観光地の鹿は食べ物持ってると寄ってくる
戦闘前の作戦会議(?)から戦闘開始です。
ステンも無事合流出来ました。
みんな、ちゃんと真面目に考えているはずです。多分。
「ペリュトンってさ、鳥肉なのかな? 鹿肉なのかな?」
「食う気かよ」
遠目にその姿が確認出来る位置に着いた時、ガライがラジーを肩から下ろしながら呟いた。すぐ傍で聞いていたジャガルドが呆れた視線を送る。
「この前散々、鳥肉食っただろうが」
人食いの魔物というのは判っているが、からかい半分で言葉をかける。
「いや、流石に食べようとは思わないけどさ、何か気になって」
頭と脚は鹿で、胴体は鳥のペリュトン。
確かに気になる案件ではあるが。
「ラジーは、とり肉だと思う」
「オレは鹿だな。鳥よりも食べ応えがありそうだ」
「食べようとしないでよ? ホント」
「どうやら鳥の肉に少し鹿の旨味が追加されたかのような味わいらしい」
ラジーが小さく意見を言うのと、バジークが希望を言うのが重なった。それに対するステイクの愚痴、そして先程合流したステンの伝聞が葉霧の森のざわめきに消えていく。
ステンは屋敷から出た後、森へ入る用意と町への警告のため、一時的に自身の家へと帰っていたのだった。
レイニオの通信魔法によると、森の魔物を含む生物は普段より大人しくなっているらしい。
恐らくペリュトンのせいだろうと結論に達したため、それを利用し、こうして1人で自宅まで帰って、森をキャロラインの風の魔法と筋肉ダルマたちのつけた目印で進んできたのだ。
そして先程、先陣と無事合流を果たしたところである。
「ある意味、これ程平和な森はありはしないでしょうな」と後にステンは語っている。
「惜しいなー。鶏ガラベースの鹿風味ってところ?」
「むしろ鹿肉ダシで茹でた鳥肉じゃねぇ?」
ムキムキ2人がチヤに教わった料理知識で変な例えを出し合っている。
何故か肉ではなくスープになっているが。
「どうせ食べられないんだから、論じるだけ無駄でしょうに」
先程、ステンに自己紹介をしたステイクが「何言ってんだ」と言いたげに、後ろからボソリと呟いた。
「それよりも、どうすんっすか。これ以上近付くと、確実に襲ってくるっすよ」
そして話題を変えるべく、魔物たちを顎で指す。
木々の向こう、少し木が疎らになった場所に黒く塊のように群れが佇んでいるのが、かろうじて判る距離。時折羽を広げたりしているのか、塊は形を変える。
間違いなくペリュトンの群れだ。
ガライたちも本気で言っていた訳ではないので、すぐにその話し合いを始める。
「目視で15匹ってところか」
「残念、17匹。奥に2匹隠れてる」
ステイクが調べた情報を渡す。どれどれとバジークが見ているが、すぐに諦めた。
「ラジー、あいつらをビックリさせられる?」
ガライが下ろしたばかりの子供に問い掛ける。
「んー、……おねがいしたら、できるって」
ラジーのいう『お願い』とは、空気中に漂っているみんなに魔力を予め多めに渡しておく方法らしい。
「オレの方は、もう少し近付かないと無理だな」
ジャガルドが偽る事無く、自分の有効射程を申告する。
「バジークは除外だけど、ステイクは?」
「ボクは半分くらい距離を詰めないと」
深緑色の髪の男に尋ねると、そんな答えが。実際、それくらいの射程が普通である。
ラジーが規格外であるのは勿論の事、ジャガルドも魔力の低さをカバーするために魔法の鍛練を幼少から続けた結果、このような射程を手に入れていた。
「それから、視界は余り良くないけど、このままの方がいい?」
「オレはどっちでも構わんぞ」
再びのガライの問いにバジークが直ぐ様答える。
「広いところだと、囲まれる場合があるやもしれん」
ステンが慎重に意見を言う。
「このままで充分だろ」
長物が得物のジャガルドも頷いた。
「よし、じゃあ」
そう言って突然腰を屈めたガライ。
何をするんだ、という目線を送る冒険者2人。
そこにぴょいっと飛び乗る子ウサギ1匹。
持っていた紐でササッと固定する。
そして立ち上がる。
「行こうか」
「待てい」
そのまま歩き出すムキムキに、思わずツッコミを入れたステイク。
それもそのはず。前王弟が子ウサギをおんぶ紐でおんぶしている状態になったからだ。
「どうかしたか?」
心底不思議な顔をするな。
「何で魔物に突っ込んで行こうとするのに、おんぶなんっすか……」
ステイクはツッこまずにはいられなかったらしい。そもそもおんぶ紐なんて、何処から出てきたんだ……。
「えー、だって、チヤに言われたしー」
「1ばん、あんぜん」
当事者2人は当たり前のように言った。
チヤって誰だよ、と彼は叫びたくなったが、代わりに大きな溜め息をついて感情を逃す。
「一番苦労すんのはオレなんだよ……」
それを見て護衛兼幼馴染みはやれやれと首を振った。
慣れっこである。
「頼りにしてる、ルド」
「言っとけ」
そうして赤銅色の髪の男は、スッと遠くに見える魔物を見据えた。
「ラジー、お願い」
「ん」
その声と共に走り出す。
幼馴染みもピタリと続く。
ペリュトンの群れが、その乱入者に気が付いた。
それが人間だと判ると、一斉に行動に移り始める。
しかし走り出そうとしたものは、一瞬にして地面に足を取られた。
「キラキラおじさんが、やってたやつ」
ラジーの魔法だ。
土を柔らかくして脚を嵌め、再び固めたのだろう。
「畑耕す用か!」
ガライは納得した、といったように声を上げた。
「舌噛むぞ」
ジャガルドが槍に水を燻らせながら、子供に忠告する。
「ん」
それから口を閉じ、サッと指を飛んで逃れた個体に向ける。その頭上から突如石が落ちてきてペリュトンの頭に直撃。驚いた魔物は再び地面に降り、その地面に脚を囚われる。
「大体半数くらいだな」
槍から水のレーザーを飛ばしたジャガルドが目を細める。
地に脚を捕まれているものと運良く空へ舞い上がったものが、約半々に分かれている。
「上等じゃん!」
そう返したガライが、少し姿勢を低くした。その上を先鋒のペリュトンが通りすぎる。
地面を踏み締めた足に力を入れる。
「……行く!」
地面がひび割れた。
ドンッと踏み込んだ音を置き去りに、次の瞬間には、地面に囚われた魔物たちへと肉薄していた。
その中心へと突き刺さる拳。
そのまま地面に叩き付けられたそれは、周辺にクレーターを作る。
その反動で浮く体。
それすらも利用して上へと飛び上がる。その勢いで、まさに襲おうとしていた上空の1体を蹴り落とす。
「うわぁ、相変わらず滅茶苦茶」
ステイクは己の武器、本来刀剣で護拳と呼ばれる部分が刃になった、むしろ鎌の刃が逆さに付いているようなナイフを構えて走りながら、前方の初擊をそう評した。
「感心している場合じゃねぇぞ!」
その少し前を走るのは、抜き身の広刃の大剣を持つ相棒。
「私もまだまだ負けてられませんな」
流石にあのスピードには付いていけないステンも盾と長剣を構えている。そしてその盾を頭上に翳すと、ガツンと音がした。
ペリュトンの蹄が脚力を生かして振り下ろされた音だ。
受け止められた衝撃で一瞬止まった相手の翼に、ステイクが魔法で石礫を撃つ。飛ばすではなく、撃つである。
取るに足らないはずの大きさの石礫は、目に捉えられないほどのスピードで翼を撃ち抜き、魔物を地面へと叩き落とした。それをすかさず大剣を振り抜く事で一刀両断にするバジーク。
「おう、ジャンジャン落とせ!」
その言葉に何か言いたげにしたステイクだが、溜め息を1つついただけだった。今言っても無駄だ。
「ステンさんいてくれて、本当に助かる……」
その言葉は凄く実感が込められていた。非常識ムキムキどもの相手は1人では辛すぎる。
ステンはそちらを見ずに戦場を見据えたまま口の端を上げた。
「お役に立てたら何より」
そしてまた、新たに飛んでくる翼ある魔物を迎え撃った。
この前、某観光地に行った時に、鹿に手に持っていたお菓子を執拗に狙われたのは恐怖だったね!
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