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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
森からの来訪者編:森の跋渉は大腿四頭筋の鍛錬
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強者はネズミでも全力で狩りに行く、気がする

ペリュトン戦……というよりペリュトンについての話し合い。


2022年11月17日

またランキングにちょっとだけ入る事が出来ました。有り難うございます。



 空を飛ぶペリュトンたちを地に落とし、残るは『きんぐ の おうち』と書かれた土壁の中のものだけになった時、男たちはようやく、そのペリュトンに向き合った。


すでに意識は取り戻し、ぎゅおぎゅお騒いでいるが、ラジーの土の魔法で脚は拘束され、魔法を使おうとすれば、これまたラジーの火の魔法で相殺されている。今もまた相殺されているであろう赤い火花が一瞬宙に現れ、ぱちんと音を立てて消えた。


「で、捕まえたのはいいが、どうするつもりだ」

ジャガルドが腕を組んで幼馴染みに聞いた。


「四の五の言わずに、一思いにやっちまった方が楽だぞ」

バジークが『おうち』をじーっと見ながら討伐優先の冒険者らしい意見を言う。

それにガライは「それもそうだけど」と同意しながらも、目線をウサミミフードの子供に合わせる。


「ラジー、何って思ってるか解る?」


マルゴール族は森の部族。そのラジー曰く『いっぱい聞こえる耳』で鳴き声のちょっとした違いを聞き分け、ある程度の野生動物の感情が解るらしい。

部族の中にはそうやって森の動物をパートナーにしている者もいると聞いている。


そして、この子供は『調教師見習い』。

王宮にいる本職から、遊び半分でいろいろ教えてもらっている立場なのだ。


「あのね、このコ、かなしいおこってる」


何やら新語を作り出しながら、ラジーはペリュトンから読み取った気持ちを伝えた。


「きっと、おなか、すいてる」


そういえば、ちょっとお腹空いたなー、と誰とは言わないが思った。


「ラジーたちに、ごはん、とられた?から」


そんな感情を呼び起こしているとは知らず、ラジーは言葉を選びつつ続ける。


「多分、俺たちじゃなくて、他の人間に獲物を取られたんだろうな」


そう言いながら、ガライは屋敷を出る時に顔を合わせた自称執事の様子を思い出す。


社交で鍛えられている彼が無意識に表情を崩す事は余り無い。でもあの時、一瞬唇が戦慄(わなな)いた。それを意味する事は。


「くやしい、たべる」


このペリュトンはどうやら仕返し希望なのらしい。空を飛ぼうというのか、翼をばたつかせている。


「どういう意味なんっすか?」

ステイクが意味が判らず首を捻る。

確かに言葉だけ聞いても判らないだろう。


「ステイク。もしかしたら、このペリュトンたちと一緒に移動してきた人間が他にもいるのかもしれない」

それにガライは答えになっていない情報を返した。


「一緒に移動してきた人間っすか。……言われたら、そんな痕跡もあったっすけど」


彼とバジークもペリュトンを国境付近から追い掛けてきた人間である。その道中、不自然なそういう痕跡はいくつか見つけていた。


「確かに、奴らの進路上かつ一般的なキャンプ地からは離れていた場所での野営跡とかあったっすけど、過去に通った行商人のものとか引っ越しの移動かもしれないって無視してたっすよ。わざわざそんな場所を通る奇特な人間いるんっすか?」


「それが、いるっぽいんだよなぁ」


ステイクの正論にガライは苦笑した。

確かに、人を積極的に襲ってくる魔物に好き好んで近付く人間は、なかなかいないであろう。

「恐らくだが」と注釈をつけてから前王弟は考えている事を口に出し始めた。


「この群れ自体は自然発生なのだろう。でも、それに目を付けた団体がいた。そいつらは魔物を隠れ蓑に、自分たちのやる事を目立たないようにしている、って事じゃないかと思っている」


「こんなもんに便乗するような業種なんぞ限られているだろうが」


ジャガルドが、もったいぶらずさっさと言えとせっつく。


「人攫い、奴隷商。奴ら、ペリュトンが群れて人を襲うのを利用して、人をかっ拐っている。全てを魔物のせいにして」


「裏のやつらか。そんな事したら、自分たちが襲われるんじゃねえか」


ガライの結論にケチを付けたのはバジーク。しかし、それに反論したのはラジーだった。


「魔物がキライな草つかうと、魔物、ちかづかない」

「それと別のエサをちらつかせる、だな。おかしいと思わなかったか? ペリュトンが脇目も振らず、国土を直線的に移動した事に」


 ガライたちは屋敷でバジークからペリュトンの群れの進路を聞いていた。それは勿論、魔物の移動ルートを裏付けるためだったが、数ヶ所おかしな場所があったのだ。

それは大きな町が割と近い場所にあるにも関わらず、そちらに釣られずに素通りしていた、という場所。そして先程も述べた通り、人を襲う以外の目的も無いはずの魔物の群れにしてみれば異常とも取れる、まっすぐ国土を横断する進路。


明らかに外的要因が関わっている。


「これも想像の域でしかないが、何人かの人間を見える範囲に置いて誘導していたんだと思う」


「それが本当だとしたら、胸くそ悪いな」

ガライの説明にバジークが低く唸った。釣り餌にされた人間にとって、それはかなりの恐怖だっただろう。


「で、話を戻すと、このペリュトンは多分、その人間たちに食べようとした人間(エサ)を横取りされたんだろうな。都合が悪かったか、商品として価値があったのかは知らないけど」


「食事をしていないから弱いのか、弱いから横取りされたのか……」


人間が魔物の上前をはねる。それが、このペリュトンには許せなかったらしい。


「ここで、たおされるの、イヤ。そこに行くって、思ってる」


羽ばたきに合わせて起こる風にフードと前髪を煽られつつ、ラジーは魔物の様子を見ている。魔物は何がなんでもここから離脱してやるぞ、と意気込んでいる……ように見える。


「んー、俺はコイツを放してみようと思うんだけど」

「何言ってやがる、ガライ」


突拍子も無い事を言い始めた前王弟に、バジークは鋭くツッコミを入れた。隣のステイクもうんうんと頷いている。


「コイツは腐っても魔物だ! 弱かろうと!」


『弱い』の言葉にペリュトンが抗議するように鳴く。


「弱いからどうとでもなるだろ、1匹だし!」


擁護しているはずのガライも弱いを強調する。それに「きゅっ!?」と驚いた声を上げるペリュトン。


「弱いって言っても、町の人には充分脅威っすよ」


ステイクが眉をしかめつつ、話に加わる。羽ばたきの勢いが吹き返す。


「町には家から出ないように言ってあります。……逆に返り討ちにされそうな」


ステンが顎を擦りながらステイクに言う。

恐らく、留守番組の女性2人を思い浮かべたのだろう。「返り討ち!?」と言わんばかりにペリュトンは首をぐりんと巡らせる。


「……弱いから、むしろ料理されちまうかもな……」


ステンの言葉に、あー、と言いたげなジャガルドがポツリと言った。それにガライが大きく頷く。


「そうだな、うちの料理人にスパッとやられちゃうかも! 弱いから!」


ペリュトンが大地の拘束を破り、鳴き声を上げて空へと飛び出した。


きゅおぉおおおん!


その羽ばたきは自棄糞のように、やたら力強い。あっという間に高度を上げ、町の方へと飛び去っていく。


「よわくないもん、て」


ラジーが可愛く鳴き声を言葉に変換した。

この子供だけは魔物の様子をずっと窺っていて、その変化をつぶさに見ていたのだった。


ちなみに本ペリュトンは「弱くなんてねぇぇぇっ!」という勢いだったであろうが。


その飛んでいく後ろ姿を見送りつつ、ガライは(おもむろ)に宙に呼び掛けた。


「レイニオ、レイニオ。聞いてる?」


それを何だ?という様に眺めるだけの冒険者2人。事情を知らない人から見れば、奇怪な行動をしているだけである。


『こちら、レイニオ。アニキ、どうしたの?』


一対一の魔法なため、他の人には声が聞こえない。そのためジャガルドから仲間の風の魔法だという事が、2人に伝えられている。

そんな男たちを尻目に、ガライは屋敷にいるはずの黒髪の少年に要望を口に出す。


「みんなに伝えて欲しい。1匹ペリュトンをそっちに行かせるから、後は頼む」

『はぁ!? 何でそうなったの?』


いつもの言動で何故を問うたんだろうな、とジャガルドは、幼馴染みの微笑みから執事見習いの少年のリアクションを読み取る。


「ナイスファイトに敬意を表してってところかな! そっちの出来事に関係しているかもよ?」


弱い弱いと連呼していた割に敬意を表するんだ、とステイクは思った。空をロデオしている間に、何かが芽生えていたのかもしれない。


「ところどころ聞いていたんだろ? そういう事だから」

『ふぅん。『こっち』ね。オーケー、僕がちゃんと()()()しておくよ』


何か思うところがあったのか、含み笑いを残してレイニオの魔法が切れた。


やっぱり人攫いたち、もしくはそれに準ずるものが現れたのだろう、とガライは腕を組む。そして、自称執事が狙われているんだろうなー、と芋づる式に思う。


概ね当たっている。


「って事で、こっちであのペリュトン始末しておくから、心配しなくていいぞ」


冒険者2人に向き直り、サムズアップするムキムキ。


「あー、判った。任せるっす」

「ま、全滅が確認出来れば報酬もらえっし」

2人とも、やけにトーンダウンした答えが返ってきた。


「どうした? さっきまで断固反対って感じだったのに」

ガライも気になったのか、首を傾げる。


「うーん、何か大した事無い気がしてきた。弱い連呼してたら」

「ペリュトンって群れで狩りをするから、手強いんっすよねー。1匹だとそうでもない、かも?」


他の冒険者がいたら、正気に戻れ!と言われた事だろう。

群れだろうと1匹だろうと、魔物は魔物なのである。


「それよりも、アレを片付けようぜ」


アレ……、つまり『きんぐ の おうち』の中身の事である。今もびくともしていない。


「……こわしちゃうの?」


それを聞いて、制作者が悲しそうに『だいこんのおじちゃん』を見上げた。




 この後、説得を重ねたのだが、結局ラジーが魔法を解除したのは、ガライの「中に魔物がいたら、キングは怖がって入れないと思うぞ」という言葉がかけられてからであった。



Q.放した後のペリュトンが、逃亡を選んでいたら?


A.レイニオの仕事が増えただけで、追跡された事でしょう。

あと、あれだけ煽られたので、逃亡は考えられなかったはず。


そして、留守番組のペリュトン襲来に続く、と。

残りのペリュトンは一網打尽にされました。

前半の苦戦は一体なんだったのか……。


ウサギは地面に穴掘って生活するんだぜ!とか、冒険者2人、正気に戻って!?とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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