名誉のために黙ってて!
ペリュトン戦の後と屋敷に帰って来てから話し合い前半です。
あれ、予定になかったものが増えてる……。
どこまで入れようか悩みました。
人数分の紅茶(今回は豆乳は無し)とソイソイビーンズのお茶菓子を囲み、彼らは席に着いている。
その中で蒼髪の令嬢がメガネを正しながら、事の一部始終を報告し終えた。
「だから、おもてなし致しますわ! 新住人ゲットのために!」
冒険者のカードには、魔物の討伐数を記録する機能があるらしい。
ペリュトンの立派な角を根元からへし折っているバジークを尻目に、ステイクが教えてくれた。
事の発端は、ペリュトンの討伐が終わった後、現場の惨状を見回して「これって、魔物がいっぱいいると、討伐証明部位の回収って難しくない?」とガライが溢した事だった。
ペリュトンの風の魔法により木々はズタズタ、ラジーの魔法で地面は乱れ、さらにムキムキの強化もりもりの殴り付けなどによる衝撃で地面が陥没している。
つまり、知らない人が見れば、踏み込むのを躊躇うくらいの荒れ地が出来上がっていた。
ついでに言うと、原因の一端であるお子様は、あの後すぐに寝てしまっているため、戻そうにも戻せない状況である。
それを聞き留めたキツネ目の冒険者が、先輩らしく冒険者カードの機能を説明してくれた。
こうして魔物の部位を取るのは、何かと需要があるからだという。三つ目熊の爪やこのペリュトンの角は薬効があるとの事。もちろん、鋭利だったり強固だったりするため、薬以外の他の使い方だってあるだろう。
「つまり、持って帰れる分だけ持って帰れれば、その分稼ぎが増えるって訳っす」
相変わらず、敬語なのか判らない語尾のステイクが1匹の角を持ち、付け根に短刀を当てると、カンっと乾いた音がして角が取れた。
「取るか取らないかは自由って事なんだな」
「まあ? 普通は勿体無いし持って帰ります」
今回、17匹分。つまり34本。
普通の鹿より大きいそれは結構な荷物になりそうだ。
「それに、このペリュトンたちはギルドから討伐依頼も出ているっす。その分もあるけど、移動の費用を考えると儲けは少なそうだなぁ」
何せ彼らは、魔物を追って国の反対側からこの田舎まで移動してきたのだから、旅慣れているとはいえ長旅だったのだろう。
準備にも費用がかかっているはずだ。
バジークはそういう事、気にしなさそうではあるが。
「途中で他の魔物も狩ってるんだ、文句言うな」
その相棒が、取ってきた角を肩に担いで戻ってくる。
彼らは討伐専門の冒険者。魔物が発生する限り、いくらでも稼ぎ口があるのだろう。
「それにオレは宵越しの金は持たねぇ事に決めてんだ!」
「自慢にならないでしょ、ソレ」
はぁぁ、とステイクが溜め息を付いた。判ってはいるが、苦労しているようだ。
「それじゃあ、この羽根とかは使わないんだ?」
そう言ってガライが拾ったのは、ステイクが角を取った魔物から抜けた羽根だった。
ペリュトンは、鹿の部分は大半において本来の鹿と同じ様に茶色系の色のだった(たまに白っぽいのもいた)が、鳥の部分は鷹や鷲を筆頭に、カラス、スズメと続き、果てには孔雀やコンゴウインコがいるほどバラエティー豊かだったのだ。
獲物に畏怖を与えるためだろうか?
ちなみに今持っているのはカナリアだろう黄色い羽根である。
「大体は討伐証明部位だけ取って、焼くか埋めるか放置だな」
バジークが持ってきていたロープで角を一纏めにしながら答えた。
放置は、一定期間過ぎると魔物の中の魔素が放出され、遺体は残らないというものだ。グロテスクな場合があるため、あまり推奨されていない。冒険者だけでなく騎兵団でもそう教わる。
「綺麗だし、あまり見ないのもあるから、ちょっと拾って帰ろう」
ちょっとしたお土産気分でガライは珍しい羽根を拾い始めた。
この時は、本当にちょっとした気紛れだったのだ。
冒険者2人を誘って、屋敷に帰って来たガライたちは、門の前でキャロラインたちと鉢合わせした。
「おかえりなさい、ガライ、ルド、ステンさん」
門を開けている自称執事の隣で、彼女は振り向いた。
「ただいま。出掛けていたのか?」
事情は察しているだろうに、ガライは素知らぬ顔でそう幼馴染みに問う。
「ええ。町の見回りを少し。後で話をしますわ」
問われたキャロラインも、澄まし顔でそう応じた。そうして、視線は見慣れない人物へ。
「貴方がバジーク様の相棒ですわね? 余りおもてなし出来ませんが、中へどうぞ」
そう話を向けられてビシリと固まるステイク。どうやら相棒と同じ事を思っているようだ。
つまり『めっちゃ貴族じゃねぇかあぁぁ!』である。
キャロラインも普段は見るからにどこぞのご令嬢然としているので、話し掛けられるだけでも緊張してしまうものなのだろう。
「茶くらい出すよ」
その後ろからチヤが口を出さなければ、固まったままだったはずだ。
「な、何これ……」
思わず声に出したそれに、ジャガルドが首を振る。
「うちでは普通の事だ、諦めろ」
視線の先ではガライとキャロラインが話の擦り合わせなのか、話をしながら屋敷に入っていく。
外見はそうとは思えないが、ロイヤルな男と明らかに貴族なご令嬢。屋敷も2割は豪華に見える。
ジャガルドは言う事だけ言って、「えぇー……」と情けない声を上げる男を放置して、幼馴染みたちの後に続いた。
ムキムキが3人もいるのはともかく、人数が人数なので、話し合いはまた食堂で行われる事になった。
チヤとビフレットが全員にお茶を配り、ようやくキャロラインは口を開いた。
「それで、ガライ? 怪我していますわよね?」
「ぎくーっ」
「もっとマシな返ししろよ……」
バレると判っていたのか、ガライが口で驚愕を表せば、呆れた顔のジャガルドがツッコミを入れる。
「いや、キャロがこういうトコ鋭いのは、今に始まった事じゃないし」
あっけらかんと返せば、キャロラインが額に手を当てる。
彼女はちょっとした変化でも臣下として見過ごせないとチェックを欠かさないだけで、鋭い訳ではないのだ。
「そんな事言っていたら、気配を察知して暴走馬車が突っ込んで来ますわよ……」
「ん? ここって交通量多くないから大丈夫だ」
意表返しに言ってみたが、本人には伝わらなかった。
しかし、そのやり取りを聞いていたジャガルドは何となく判った。きっとその馬車はピンク色をしているのだろうと。
「それはともかく、ペリュトンはこっちに来ただろう1匹を入れて全部で17匹だった」
「こちらに来たものは倒させて頂きました。思ったよりも多かったですわね。こういう大きな群れで襲ってくる事は、他の魔物でもよくある事なのですか?」
ガライが本題に入ったところで、キャロラインは討伐特化の冒険者に話を向けた。
「余りねぇな。群れで発生するやつはその限りじゃねぇが」
まだ緊張しているらしい相棒の代わりに、バジークが答えた。彼は豆乳が出て来なかった事に、少し残念そうにしている。
「ペリュトンはな、群れで狩りをする奴らだ。数はある意味脅威って事を知っている。普通の魔物だとあまり無いんだが、魔法も協力してバシバシ使ってきた」
「で、予想外の魔法を至近距離で受けて、叩き付けられたって訳」
ガライが怪我の経緯を簡潔に言いつつ、肩を竦める。
「まあ、無事で何よりですわ」
乱戦だった事は予想に難くなかったので、キャロラインは素直にそう思った事を口にした。
「で、そっちは?」
ガライが少し笑いながらも、平然と話題を変えた。
門の前で「町の見回りに行ってきた」としか言っていないにも関わらず、何かあったんだろう?と言わんばかりの問い掛け。
その言葉にキャロラインは、自分たちがやっていた事が大体知られている事を悟った。
「町の外に不審な馬車が停まっていたので、そちらの確認に行っていたのです」
彼女は一先ず、当たり障りの無い事を告げた。
前王弟の手を煩わせる必要は無いと言わんばかりに。
「へぇ、こんな時に町の外にか」
「ええ。レイニオから報告があったので確認に行ったところ、人攫いの団体のようで襲いかかってきましたわ」
そのキャロラインの言葉で、ガライはようやく、彼女たちが何を隠したがっていたのか判った。
「危険はなかったか?」
「あら、わたくしたちだって、貴方たち程ではありませんが、戦う術はありましてよ」
「とか言いながら、結局、僕とお義母さんが倒していたような」
「そこは黙っとくもんだよ、レイニオ」
ヒソヒソと囁き合う義理の親子。
「丁度いいタイミングでペリュトンが奴らの1人を襲った事以外は、何事もありませんでした」
「まあ、いいじゃないか。弱い個体だったんだから」
まだあのペリュトンを弱いと言っているが、『ペリュトンの中で』と但し書きが付く。
レイニオが倒せたのは、人攫いの男しか目に入っていなかった事と、ガライとの空中ランデブーの末、疲労していたからだ。
それを思い半眼になる黒髪の少年を見ない振りして、ガライは気付かれないように、その隣にいる自称執事を見る。すでに落ち着いているのか、普段と変わりないように見えた。
まあ、悟られるような事はしないだろうと、またキャロラインに意識を向ける。
「彼らを捕縛後、馬車を改めたのですが、荷台が鉄格子に被われて男女数人が囚われておりました」
「その人間を使って、ペリュトンを誘導していたんだろうな」
「ああ、進路が直線的でしたものね」
彼女の報告に自分の考えを添えれば、彼女も納得したように頷いた。
「中に魔物避けと、魔物寄せも積んでいました。誘導のためというのなら頷けます」
「あの人たち、怯えきってて話にならなかったんだよね。『魔物が襲ってくる』って言うばかりでさ」
馬車の中を調べたビフレットがそれで判った事を口にすると、横のレイニオも追従する。
「何度か外部からの接触があったようです。その時に何名か連れ出された、と。恐らく人攫いの元締めか得意先なのでしょう」
令嬢が何とか聞けた情報を開示すると、前王弟は渋い顔をした。
「こんな大掛かりな人攫いだ。絶対、貴族とか絡んでいるじゃないか」
「大商人という線もありますが」
キャロラインが候補をさらりと増やす。しかし、それにガライは首を振った。
「いや、貴族だな。厄介な予感がビシビシする」
ガライの予感はよく当たる、それを知っている頭脳担当たちが顔を見合わせた。
「こういう場合、考えられるのは『あの方』ですわね」
「そうだね。深入りしない方がいいかもしれない」
「流石『下品』極まりないねぇ。人の売買なんて」
「影響力有りすぎ。もう動いているかもよ?」
レイニオの言葉は、隠密の人間がこちらを探り出そうとしているのではないか、という危惧のものだ。
視界の端のステイクが話の内容に「えっ、聞いてもいいものなの?これ」と言いたげに体を揺らしている。
「今は大丈夫じゃないか。バレていたら、こっちに圧力がかかっているはずだ」
「ガライ、お前、逃亡犯か何かか?」
話を聞いていたバジークが真剣な顔をして聞いてくる。
話だけ聞けばそういう感想も抱くだろう。
それにガライはカラリと笑った。
「俺、盛大な家出してるトコなの」
タイトルは誰の言葉かは、あえて言いません。
レイニオ辺りは「別にいいじゃん」とか思っていそうです。
何故か話し合いが続いちゃいます。本当に何故なんだ……。
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