
そんな事言われても、王子様スマイルが眩しすぎて、すぐに行動に移せるわけがなかった。
そんな美中年の後ろを「何やってんの」と執事見習いが通りかかったのにも気付かないまま。
「あ、レイニオ、お客様です。お茶の用意を」
そのキラキラする笑顔で察したのだろう。黒髪の少年は少し顔をしかめた後、溜め息をつく代わりに首を振った。
「……あー、3人……いや4人分だね。案内はしておくからアニキ呼びに行って」
何故か1つ分増えたお茶のカップ数に首を傾げたが、自分がいると話が進まないだろうという事は判ったので、素直に頷く自称ただの執事。
「はい。それでは主を呼んできますので、少々お待下さい」
そう来客に対し一礼してから、主たちのいるサンルームへと歩き去っていった。
『義母さん、来客。お茶4人分お願い』
その間に魔法で通信を送る執事見習い。
返事が来たようで、すぐに来客に向き直る。
美中年が屋敷の奥へ歩いていくのを呆然と見送っていた彼は、レイニオのその視線にようやく目の前の少年に焦点を合わせた。彼にしてみれば、いつの間にか瞬間移動してきたように思える。
「それでは応接室にご案内致します。主を呼びに行かせていますので、しばらくお待たせ致します」
「あ、はい」
視線がようやく自分と同じくらいの高さになったからか、貴族オーラがなくなったからか、反応が返ってくるようになる。
黒髪の少年が、どんなに真面目に執事の仕事をしようと、彼を知っている人からしたら違和感がある改まった言葉使いをしようと、美中年の王子様スマイルが全て持っていってしまうのであった。
調度品は無いものの洗練された雰囲気の廊下を、キョロキョロと見回す彼。そんな彼を一瞥するだけで、無言のまま案内する執事見習い。どちらが年上か判らない状態で辿り着いた(そんなに距離があるわけではないが、彼にはかなり長く感じた)応接室。
踏み入れたその室内の豪華さに、思わず引っ越ししてきたばかりの猫のような反応をしている彼に、「こちらでしばらくお待ち下さい」とだけ伝えて黒髪の少年はさっさ部屋を出ていった。
それに「え?どうしろと?」と瞬時に反応した彼だったが、問うべき相手の方が行動が早い。豪華な部屋にぽつんと1人取り残された。
照明器具はキラキラしていて、カーペットはフカフカしていて、ソファはフワフワしていそう。
余りの事に語彙力が低下している彼は、そのフワフワしていそうなソファに座っていいものかソワソワしながら、彼らのいう『主』を待つ事になるのだった。
ガライがお茶を飲むのを、ルミはじっと見ていた。
ガライは相変わらず静かにお茶を喫する。カップの上げ下げ、傾け飲む時、戻す時。
普段のイメージとは異なる優雅な動作に、嫌でも貴族であると認識させられる。
隣に何故か色とりどりの羽根が串刺しになっている花瓶とまだ沢山入っている袋が置いてあろうが、蒼髪の令嬢と落ち着いて話をしているだけで、そこだけ雅な空間になったかのようだった。
キャロラインが「ガライの動作を見ているだけで勉強になりますわよ」と言ったのがよく判る。
流石、幼少時からお茶会強制参加な身分。
ちなみに話題は『山で遭難した時の対処法』。
何故その話題になったのか、そもそも山に行く予定なんてあるのか、ルミは会話を聞きながら内心ツッコミの嵐である。
そんな3人の元に自称ただの執事が帰ってきた。
やたらキラッキラした笑顔で。
ルミは思わず目を逸らした。直視したら目が潰れる、多分。
「若様が言ってらした冒険者ギルドの方がいらっしゃいましたよ!」
彼の中での期待値の大きさが判るキラキラ具合である。そんなビフレットに構わず、ガライも嬉しそうに応じる。
「前に頼んでおいた『薬草採取の講習』をしてくれる人だな」
「ええ、そうです。待ちわびましたよ!」
そう、それはターリックの町の冒険者ギルドで登録した際、ギルド長たちに頼んでおいた事柄である。
講習を望んだガライだけでなく、美中年まで嬉しそうなのは、よっぽど薬草の事について聞きたかったからなのだろう。
「参加する前に、ちゃんと断りを入れないといけませんわよ」
その様子にキャロラインが苦笑を漏らした。
「判ってる。人が増えるとやりにくいかもしれないからな」
「あの」
大人たちのやり取りを聞いていたルミが声を上げた。
「私も、参加していい?」
段々恥ずかしそうになりながら、彼女はムキムキを見上げた。
「薬草に興味があるのですか?」
ビフレットが優しく訪ねる。2人はその様子を見守っている。
「うん……。お母さんがちょっとでも元気になればいいなって」
ルミの母親のセラはよく体調を崩す。最近は万能薬草エメラブリの効用によって、恙無く過ごせているが、いつも苦しむ様子を見ていたルミにとっては、知っておきたいジャンルなのだろう。
そういえば、暇があったら料理人の所にも通っている節がある。
「いいと思うぞ!」
ガライはサムズアップと共に許可を出した。
「その方次第だと思いますが。まあ、2人も3人も同じでしょう」
キャロラインはそう言いながら立ち上がる。
「わたくしは遠慮させて頂きます。……きっと、そこのキラキラだけで許容量超えていると思いますから」
そこのキラキラ=美中年は『許容量』には触れず、納得いったように手を打った。
「だからレイニオは『4人分』と言ったんですね」
黒髪の少年にはキャロラインが参加しないのは間違いないとして、ルミが参加したがると判っていたのだろう。
レイニオが養母の領域である厨房にいるのも珍しい事ではないからだ。
美中年が参加するのは言わずもがな。
「ともかく待たせているのなら、早く行かないとな。応接室だな」
「……気が引けてなきゃいいけど、その人」
この中で唯一庶民である少女は、応接室の内装を思い出しながら心の中で同情した。
屋敷の管理を祖父について手伝っていたので、その部屋がどんな部屋かはよく知っている。
重厚というか、部屋自体が威圧を放っているというか、とにかく偉い人が使うんだろうなーという雰囲気の部屋だ。
よっぽど鋼メンタルか慣れていないと、その部屋で落ち着けるはずなんてない、と彼女は思っている。そして当たっている。
それが判らないらしいロイヤルな筋肉ダルマ他2人。
普通に「今度はハーブの入ったお茶がいいですね」とか「豆茶っていうものがあるらしい。豆乳の親戚かな」などと言い合いながら、羽根の入った袋を持って移動を始めた。
花瓶の方は置いていくらしい。
「それではルミ、この分は後日補填致しますわね?」
優雅に微笑んだ令嬢がその後に続く。
この分……、淑女講習の事だ。
意図しない用事なんだから大目に見てほしい、と思いながら、彼女もまた借りる予定の羽根を持って応接室へと急いだ。
なお、走ってはいない。
教わった通りの『急いでいる時も何でもないように見せる早歩き(名付けキャロライン)』を使ってである。
この場合、ルミが一番冷静な気がしてくる不思議。
レイニオは平常運転だなぁとか、アニキ、羽根1本分けてくれ!とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。




